*in原作 *おまけなので続きませぬ 足を踏み出せば、ぽこりと埃の足あとができる。「くっせぇくっせぇ」 ひんひん、と鳴きながら鼻をつまむ少年が、うぎゃあ、と吠えた。うるさいな、とぼやくメガネの頭を殴る。 足あとだ。埃だらけの中に、コツコツ綺麗な足あとができていく。 「気に入りましたよ」 中々いいじゃありませんか、と笑う男は、楽しげに口元をいじった。 「千種、犬。僕は、この街が気に入りました。なんとも腹が立って、いらついて、むずかゆくて *** 「並盛中の生徒が無差別に襲われる事件が多発してる?」 そりゃまた大変だね、とのんきにソファーの上であぐらをかいた男は、“自称”雲雀恭也の友人だ。応接室のテーブルの上にちまちまトランプをのっけて、ピラミッドを作っている。携帯ゲーム機は尽く“友人”に破壊され、ひとりオセロも将棋も虚しいと思いきや、だんだん一人遊びが上手になってくるこの頃らしい。 委員長も奇妙な友人を持ったものだ、と草壁は口に含んだ草を揺らした。視線をずらせば、とはひどく席を離して、いうなれば端と端に極限に間を置いて座っている男が目についた。「草壁さん、深刻そうな顔してるね」 喧嘩なんてよくあるじゃん、と日常的に雲雀恭也とタイマンをはる男の台詞に、ああ、と曖昧に頷いた。 「ああ、もしかするとその犯人って雀くん? 一番疑いが濃い感じで最悪だな雀くん!」 「一度死ぬかい?」 「あーピラミッドが崩れた」 致命的な破壊音が響いている。委員長が投げる鈍器をふらふら上半身の動きでかわして、崩れたタワーを嘆くに、草壁はわずかに瞳を伏せた。端的にいうと、わずかに頭がいたくなった。この二人を見ていると、少々脳の処理が遅くなる。 「いや、委員長が犯人というところはありえない……? に、しても、被害者は歯を抜かれている。少々悪質だ」 犯人ではないと言い切れないところがちょっとさみしい。「歯? ああ、そりゃ次が生えてくるまで困るな」「、永久歯であるのならば通常は生えてこない」「ああそうか」 俺、ワニだからこの頃ちょっと忘れちゃうんだよね、と再びトランプタワーの制作にかかる男の台詞は突っ込みどころしかないのでさておき。 「とにかく委員長。報告した通りです。、狙われているのは、喧嘩っ早い生徒が多い。お前も気をつけるように」 「うっはは、なにそれ。大丈夫だよ、俺喧嘩なんてしたことないし」 そういう危ないことは、雀くんに任せておくよ、とへらへら笑う男のタワーは、完成とともに崩れ落ちた。「あー……」 今度こそできたと思ったんだけどなあ、と肩をすくめる少年に、草壁はまた眉間に皺を寄せた。我らが委員長は、どこ吹く風とばかりにあくびを繰り返している。 だから、俺は言ったのだ。 ボロカスに殴られた。わずかばかりに、自身の拳には自信があった。委員長ほどではない。しかしながら、たかだか生徒に遅れをとるほどでもない。対する相手は、草壁よりも小さな体躯を不意に膨らませ、拳を唸らせた。(人間ではない) この言葉は比喩ではない。言い換えるのであれば 爛々と瞳を輝かせる男は、べろりと舌で八重歯を出した。「んじゃま、骸さまのめーれーぴょん。何本だったかなー、何本だったかなー、五本? 十本? 思いだせねー。まあ少ないよか、多い方がいっしょ。はい、いっぽんめぇー!」 ガチン! とペンチで歯をひっこぬく。草壁は歯を噛み締めた。噛みしめようとした。けれども男はそれを許さない。二本目、三本目、はいよんほん! 楽しげな声が聞こえる。馬鹿馬鹿しい。何が目的かもわからない。そんな相手に、自身はのしかかられ、身動きすらもできない。 「そんじゃあ五本目いっちまうかぁー!」 ガチン、とペンチを噛みあわせた。そのときだった。 「…………何してんの?」 路地裏の入り口から、少年がちらりとこちらに顔をむけた。片手にスーパーの袋をひっかけて、血の匂いにくんくんと鼻を鳴らし、不愉快気な顔をする。「あー?」 かちんかちん、と不愉快気に男はペンチをならした。「お前、なんらぴょん?」「いや、お使い帰り?」 違う。そうじゃない。叫びたいが叫べない。違う。ガサゴソ袋を揺らしている場合じゃない。 *** たまたまお使いの帰りだった。さっさと帰らないと母さんにキレられる。晩飯の量が、父さんとくらべて無闇矢鱈に少なくなる。 育ち盛りの身としては、さすがにそれは困るというか、泣いちゃうよね、とあくびを繰り返している最中に、奇妙な悲鳴が聞こえた。また雀くんったらおてんばしちゃってるのかしら、なんて軽い気持ちで顔をのぞかせて見ればこれである。 ぽりぽり、と首元をひっかいた。つまれた木箱にもたれかかるようにして、見慣れた巨体が端っこで崩れている。