4 story
お着替えペンギン街を歩く
今日も今日とて仲がいいのか悪いのか分からない感じでテッドと二人食卓につく。とは言ってもガツガツ食べるのはテッドの役目で、私はそんなテッドを頬づえをつきながら見つめる役目だ。家に帰ればおいしくうまうまなグレミオのご飯が待っている。
「坊ちゃん、グレミオさんにサイコーでしたって伝えといてくれよ」
「自分で言いなよ」
とりあえずテッドは、相変わらず他のマクドール家の住民には接触したがらない。あんまり大勢と絆を築いてしまうことに抵抗があるんだろうな、と分かってしまうからそれ以上何も言えないし、私は甘んじてテッドへのご飯渡しの役目を頂戴しているのだ。多分グレミオは私とテッドが仲良くなればいいな、とか思って毎回バスケットを私に渡しつつ「坊ちゃん、どうぞ行ってらっしゃいませ!」とにこやかな笑顔で送ってくれるんだろう。
「テッドってさあ……昼間とか何してんの?」
「えー、マリーさんとか、そこの八百屋とかまあ色々手伝いしてるけど」
「それは知ってるけど」
「じゃあ聞くなよ」
ですよねぇ、と頷きながら、私が聞きたかったこととはそれ以外何してるの? ということだ。近所の子どもと遊ぶ訳でもなく、ただ手伝いをして、ときどきご飯の差し入れをもらって、すごすごマクドール家の別宅へと帰っていく。随分静かな生活だけれど、本人が満足しているというのならまったくもって構わないと思う。けれどもテッドは我慢を繰り返して今となっているような気がしたのだ。彼は本来、カラカラと軽快に笑う性格なような気がした。自分の中のテッド像と比べて、そう思いこんじゃってるだけかなぁ、とまで考え、ため息をつく。「ため息つくと幸せが逃げるぞ」「後で深呼吸するから大丈夫」
はふーん、ともう一回自分自身の状況を思い出してため息をついた後、テッドの顔を上から下まで見下ろした。そしてのまま胸辺りまで目線を持っていく。
「テッド」
「あん?」
「きみっていつも同じ服なの?」
取りあえずいつも気になっていた疑問だった。
私だって坊ちゃんトレードマークの格好があるものの、一応クローゼットにはその他の服が眠っているし、パーンやクレオやグレミオだって毎日ではないときはあるが、定期的に服を替えている。ゲームでは毎回みんな服装が変わらないのは、多分勝負服と同じようなものなのだろう。戦いのときにはこれ! 旅のときにはこれ! というように毎回動きやすい服が決まっているから、毎回同じ格好に思えてしまうだけ……に、違いない。
テッドのトレードマークは、てっきり真っ青な服だと思っていたのに、彼は泥のようにくすんだ服を毎回きていて、お世辞にも綺麗だとは言えない。「新しく買った方がいいよ」と彼から出されたお茶をずるずる飲みながらアドバイスしてみると、彼は目をきょとんとさせたまま、「これくらい全然問題ないだろー? まだまだ着れる着れる」とケラケラ笑っていた。ううむ、旅慣れしている男は言うことが違うぜ……。
と、思っていたらやっぱり。
「テッドくん、店に買い物に行きなさい。君は少し周りの品をそろえた方がいい」
「え、え、いやーははは」
そんなこんなで、珍しくテッドがマクドール家の夕食のお呼ばれに参加しているとき、ふとテオ様がテッドへとそう言った。私はごくごくコップからお水を飲みながら、おおテオ様言っちゃったよ! と胸の中で興奮を隠しきれない。
「いや、俺ポッチもないですし」
「私が出す。君を保護したのは私なのだから当たり前だ」
「いやいやえーと、俺に使うのはもったいないですって!」
「そもそも、常々私は君が別宅にいることもどうかとは思っていたんだ。本人が嫌がるようなら無理にとは、と考えていたが、そこまで言うのなら今すぐにでもうちに来なさい。あのままでは不自由だろう」
「うえ? え、えええーと……!」
助けてくれー! というようにテッドが私へちらちらと目線を向けた。私はよし、と頷き、テオ様へと居直る。「テッドは取りあえず、新しい服を買った方がいいですよ」「ふむ、そうだな」「ー!!」 うらぎりものめー! なんて声が聞こえる気がしたけれども、きのせいきのせい、ともごもご口の中を動かして本日の料理を堪能させていただいた。
「それじゃあ坊ちゃん、ポッチはお渡ししておきますから、きちんとテッドくんの生活用品、買ってきてあげてくださいね」
「アイッサー」
「こういうとき、クレオやら女の人がいれば心強いんですけれども、用事があるとなればしょうがありません。男の子同士じゃ大変かもしれませんが頑張ってくださいね! 私がついていければいいのですが……」
「グレミオグレミオ、だから私女だってば」
「あ、そうでした」
相変わらずの台詞を訂正しつつ、グレミオから渡されたポッチをぎゅっと握りしめる。その隣でテッドはぶーたれた表情をしていて、思わず笑ってしまった。つまり私は、テッドがちゃんと新しい服を買うか、生活必需品を買うかという監視役なのだ。別にテッドが何も買わずお金を懐に入れてしまうだなんて心配をしている訳ではなく、こちらに気がねをしてしまうのではないかと心配しての行動だ。
小さなことではありがとうと簡単に受け取るくせに、こういうことは自分の中で決着がつかないらしい。結構義理がたいのかもしれない。「それじゃあテッド、行きましょうか」「えー……」「ぶーたれすぎ」
はいはい行くよ、と私は足を動かしつつ、近頃彼と関わることにあまり抵抗を感じなくなってきた自分に気付いた。彼といることで、このまま原作通りにストーリーが進んでしまうんじゃないかとぶるぶるしていたけれど、まあそんなことないんじゃない? 大丈夫なんじゃない? と自分自身が気楽に考えるようになってしまったのだ。
これはいけない、帯をひっぱらにゃあ、と思っても、私はストーリーを知っているのだ。つまり、テッドを近衛隊に入れなければいい話だし、そもそも私みたいなチキンな鶏が軍人だなんて務まる訳がない。先に見えてきた希望に、沈んでいた気持ちがドキドキと浮上し始めた。
「いけるいける!」
「俺はさっさと帰りたい」
「そういう行けるではありません!」
「しらねーよなんなんだよー」
あーあー、金がもったいねぇよー。なんて嘆きながらぷらぷら歩くテッドを見つつ、義理がたいというかただの守銭奴っていうか、ケチなのかなこの子は。とうっすら目を細めながら、「いけるいける」と私はもう一回力の限り叫んでみた。いけるいける。
2011.02.27
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