更新停滞誤魔化しオリジナルアップまだまだ続くすみませぬ……
祭り×温泉×夏の三題噺でなんか書けって言われたのでなんだろうと思いながら書いた。読み返してみて、シュールすぎて心が震え上がった。
二千文字でさらっと
祭ばやしの音が聞こえる。すぐ先の曲がり角にやぐらでも動いて来ているのだろう。近所の小学生が上へとのぼり、トントコ太鼓を叩くのだ。信吾ものぼったことがある。今でも太鼓のしびれる音と振動を心臓が覚えていた。
「自転車は押して通ってください」
ピー、と首から下げた笛を吹きながら、信吾は叫ぶ。ぽとりと首元から汗が流れ二人乗りのカップルへといさなめてから、自分は何をしているのだろうとふと考えた。始まりは簡単だった。父親からバイトの話を持ちかけられたのだ。来る夏に向けて少々軽く心もとない財布を思い出し、二つ返事で了承したのだが中々に空しい。
日は傾き、みかん色の夕焼けが流れているというのに人が密集する熱の所為か汗がとまらない。信吾は笛と同じく首に下げていたタオルで汗をぬぐった。まだまだ暑くなるぞ。そう考えるだけで頬がこける。
道いっぱいに溢れた人ごみは小学生が多かった。時間帯の問題なのだろうか。わたあめが人気なのか、長い列が出来上がっている。
こんなに人が多かっただろうか。田舎だというのに祭りだけ妙に気合が入る。そうか、と信吾は気付いた。帰省か。温泉だけが取り柄のこの町に、よくこんなに集まったものだ。
そんな訳で信吾は精一杯笛を吹きながら「気をつけて、気をつけて」と手を振った。すでに何度も言い慣れたセリフを繰り返すことはあまり苦ではないが、今日の祭りが早く終わることを祈るばかりだった。
そんなとき、信吾はふと目の前の人ごみがモーゼのごとくぱかりと割れていることに気付いた。丁度ぽっかりと空いた空間が少しずつ信吾へと近づいていく。何事だ。思わず信吾は笛を握りしめた。
そして力強く笛を吹いた。
裸の男がちりりん、ちりりん、と自転車をこいでいたのだ。
信吾はもう一度笛を吹いた。男はむっとした表情で信吾を見る。彼はまごうことなき裸だった。いいや、下駄は履いていた。頭に白髪が混じり始めた年らしく、いかつい頑固親父のような表情をしている。眉毛はもっさりしていて、その眉毛は現在ギリリとつりあがっていた。中年太りの心配はない、見事な体だ。もちろんそれを確認したとき、ブツの方もしっかり見えた。
男はぴたりと車輪をとめ、その瞬間随分周りがざわつくのが分かった。もちろん祭りの喧騒とは違うことは言うまでもない。信吾は喉が張り付いたようにうまく喋ることができない自分に気がついた。そして落ち着くように一度汗をふきふき、じっと男を見据える。信吾と男を中心に、まるい円ができていた。
「何だ」
男の声は、やはりいかつい。
「自転車は押して通ってください」
思わず飛び出た声は言い慣れたセリフだった。
「何故だ」
男は淡泊に答えた。
「今は祭りの最中です。危ないからです」
笛を握りしめたまま、信吾は答えた。男は「なるほど」と頷いた後、そのまま自転車を押しながら信吾を横切ろうとした。
いいや待て、いいやいかん。ピピピピー! 力の限り、信吾は笛を吹く。男はイラついたような表情で信吾を睨んだ。
「裸はいけません」
そうだ、自分はこれを言いたかったのだ。男は自転車のサドルを押した体勢でこちらを見ている。自転車をこいでいるときの方がまだマシだったかもしれない。垂れさがっているブツが堂々とこちらを覗いている。
「お前に何の権利がある」
「私は祭りの交通整備をしています」
「自転車は押している。それ以上に何の文句がある」
「裸はいけません!」
信吾の声が辺りを裂いた。
「何故いけない!」
負けじと男も怒鳴る。
「俺は風呂に入るんだ。待ちきれない、露天風呂だ! お前は裸になったことはないのか。裸で生まれなかったのか、何の問題がある、さぁ言ってみろ!」
力強いセリフだった。信吾に対抗するように自転車のベルをチリンチリンと鳴らしている。
男は帰省した者なのだろうか、はたまた旅行者なのだろうか、いや自転車を引いているところを見ると地元民なのかもしれない。
男は暑い昼間に嫌気をさし風呂に入ろうと決意した。行こう、行こう。心だけが先駆ける。祭りで人が多い。移動するのもままならない。服をぬいだ。道端に放り投げた。待ちきれない。そしてパンツに手をかける。
そこまで信吾が想像したとき、きゃああと婦女子の悲鳴があがった。男はまるで目が覚めたようにハッ、とした表情で顔を下に向ける。内またとなった男の格好を見て、信吾と男の思考が一致する。
「これを!」
信吾は首から下げていたタオルを投げた。くるりふわふわと白いタオルは舞いながら男の手の中へと吸い込まれる。男は頷き急いでそれを腰に巻いた。
慌てて自転車に飛び乗る男をとがめるものは誰もいない。何故なら男の周りはくるりと丸い円を描いている。人がいない。あれでは事故が起こりようもない。
信吾は目を細めながら時折ぴらぴらとタオルがめくりあがり見える彼の尻を眺めた。引き締まった尻だった。
信吾の横を通り過ぎる警官達の風は、涼やかに彼の頬を撫でた。