1 ぶっちゃけちょっと気になること
実は、前々から気になっていたことがある。
僕はそわそわと、新同盟軍のみなさんの様子を拝見した。腰に剣を固定して、とてとてとて、と歩く皆さんの姿は、イフウドウドウとしていて素敵である。とにかく、僕はそっと彼らの様子を見つめていた。半パン、黄色いスカーフ。腰にゆれる剣を見て、僕は思った。(おそろいだ……) みんながぞろぞろ。(おそろいだ……) あっちを見ても、こっちを見ても、(おそろいだ……!)
なんだか気づいたら、みんながみんな、新同盟軍の兵隊さんたちが、黄色いスカーフを巻いていた。わかりやすいようにという目印だろうか。バスケットの授業で使うゼッケンの色分けみたいな? とそわそわしながら、短パンはもともとだけど、僕もスカーフを巻いた方がいいのかなあ、とうろうろそわそわしながら宿屋の入り口を歩いていたとき、なにやら奇妙なキシカンがあった。
(黄色いスカーフ?) 短パンじゃないけど、短パンっぽい格好。
「うん?」
ううううん? と腕を組んで、首をひねって口元をつきだした。小鳥が僕の頭の上で、ぱさりと羽を動かして、屋根の上に足をのせた。「あ、」 何してるの? なんて聞こえた声に、僕は思わず振り返った。「あ」
「さんだ!!」
「う、うん」
さんだ、さんだ、とぺちぺちさんの両手を叩いて喜ぶ僕を見て、どうしたんだとばかりにさんは不思議気に瞬いた。
このごろ、お城では軍主様の格好が流行っているらしい。
2 コボルトにて
コボルトの兵にまみれてセンニュウを果たしたものの、結局僕のことはゲンゲンくんにばれてしまった。別に大丈夫、と思うものの、本当に大丈夫かなあ、と相変わらずのローブで頭を隠して、もむもふと溢れてくる不安に、ちょっぴりため息をついてしまいそうになった。
だって、ここはコボルトだ。ゲンゲンくんで慣れているというものの、やっぱり色々僕が知ってるルールとは違う、ような気がする。
おトイレとかどうするの? マーキングとかしなくていいの? とか思わず考えちゃっている僕は、コボルトを舐めすぎだろうか。
「というか僕、もっと不安なことがあるんだけどね実は」
うにょうにょとつぶやいた僕の独り言に、「なんのことだ?」 ピクリとゲンゲンくんが顔をあげた。
「いや、あの、その、ご飯のことなんだけど」
「むむ? ご飯? 食事ならちゃんと配給されるんだぞ!」
「そ、それはありがたいね、じゃなくてね」
つんつん、とぶかぶかのローブの中で、両手をあわせる。なんだかちょっと言いづらい。ほんの少しだけ考えた後、ぽそりと言葉を落っことした。「前に、僕、コボルトパイ、食べたことがあるんだけど……」 はっきり言って、あまりおいしくなかったような、そんな。
ハイ・ヨーさんの食堂にて売られていたので、興味半分で頼んでしまったのである。
食べた人たちは無言で口元を押さえて、そそくさとおトイレに消えていった。「ちょっと、僕とはご飯の味が違うんじゃないかなーって」 念の為に、携帯食とか持ってきた方がよかっただろうか、と後悔と言葉に出してしまった申し訳なさを噛み締めたとき、「……ヒッ真顔!」 ゲンゲンくんが真顔で僕を見下ろしていた。怖い。
「正直……ゲンゲンにも……なぜこうなってしまったのかはわからないが……」
「う、うん」
「あれは、まずいぞ!!!!!」
まずいぞ! まずいぞ! まずいぞ! まずいぞ…………
響くゲンゲンくんの声をききながら、僕たちはお互いジッと見つめ合った。そして両手を合わせた。肉球がもふもふしていた。
3 再会
「お前もいたのかよ、!」
広場の作戦会議にて、唐突に現れたその男の人に、僕たちはどよめきだった。今の今までお話していたトラン共和国の現大統領の息子さんのシーナさん。なんともタイムリーなその登場は、ちょっとした運命的だった。
「シーナさん! ひさしぶり!」
とりあえず、シーナさんとは顔なじみだったらしい他の人たちとの挨拶を後ろから眺めて、僕はもう一度大きな声で両手を上げた。「ん? おう! なんだよなんだよ。お前もいるたービックリだぜ。美人も多いし、さっさと来りゃよかったよ」「うん……」 相変わらず頭の中身はピンクなお方であったらしい。
うん、シーナさんってこんな人だったよね……と僕は暖かい表情で彼を見つめた。シーナさんも、僕を見下ろした。お互い微笑んだ。そうしてシーナさんは、僕の両足首を掴んだ。「ん?」 ひっぱった。「おう?」 振り回した。「アアアアアアアアアアアアアアアーッ!!!!!!」「うっははははははー!!!!!」
げらげら笑いながら僕の足を掴んで、ぶんぶんぐるぐる振り回す彼に対して悲鳴をあげて、僕はとりあえす叫んだ。「アアアアアアアアアアアーッ!!!!!」「おまっ、おい、こらシーナ、やめろ! やめろ!」「貴様! 何をしているかッ!」
スキンシップスキンシップ、と嬉しげな声を出す彼に、ぶっちゃけ微妙に泣いた。リドリー将軍とフリックさんの声を聞きながら、僕は広場にてぶんぶんされ続けた。初体験であった。
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