考えすぎ




妙な犬と知り合った。藤代とか言うらしい。人の名前を省略する。タクタク言う。そして俺が藤代と呼べば、「いやいや誠二だろ」とさも当たり前な顔をして突っ込む。なんだあいつ。

「誠二くんって運動得意なんだって。すごいねー」
「ふうーん。まあ、それっぽい」
「竹巳は体育の成績、そんなによくないもんね」
「まあね」
「まあまあって感じだよね」
よりはいいけどね」

目立ちたくないから、セーブしてるんだよ。なんて護衛対象には言えない台詞だ。はふくれっ面になりながら、ランドセルを握りしめる。俺はそれを無視したまま、そういえば、と言葉をつづけた。

「好きな人にプレゼントをあげるとか、どうなったの? せい、藤代でごたごたしちゃったけど」

うっかり誠二と言いそうになった。何故だか悔しい。
はそんな俺に気付くことなく、ううん、とまたランドセルのひもを握りしめる。「どうしようかなーと」 俺はふーん、と頷き、「まあ急ぐことでもないんだろう」と訊いてみた。が無言で首を縦に振った。「じゃあ焦らずに決めたらいいんじゃない」「そうだねぇ」

こないだ刀がどうたらとか呟いていたけれど、妙なものはやめておけよ……と、言うのは心の中で我慢しておく。なんだかやる気が出ているようなところに水をかけるのはまずいだろう。

「竹巳、プレゼントプレゼントって、気になるの?」

ふと、が不思議そうな顔をして尋ねてきた。「え、別に?」と答えた後で、自分自身考えてみる。が好きだと言っている人間に本当に興味がないのだろうか。どうでもいいかなぁー、と思う反面、そんなことないかもしれないな、とも思った。この子は俺の護衛対象である以前に、幼馴染なのだ。そりゃあ気になるのかもしれない。とも思う。なので改めて言いなおした。

「うん。気になるかも」
「そっかぁ」

淡泊だ。
けど幼馴染なんてこんなものだ。

しばらくぽてぽてと歩いた後、は「ねぇねぇ」とまた話しかけてきた。「竹巳だったら、何が欲しい?」 ついこの間、デパートで聞いた言葉だ。あのあと、せい、……藤代が来たものだから、その場はお開きになったけれど。

俺はううん、と何を言おうか熟考した。そうしての顔を覗き込んだ。

、こないだも聞いてたけど、俺に訊いても仕方がないと思うよ」
「なんで?」
「だって俺はが渡したい相手がわからないし。性別が同じったって、それくらいだろ」

は大きな目をきゅっと見開いて、「なるほど」と頷く。そしてその口で、「うん。竹巳、何欲しい?」「……今納得しなかった?」

うん。したね。とは肯定した。けれどもすぐに、「うんでも、竹巳に訊いた方がいいかなって」「……なんで?」「……なんでだろう」 それきりは押し黙った。なりの考えがあるのかもしれないけれど、それが自分自身にも何か分かっていない顔だ。とりあえず今は考え中なのだろう。そっとしといた方がいいかな、と思って、俺は学校からの帰路に、そしてのボディガードに専念することにした。





とりあえず私は、竹巳に訊いた方がいいかなー、と思ったのだ。あのいつも私を守ってくれている(多分)忍者さん。多分私はその人を好きだと思う。かっこいい。顔とか見たことないけど、多分。

何をあげたらいいかなぁ、と思ったとき、竹巳に訊けば間違いないや、と私は思ったのだ。これぞインスピと言う奴だろう。
うーん、と腕を組んでみる。あれかなぁ、竹巳は私よりもかしこい言葉を使うし、なんだか普通に頭がいいから、まかせておけば大丈夫と思ったのかもしれない。なるほど、それだ。けれどもそれで、普通好きな人にあげるものを、他の人に訊くだろうか。

「うーん」

私は考えた。考えて考えて、…………すぼっ「うああっ!?」

マンホールのふたがずれていたらしい。そこに足を踏み入れそうになって、体が宙に浮いたところを、竹巳が私の腕を掴んで、呆れたようにこっちを見ていた。「あぶないあぶない」 はっはっは。と笑いながら、おっちょこちょいですなぁ、と道を歩く。車が突っ込んできた。「うおおおおお!????」

さすがにこれはビックリした。驚き過ぎて体がへたへたと動かなくなってしまったところを竹巳がひっぱる。ほんの少しずれた距離を、間一髪で通りながら、車はガレージにぶつかっていく。呆然としていたところに、私ははっとして車へと向かった。

「きゅ、救急車呼ばなきゃ!」 とばたばた私が手を暴れさせている間に、「もうしてる」とお母さんに持たされたケータイでピコピコと電話する。それでも怪我をしていたら大変だ、というように、私は車へと駆け寄ろうとしたのだけれど、そのとき、どこからかボールが飛んできた。「あぐっ」 見事に私の側頭部に、バスケットボール大のボールがぶち当たる。

つくてんつくてんつくてん……と、跳ねるボールを見つめ、竹巳を振り返った。竹巳は電話をしたポーズのまま、驚いたようにこっちを見ている。しばし固まっている間に、そんな場合ではないと私はまた駆け出した。べちょっと頭に何かがつく。恐る恐る触ってみる。鳥のフンだった。「…………」

私はそれから帰宅するまでの20分間、計6回の事故に遭遇した。竹巳は始終渋い顔をしていた。とりあえず家に帰ったら、お風呂に入りたい。





  


1000のお題 【623 非常事態】