*完結後if






カタタン、カタタン、カタタン、カタタン……

揺れる馬車の中で、私は壁に持たれかけた。ころころと景色が移り変わる。そうしたものを見ていると、少しずつ、いろんなことを思い出した。旅の記憶から、くるりと変わって、ガイさんが小さかったときのこと。それから、元の世界のこと。
それはなんだかひどく遠くて、ぼんやりと淡い記憶だった。ちょん、と手を伸ばせた届きそうなのに、やっぱり届かない。

変わってしまった、たくさんのことを考えた。カタタン、カタタン、カタタン。馬車の揺れる音に、ほんのちょっとお尻を痛くさせて、私はまぶたを下ろした。カタタン、カタタン、カタタン。

ゆるりと思考がこぼれた。
ほんのちょっとだけ、眠ろう。そう考えた。





「…………え?」


がやがやと人混みの喧騒の中で私は一人つったっていた。「え、あ、え?」 確かに自分は馬車の中にいた。それから、ガイさんがいるグランコクマの元へ向かおうとしていたはずだ。それなのに、いつの間にかこんなところでほっぽり出されて、私は一人ぼんやりとしている。なんだかものすごく嫌な予感が溢れた。じわじわ、と首元に汗が滲んだ。


「さーって、今日の予想はァーッ! 金髪甘いマスクの新人に100ガルドだッ!」
「ひえっ」

隣で叫ばれた声に、びっくりして小さくなってしまった。「安いよ! なんだそれ!」「いやあいつは勝つよ。今のところ負けなしだしな」「通ぶってんじゃないよ! 大穴はどっかにないのかー!」 なにやら賭け事をしているらしい。大きな黒板の前に、いかつい体の男の人がガツガツとチョークを叩いて予想の配当を書き込んでいる、と、思ったのだけれども、何を書いているのかわからない。フォニック文字ではないらしい。(えええ……)

ここら一体で使われる、何かの用語の暗号なのだろうか。それにしても、ちょっとおかしい。
私はきゅっとケープを握りしめて、きょろきょろともう一度辺りを確認してみることにした。塩の香りがした。風の強い方へ、方へと歩けば、海があった。私はぱちくりと何度も瞬いた。(ゆうかい……)最初に思いつくのはそれだ。なんだかんだと言って、私の身柄はちょっとしたお金になる。けれども誘拐をするだけして、どこだかわからない、多分きっと、遠い場所にほっぽり出すだなんて、ちょっとおかしい。

「あ、あの!」 道行く人に、勇気を振り絞って、声をかけた。きょとりと瞳でこちらに目を向けた中年女性に、「えっと、あの、こ、ここは」「ここ? 闘技場だよ。ああ、もしかして旅の人? 闘技場はね、ここをまっすぐ行って、右に曲がって」「え、あの、闘技場ってバチカルなんじゃ」「バチカル?」
ものすごく変な顔をされてしまった。

ごめんなさい、と私は頭を下げて、そそくさと逃げ出した。(バチカルを知らない) 文字が違う、場所も変で、気がついたら知らない場所にいた。
指先が震えた。


カチカチ、と歯の根が噛み合わない。(もしかして) 周りの人たちの声ばかりが大きく聞こえた。(またわたし) 知らない世界に。
ガイさん、と勝手に言葉をつぶやいた。けれども、彼の返事があるわけがない。何度も不器用な呼吸を繰り返して、勝手に緩む瞳と、口元を引き締めた。ぶるぶる、と精一杯に首を振って、とにかくしっかりしないと、と両手をあわせる。きっとだいじょうぶ、なんて自分でもちっとも思っていない言葉をつぶやいて、自分自身を元気づけようとした。でも駄目だった。(ガイさん……)

ふと、彼が見えた気がした。
私はパッと顔を上げた。気のせいだろうか。違う、気のせいじゃない。ずっと向こうの人混みの中身に、見覚えのある後ろ姿があった。「ま、まって」 ガイさんだ、と私は駆けた。ごめんなさい、ごめんなさいとたくさんの人にぶつかって、無理やり体を押し進めた。近づく。彼の背中に近づく。もう少しだ。「ガイさん……!」「え?」 彼の腕を掴んだ。ガイさん、と私はホッとして笑った。けれども、すぐに眉をハの字にした。違う、よく似ているけれども、全然別の人だ。


「あの……」
「ご、ごめんなさい! 知り合いに、すごく似ていて」

本当にごめんなさい、とガイさんとよく似たその人に、ぺこぺこと頭を下げた。ガイさんよりも青みがかったその人の瞳を見つめた。ガイさんの方が、少し背が高いかもしれない。それから肌の色も違うかも。ガイさんよりも、年はいくつか下というところだろう。
ぼんやりと勝手にガイさんと彼の差を比べてしまっていた。気づけば、目の前の男の人が困ったような顔をして私を見ていた。「あ、あの、ぼんやりしてて、ごめんなさい」「いえ、大丈夫です。……もしかすると、お連れの方とはぐれてしまったのでしょうか」

それはちょっと違う。私はほっぺたに手のひらを当てて、えっと、と口ごもった。それが肯定の返事のように受け取られてしまったのかもしれない。ふむ、と男の人は口元に手をあてて、何か考え事をするような仕草をした。「だったら、僕もお手伝いしますよ。二人の方が、はやく見つかるでしょう」「いえ、あの」「困っている人は見過ごせません」

ぜひその方の特徴を教えてください、とにこりと優しい笑みを浮かべながら私を見下ろすその人を見て、
「あの、えっと」
「僕の仲間にも声をかけますよ。よければこちらに」
「えっ、えっ、えっ」

待ってください! と必死で声をかけた。なんだか流されているような気がする。すたすたと私の前を歩こうとしていたフレンさんは何を勘違いしたのか、「ああ、すみません。僕は帝都の騎士をしています。フレン・シーフォです」 ですから、仲間というのも騎士達ですので、大丈夫ですよ、とにこりと誠実な笑みを落とす彼に、なんだかひどく申し訳無いような、そんな気持ちになった。


「あなたのお名前をお訊きしても構いませんか?」
「わ、私はです、・フォン・ガルディオスですが」

だから違うんです、という説明の声が、うまく届かない。とにかく、私はフレンさんに出会った。ガイさんによく似た、けれども全然違う男の人に出会った。真面目な騎士で、なのに闘技場に挑戦する、よくわからない男の人だった。







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本編が完結したら、もしかしたら書くかもしれない。
でも続くならあくまでもガイ夢なので、フレンは振られる。
フレンは振られる(重要なことなので二度ry)

せいさん、べっぺならフレン……? とときどきおそるおそる訊かれるんですがそうですね、フレンは好きです。好きすぎてパーティーから抜けるとき寂しくってイベント進ませずに無駄に何度も世界中引きずり回す程度には好きです。

【デフォルト名ネタ/
変換せずに読んだら、フレフレ祭りになりそうで怖いですねとかそんな

1000のお題 【369 紳士的】

2013/01/26