悠くんが卒業した。利央くんも卒業した。
そして多分、名前もしらないあの人も、卒業した。


僕たち私たちは、ゆっくりと時間が流れてゆきます。




合格したぜ! といった悠くんの言葉は、固唾をのんで見守っていた家族全員に、わ! と両手を上にあげて、おめでとうの嵐の言葉を投げかけるくらい、衝撃的だった(いやいや、もちろん受かってもらわないと、今までの私の苦労が報われないよ!)

「おめでとう悠くん!」
「ん、すっげぇのおかげ!」

ぎゅ、と私の手を握って、「あー! 野球部入りてぇなぁ!」と叫ぶ悠くんに、「これからいっぱいいっぱいできるよ!」 冬休みってことで、サッカーばっかりしてた悠くんも大好きだけど、野球をしている悠くんは、もっともっと大好きだ!

「西浦さ、家から近いし、も遊びに来いよ」
「…ううん、いいのかなぁそれって」

ダイジョーブに決まってんじゃん! にかっと笑ってそういう悠くんに、そうなのかな、と首を傾げて、それでも幸せそうに笑う悠くんを見て、まぁいいか、なんて。
(あの人も、受かったのか、な)

きっと、多分。あの人は、もう図書室に来る事はないと思う。受験が終わったんだから、と思いつつも、それでも足を運ばせてしまう私は、本当に諦めが悪い(でも、会いたい)
受験シーズンも終わって、すっかりと人が少なくなってしまった自習室に、あの人はいなかった。

(もう、会えないのかな)






合格した。試験で手応えもあったし、模試の結果も悪くなかったし、まぁ当たり前だろ、と思ってはいたものの、いざ合格してみるとなると、今更ながらに、心臓がバクバクとしてきた。部活はどうしよう、とか、俺はここに通うんだ、とか。双子の妹達に、お兄ちゃんおめでとう、といわれた事で、臨場感が上がったり。
(けれども一番最初に俺がした事は)

名簿を見た。新入生の、名簿。1組から8組まで、オレンジ色の、上質な紙に印刷されたそれを何度も何度も見返して。一瞬見つけた、「田」の文字に、はっとしてにじりしめた生徒名簿は、ぐしゃりとつぶれた。ついでにいうと男だった。
(やっぱ、そんな偶然、ねぇよなぁ)

もしかして、あの子も、同じ高校を受かってるんじゃないか、なんて。
(そんな、調子のいいこと考えちまったんだよ)

今日も会えるだろうか、と進めた足は、ほんの少しずつ速度を落とす。(何しに来たの?)そんな事を彼女に考えられる俺を想像して、肩に掛けた鞄が、ほんの少し、重くなった。
ほんの少し短めの、図書室までの石段を、カンカンカン、と一歩、一歩、と登る。(何しに来たの?)
カンカンカン

スニーカーの裏が、こすれる音がした。(何しに来たの?)
彼女に、俺は会いたい。会いたい。会いたい。けれど、(何しに来たの?)


俺はどうしても、それ以上、進むことが出来なかった。

(もう、会わない)







こうして、僕たち私たちは、短くて長い片想いは幕を閉じた。
いつの間にか、季節はセミの鳴く声から、ピンクの花が、はらはらと舞い散る音へと変わっていた。
(こうして、僕たち私たちは)




けれども、








「なぁ、なぁ」
「ん? なぁに、田島君!」
「マネってさ、しのーかだけってやっぱつれーの?」
「そうだよぉ! だからみんな、篠岡さんには感謝しないよね!」
「うん、だったらさぁ       


運命は微妙に、見捨てていなかったりする。
(偶然で始まったんだから、偶然で終わるのも、いいじゃないか!)
(いいやこれって必然ですか?)




「「あ!」」



 


2008.01.27