グリンヒル編おまけ





*グリンヒル編の削れたエピソード集




33・5話(グリンヒル潜入)


「グリンヒルに潜入……ってなったら偽名だね!」
「偽名だね!」
「偽名だよー!!」

きゃきゃきゃっ! と喜ぶナナミさんとさんを見て、僕とフリックさんはひょいと顔を上げた。フリックさんは片眉を下げて、「まあいいだろう。確かにそのまんまってわけにはいかないからな。特には」 そうなのだ。僕らは同盟軍であるということをこっそりと隠してグリンヒルに新入生として侵入する作戦なのである。

「えーっと、どうしよっかなー。私はエリザベス! とかがいいなあ!」
「あの、ナナミさん、なるべくちゃちゃっと決めてくださいね……こっちの書類の記入がありますので」

ちゃちゃちゃっとね、とフィッチャーさんは無精髭をなでながら、まるで女の人のショッピングにため息をついてベンチに座り込んでいる男の人のような顔をした。だいたい僕のお父さんとお母さんはそんな感じである。
ちなみにナナミさんはフィッチャーさんの言葉をまるっと無視して、というか、多分きこえてないんだろう。「どうしようどうしよう!?」と姉弟と二人でキャッキャと嬉しそうだ。ルックさんはどうでも良さげに端っこに座り込んでため息をついている。心持ちシロまで嬉しそうに尻尾をぱたぱたと振っていた。「でもシロはいらないよねー、ペットだし!」 ナナミさんの台詞で、尻尾がしょんぼりとたれた。ちょっとかわいそう。


「シロさん、僕がつけてあげようか……? ホワイトとかどうかな?」

なかなかに名が体を表している感じで素敵だね、と気を使って人差し指をたてると、「ワフッ!」 激しい肉球パンチをくらった。ちょっとした親切のつもりだった。

「ほらほら! くんも決めようよ! はやくはやく!」
「えっ、ぼ、僕はいいよナナミさん……」
「ルックくんもほらー!」
「勝手に決めれば」

心底どうでも良さげなルックさんの声に、むー、とナナミさんはほっぺを膨らませた。「いいもん、勝手に決めちゃうんだからね!」 ルックさんはマイ小説を取り出してぴらぴらとページをめくっている。反応する気すらない。ピリカちゃんは、しょぼくれるシロの頭をよしこよしこと撫でていた。いい子である。
ほらほらはやくはやく、と円陣を組んで、ごにょごにょごにょ、と僕らは作戦会議を始めた。


それから数分後、すっかりおまたせ顔のフリックさんとフィッチャーさんを相手にして、「決まったよー!」と元気いっぱいにさん姉弟が両手をあげた。「そうかい、そんならちゃっちゃと報告してくれ」

「うん。まずは僕から! 肉まん!」 ビシリとさんが両手を上げた。
「ぼ、僕は、あんまん……?」 僕はそそっと静かに片手を上げた。
「ルックくんはー、ピザまん!」 ナナミさんがこっちに背中を向けているルックさんに指をさした。

そして最後に。

「私は……エリザベス!!!」



「別にいいけど、お前ら統一感がないな……」

静かなフリックさんのツッコミが響いた。







36・5話(ジーンさん発見)




「うわあああああ」

うおおおおおおおお。
僕はガクガクと震えた。激しくビビった。真っ赤になった。



変な女の人が目の前を横切った。


さてさて、外に出てしまったさんの代わりに、ヒンコウホウセイな優等生のふりをして、実は僕達がスパイであるかもしれないぞ? なんて疑いは全部ぬぐいさってやるんだぞ! なんて気合を入れている僕なのだけれども、はじめから疑ってる人なんていないような気がするような、やっぱりそうであるような。

(まさか僕達みたいな子ども軍団が、同盟軍だなんて思わないよねえ……)
まあ、そう思い込んでもらうために、選ばれた訳だけれども、と、とてとて廊下を歩いて次の教室へと向かっていたその最中だった。


すっと目の前を通り過ぎたお姉さんは、頭の上の高い部分できゅっとたくさんの銀髪をしばって、すとすとと歩いている。美人な人だった。けれども問題はそこではなかった。「人間の服を着てない!?」 僕は叫んだ。でも心の中でストップさせた。必死に色々我慢した。

「あら?」

その薄っぺらい布で体を覆ってひらひらとさせたお姉さんが、ちらりと僕を見た。そうしてにこりと手のひらを振って、またカツカツと去っていく。一体あの人はなんなんだ。びっくりした。僕は慌てて彼女から逃げた。

思わず真っ赤になっていた顔を両手で覆って、大変なものを見てしまった気がするぞ、とぶるぶる震えて、んん? とちょっと首を傾げる。震えている、と思ったのは僕じゃなかった。右手だった。主におくすりくんであった。うっはあたまんねえ! と彼は激しく鼻血をふきだしていた。いやさすがにそれはただのニュアンスで、うっほおうっほお! と彼はばたばた暴れまわっていらっしゃった。

「…………」

おくすりくん、思春期なのかな? と僕はとりあえずわかったような顔になって、そっと右手を撫でてあげた。「でも僕は、ちゃんと服をきてる方がいいと思うな……」 捕まっちゃうよね、と切実な感想を静かに述べた。







36・6話(実は頑張ってたルックさん)




(めんどうくさい)

静かに、静かに。

右手に意識を落とした。風の匂いがする。(覇王の子ども)ちりちりと彼の左腕が唸りを上げた。ふと、魔力が具現化する。「静かにしろ」 興奮をするってんなら、僕を巻き込むな、と右手で翠の風を握り締める。

黄金の竜が幾度も喉をうならせた。
「同じ部屋に、真の紋章がいるってのが気に食わないってのかい」

それともただ、主人の手綱が甘いだけか。その両方か。

こっちの苦労もしらずに、覇王の子どもはベッドの中で眠りこける。盾と、風と、覇王の3つ。(なんで僕の周りには馬鹿ばかりが集まるんだ)苦労をするのはこちらばかりだ。

(静かにしろ)

僕は眠りたいんだ、と優しくママが子どもに聞かせるような子守唄でも歌ってやる。だからさっさと眠ってくれとついたため息は、月明かりの下で転げ落ちた。



「あ、る、ルックさん、起きてたの。ビックリしたよ」

ぼんやりとした眠気眼で見つめる子どもは、どうにも腹立たしい。ルックさん、早起きなんだねえ、とうふうふ笑う子どもの頭を、思わず杖で殴ってやりたくなった。子どもの言葉を聞き流して、くあ、と短いあくびを繰り返した。ついでにごそごそとベッドの中に潜り込んだ。

「あ、あれ、うそ、ルックさん、うそ、そこで寝ちゃう? ルックさん、ルックさん、ルックさーん!!?」
「うるさい」


やってられない、という話である。











2012/12/15


1000のお題
【151 行きはよいよい帰りは怖い】
【521 全裸】
【911 光と影】

と、いう話を本編中に挿入したかった……

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