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どちらかと言うと邪魔だし面倒だし。「どこかに消えてくれないかな」 呟いた声は自分に対するもののような気もした。



部屋の端で、それは歌をうたっていた。歌というには陳腐で、幼稚で、何を言っているのか分からない。ベッドの上に座って、ぺちぺち足を合わせながら、上機嫌な顔をしている。「どっかに行ってくれないかな?」 もう一回、呟くように声が出た。そいつは一声吐き出した後に、ふと瞳を大きくさせた。それからぱくぱく口を動かして、「うるさかった?」「うん」 舌っ足らずだ。

口元に指を当てて、「うーん」 一呼吸置いた。それからまた歌いだした。やめるんじゃなかったのか。気持ちよさそうだ。うまいか下手かを考えて、下手なのだろうと自分の中で結論付けた。「ねえ」 こっちの肩を揺すってくる。

「これ、どこかで聞いたんだけど、どこだったかな」
「知らないよ、俺が知るわけない」

言った後に、そんなことはないな、と思った。自分もその歌はどこかで聞いたことがある。それから記憶を遡ると、ふと胸の中を爪の先がひっかいた。ちくりとする。あいつがたまに歌っていた。立ち上がって、宿から出ることにした。荷物をまとめて、金を確かめる。「どこ行くの?」 返事をする義理はない。「どっか行くの?」 目的なんて、あるわけもない。「私も何か準備しないと!」 一体なんのだ。

「別に一緒に来なくてもいいんだけど」
「それはもう仕方がないでしょう」


***


消えてくれればいいのに。
始めはなんの冗談かと思った。冗談だったらよかった。こいつが喰ったのだ。それと同じ口で食物を食べている。「おいひい!」 口いっぱいに頬張った鶏肉を味わって、自分のほっぺを撫でている。「も! ほら!」「いらないよ。っていうか俺の金だし」「うまい!」「ソウルって肉しか食わないよね。肉食なの?」 若干洒落にならない。

「…………わからない?」
「俺に訊かれても知るわけないよ」
「私はわからない!」
「自慢げにしないでね」
「ところで私、ソウルなんて名前じゃないよ」
「ペットにつける名前は適当にする方なんだよね」

猫にもポチってつけて、怒られたなあ、と思い出して、そのまま浮上した記憶を内に沈めた。あまりこの頃深くを考えないようにしていた。「ペットちがうよ」「確かに飼ってはいないかな」「相棒だよ!」 ぴらぴらスカートの裾が揺れている。風が吹いた。ぴらり。

「…………きみの準備って、一体なんなの?」
「うん?」
「パンツくらい履きなよ」
「忘れてたね!」

人間って大変だね! と仁王立ちする彼女を見て、きみは人間ではないだろうとぼんやりノーパン女を見つめていた。