「ごめん草壁さん。俺ケータイ持ってないんだ。救急車は呼べねーや」 そういう問題じゃない、とばかりに草壁さんは血だらけの顔を歪めた。その口元には、ぽこぽこと悲しげな穴がいくつか開いている。また首をひっかいた。 「病院行こうか。俺が担いだ方が早いし。そこのにーちゃんどいてくれない?」 至って平和的に俺は彼に声をかけたつもりだ。鼻の上に、真横にひかれた傷を持つ見覚えのない制服を着た男に、にかっと笑った。「お前ばかっしょ。どくわけねーじゃん」 見かけ馬鹿に馬鹿と言われた。 まあいいか、と持っていた袋をどすりと地面に置いてみた。コキコキと肩をならす。獣みたいな奴だな。なんとなくそう思った。けれどもまあ、獣レベルが高い少年は身近で見慣れすぎている。獣っ子はぱかっと口元を開けた。す、と息を飲み込んだ。そしたら相手は変に情けない顔をして、「ええと」と舌っ足らずに頭をかかえた。 「おまえ! 並盛中の山本ぶーか!」 高木ぶーの親戚か。 自分の台詞に、獣男子はさすがになんか違うかなと思ったらしい。ぽりぽり猿っぽく顎をひっかく。 「ちげえ、あの、なんだ、あー、山本で、山本で、ぶっぽい名前で、んんん?」 「……武?」 「それ!」 まさかの正解だった。 「残りの二個は、骸さまと柿ピーだし! 残ってんのそれだけなんら。お前、山本武じゃねーよな?」 もちろん違う。「並盛中だけど、山本くんとは別人だけど」 即座に否定すると、げらげら、と男は舌を出して笑った。「らったらランキングにものってねー弱っちーやつってことじゃん? 邪魔すっと、ぜーんぶ歯ぁぬいちまうぜぇ」 カチカチ、とペンチが動く。薄々気づいてたいたけど、とちょっとだけ俺はため息をついた。「犯人はやっぱり雀くんじゃなかったんだなあ」 さすがにそれはないと思ってたけど。「あん?」「しょうがないなあ。俺、さっさと帰んなきゃなんないんだけどな」 ぶつくさつぶやいて、両手をボキボキ鳴らしてみる。「喧嘩なんてしたことないから、粗相をしたら申し訳ない」「あー?」 ぶんぶん体を振ってみた。準備体操はバッチリだ。 「死んでもしらねーよ?」 「、逃げろ……!」 「草壁さんは、もうちょい待っててね」 ごめんねー、と軽く笑った。カチリ、と男はポケットから出した入れ歯を口にはめた。「コングチャンネル」 膨らみ上がった体を見上げて、「おお」とビックリ半分瞬いた。、と草壁さんの唸るような声が響く。「まあまあ、草壁さん」 拳を握った。 「すぐに済むから」 *** もうちょっとだよ、と軽々自身を運ぶに、ああと頷いた。「変なやつだったね。世の中おもしろい人間がいるもんだな」 血まみれの自身を背負っているものだから、時折悲鳴があがった。その度にはすみませんと頭を下げて、「まっすぐまっすぐ」と口笛をふく。その足取りはひどく軽い。 「、お前はどこも怪我は……」 確か幾度か腹を殴られていたはず、と記憶を思い返してみたが、「あん?」と足取りと同じく軽い声に、なんでもないと草壁はため息を落とした。「山本くんって言ってたね。もうちょっと殴っといた方がよかったかな」 初めての喧嘩なもんだから、勝手がわからなくってさあ、とぼやく声に、草壁は瞳をうすくさせ、小さく唸った。「いや、、それは……」 委員長と、幾度も馬鹿馬鹿しい乱闘を繰り広げているではないか、という言葉を言おうにも、口と腹が傷んでうまく声が出ない。だというのに、は彼の言葉を汲み取ってくれたらしい。 「あはは、雲雀くんとは、ありゃただの遊びっしょ」 さすがに今日はちょっとキレちゃったかんね、とけらけら笑う男の台詞に、何やら言いたいことがあったのだが、じわじわと意識が遠くなった。寝てもいいよ、と言われた声に、抗ってやりたいところだが、残念だ。「あ、スーパーの袋忘れてきた」 そっちの方も残念だ。 *** 走り抜けた。 だらりと口から伸びた舌から、はあはあと体温を発散する。逃げた。逃げた。死ぬほど逃げた。 (なんらよあいつ……!) 確かに殴った。ぶん殴った。コングチャンネルで変化したぶっとい腕で、あいつのみぞおちをえぐってやった。あいつは呻くどころかぴくりとも動かないで、そのまま犬の腕をひっつかみ、彼の巨体をぶん投げた。(意味わっかんねぇ!) アタリだ。 こいつはアタリだ。 腹のそこから冷や汗が出た。(とにかく、報告だぴょん) 骸さまに伝えなければならない。名前はなんだっけか。。そうだ、と呼ばれていた。 「……!」 今度会ったら。 「ぶっつぶす……!」 ひしゃげたペンチを、コンクリートの上に投げつけた。 TOP 2013/03/08 1000のお題【6 こ、殺してやる!!】 |