ちゃかりと響く足音に。

一歩後ろをのそりと歩いて


第18話  嫌なものを見つける




一体自分は何をしているんだろう。と青い空を見て思う。
片手に持ったお財布に、(スーパーへの)お出かけスタイル。
…目の前に歩く、犬。


別名、シュタイン


じゅわっと熱をしみこんだ真っ黒いアスファルトの上をノソノソとモソモソと進んでいく、自分。何故だか目の前を歩くシュタイン君の後ろをちょろりと付いていく。

(…題名、一人でお散歩する、ワンコ)


ワンコの飼い主様は、恐らくご主人様と同じで始業式な気がしないでもないかもしれません。そんでもって、そのご主人がおらず、このワンコは寂しい思いをしているのかもしれません。この一人でお散歩ワンコさんに、むくりと沸いた好奇心を抑える事が出来ずに、ご飯の買い物そっちのけでワンコの後ろに付く自分。

今一瞬、何故だか高笑いする華原さんが脳裏に浮かんだのですが。
(ちなみに台詞はうちのシュタインの面倒、しっかり見ててよね、といっていました)


気のせいだか、真っ直ぐと進む彼の先にあるそれは


「…高校、ですか?」


ワンコって侮れない。







「あはははは、シュタイーン!」
「ワフーン」
「くすぐったいって!」

どうやら無事飼い主と合流できたワンコ様は、只今激しく戯れているようで。パタパタと振られるワンコの尻尾が、彼の嬉しさをいわんばかりに表現している。
(じ、自分はいったい、どうすれば)

華原さんの姿を見つけるや否や、しゅぱぱぱぱっと飛び出したワンコと正反対に、しゅぱぱぱぱっと大きな木の裏へと身を隠した自分。お陰で身動き取れず、少しでも移動すれば、大きな茶色い幹からはみ出した自分(不審人物)の姿がバッチリって感じなんですが。

「うううう、自分は、自分はぁ…っ!」
こんなストーカー行為をする為に、ワンコに付いていった訳では、決して、決して!


自然とハラハラ流れる涙を拳で拭う。


「わふーん」
「どうした? シュタイン」

クンクン、と鼻をこっちに向けて、きゅんきゅん吠える彼をと一瞬目があった。急いで木の裏へと隠れても、不信感を持ったらしい華原さんの疑いは消すことが出来ない。
(わわわわわんころがーーーーっ!!!)

じゃり、じゃり、じゃり


小さな砂の粒の上を、ゆっくりと歩いて、なおかつゆっくりと近づいてくる足音がはっきりと自分の耳へと届く。その足音が誰の者なのかと一々見て確認しなければならない程、自分はバカではない(つもりだ)

(ううううー!!)

万事、休す


あれですか、古典的に、にゃーんの一言でもここでいうべきなんでしょうか。
ぐるぐると混乱した自分の頭が結論を出す前に、またジャリジャリと近づく足音。

ああもうこの最、古典的でもなんでもオッケー!

すうっと息を吸い込んで、きゅ、と喉の奥を締める感じ。


「にゃーん」


ああ、自分でもサイコーだ。と思うほどの完璧さ。



(だったはずなんですけど…っ)




キーンコーンカーンコーン


久しぶりに聞いたチャイムの音で、すっかりと隠れてしまった自分の声。びいいん、と自分の耳に響いたその音は、当たり前だけれども華原さんの耳の中にもしっかりと響いていたらしい。

「…予鈴か」

彼が鬱陶しげに声を吐いた事を確認して、ちらり、とのぞき見る。ワンコを連れて、トコトコと遠くへ歩いていく彼の後ろ姿をはっきり確認。


そのまましゅぱっと逃げ去れたら、ナイスだったんですが。




彼と入れ違いに聞こえる足音に、ピタリとその場で止まった。息を殺して背中を木へとくっつける(なんてったって、今自分が見つかることは不審者のレッテルを貼られる事を意味する)

ごくり。飲み込んだ唾は体中の水分を要求するように、すぐに喉へと溶け込んだ。


「ふー…」

小さく、吐いた息の中、ピタリと背につけていた木を少しずつ、ずらしていく。アレだ、タイミングが命ってヤツですよ。大きく、大きく息を吸い込んで、吸い込んで、

がばっと木から覗かした顔の先には



バタリと、土の上に顔を伏せ、体にもその土を満弁に塗られ、息絶え絶えな     女生徒が。



「………」
「………」
「………」
「………」
「……………っ、ぎゃあああああああ!!!!!!」



なんとも面白いことに、二度目のチャイムは、自分の悲鳴と綺麗に重なっていた。





  


2007.01.29