連載への質問企画より。
文章のみ、再録させていただきましたー


Q ペールさんのヒロインに対しての心境の変化の過程を詳しく聞きたいです!!何かきっかけ等があったのですか?

A マイマスター2話と3話の間のお話です。どうぞー!



ぐう、と老齢となる男は目を細め、右の腕へと微かに筋肉を促せた。腰へと差した剣へと意識を深め、しゃんと腰を立たせる。目の前には一人の女。
珍しい黒く長い髪を一つにくくり、忙しなく動く姿を男は見る。
(記憶がないなどと………)

妄言を。
もし、その言葉が真実なのだとしても、この屋敷で世話をしてやる必要などどこにもないのだ。それ専用の施設でもなんでも送り込んでやればいい。
僅かな同情の気持ちはあるが、それ以上に身元がしれぬ人間を、この屋敷の中へ留まらせておく。その事自体に彼は我慢がならなかった。

「頭が固い」

どうユージェニー様に、ジグムント様にそういわれようとも、彼の本質は変わる事はなかった。タカタカと歩き回る黒髪の女、名前は忘れた。ただ何処か独特な響きを持つ名前だった事は覚えている。これから先覚える気もさらさらなかった。
僅かの彼女の身体を目の端で捕らえながら、ふうと深くため息を吐く。

丁度そのとき、目の前へと金色の髪をした小さな少年が、ぴょこりと飛び出した。ほんの少しのけぞらせたポーズに、ガチャリと甲冑が音を立て、室内へと響いた。「ペール!」「ガイラルディア様、お一人で何を」

困ったようなペールの声と表情に、ガイラルディアは首を傾げた。「ここは、屋敷の中だぞ、一人でも、なんでもいいだろう。あぶなくないように、ペールが警護しているんだろう」
そんな正論に、う、とペールは息を飲んだ。
確かにそうだ。しかし       視界の端に映った彼女を誤魔化すように、ペールはゴホン、とわざとらしく咳をついた。
メイドの一人を疑っている。そんな事を、こんな年歯もゆかぬ子どもに聞かせるべき事なのだろうか。
きょとりとした瞳のままの少年に、またペールは咳をつき、喉から声を唸らせる「そう、私はガイラルディア様をお守りする為におるのですよ。ですからお部屋へと戻りましょう」

ペールはガイラルディアへと視線を合わせるように屈み、固い表情を、ぐいと歪ませた。慣れない笑顔に奇妙な形になったのだが、うんとガイラルディアは頷く。
飛び乗るかのようにペールの手のひらを取り、タカタカと歩き出した。

その様子をペールは苦笑しながらも、ゆっくりと歩く。


「ペール」
「なんですかな」
だろう」

瞬間、息を飲んだ。そうだ、あのメイドの名前は、それだった。
瞬いた瞳を隠すかのようにペールは真っ直ぐと顔の位置を固定したまま、ゆっくりと歩を進める。なんのことだと、言葉を濁す事は簡単だった。嘘を吐く事は、どちらかというと得意な領域だったからだ。
けれども口をつむんだまま、ぐっと背を伸ばし、ガイラルディアの手のひらを柔らかく包み込む。子どもの手のひらは小さく、とても暖かい。

「ペール、はな、この間、何もないところで転けていたぞ」
「……は」
「うん、それだけだ」


何を納得したのか、少年はぐいとペールの手のひらをひっぱり、小さな歩幅で精一杯駆け抜けようとした。自然、前へと屈む形になりながら、ペールは少々頭を悩ませる。
小さな自分の主人の言葉を反芻しつつも、やはり、と考え、く、と口元に笑みを湛えた。




TOP


きっかけは特にないざます!
のんびりゆっくり、「こんなおまぬけが刺客な訳ないかなぁ」とちょっとずつ考えたんじゃないでしょうか。

2008.10.29