俺だってお散歩ぐらいする


お友達(違う違う)



いつまでも部屋の中に閉じこもったまんまじゃ体に悪い。悪すぎる。多分。お腹を掴むとあら不思議なぷにぷにボディなんて事にはなりたくないので、適度な運動と称して部屋の中をぐるぐる駆け回るのにはちょっと飽きた。その上めんどい。

さんがいつの間にか作っていてくれたらしい通り穴を通ろうと体を半分扉に挟まれた形になったとき、「あれぇ、ちくさくん」
お散歩なら一緒に行こうか、と彼女は言った。



ぎらぎら照りつけるような太陽光に、一瞬からだがぐらりとなりかけて「あ、俺やっぱだめだにゃーん」とか思ったけれど、何処にそんなものため込めていたのか、お腹の底辺りでぐすぐすと居座る根性さんが、よしせめてあの電柱まで行け! と叫んでいるような気がする。気がするだけ。だってめんどいし。
けれども俺は騙されない。どうせその電柱まで短い足をせかせか動かしたところで、よし次はあの看板まで! だなんて俺のキャラに似合わない発想になってしまうに違いない。

ぶっちゃけ今すぐお家にUターンして、太陽が沈んだくらいから俺の領域にゃんだぜとかいいたいけれども、俺の斜め後ろに、スキップ気味で歩くさんに、何故だか心がちくちくちした。「ちくさくんとお散歩だね、ちくさくんとお散歩だね!」 ………ちくちく、するにゃーん

そんなスキップ少女を放っておけない俺は、きっと人(猫)がいいに違いない。俺も負けじとばかりに足を伸ばして、いつも見る街の風景が、随分大きくて、パノラマサイズだ。


うーわんわんっ


聞こえた声に、ピタリと足を止めた。わんわん。想像できた。わんわん。この先にいる。
別に俺は犬が嫌いではないし、苦手でもない。しかしながら俺のサイズは、みにみにミニマム。まるで何かの習性のように、首もと辺りの毛が、ぞわぞわと動く。うーわんわんっ、声が聞こえた。

「ちくさくん?」

さん俺は別にヘタレとかじゃないからね、うん。めんどいだけだから。
そんな捨てぜりふを彼女が拾ってくれる訳ないのは理解していたけれど、しっかりと地面に立った四つ足を、ささっ、とつま先立ちのようにして、くるりんと180°回転した。「ちくさくん!?」 さんの声と一緒に、シュパパッ! と動く俺のこの足は、しょうがない。習性だ。犬見たらにげろ。超逃げろ!



たーんっ! とリズミカルに蹴っていたはずの足が、何かに掴まれた「にゃにゃっ!?」その上、背骨辺りに、何かの重力を感じた。「わふん」

とっても近くで聞こえる音に、だらだらと汗を流しそうになったとき、「ちくさくん!」とほんの少し息を荒くして、近づいてくる声がある事に気がついた。さんごめんなんか捕まった。
べったりと顔を地面にくっつけたままで、最後の抵抗くらいしてやるよめんどいけど、と垂直に顔をあげたとき、真っ暗にかかった影が、その茶色い犬の瞳をうっすらと曇らせる。

ぱくっ、と大きく口を開けた、耳がぴーん! ととんがった犬の、赤い舌がちろりとのぞいて、「あ、やっべこれ食べられる」とか不意に感じてしまった。なにそれ俺の人生犬に食べられて終わりですか。終わりなんですか。おあつらえ向きですか骸さまー!


「柿ピー冗談らってぇ」


どっかで聞いた事のあるような声が、耳の奥で響く。バカバカしいような舌っ足らずな声が、どっから聞こえて居るんだ、と視線をきょろきょろとさせてみても、お目当てのバカの姿はどこにもない。「柿ピーどこみてるんら? オレはこっちぃ」

何故だろうか、いやな予感がした。背中に乗せられた手首を、ひょいっ、とその犬はどけて、気のせいかにやついたような、口元に、鼻の上あたりに、見覚えのある長い傷。そこだけ禿げてるぞ。あまり上品とはいえないような髪質は、ピンピンピンとあらぬ方向へと、敢えていうなら天を向いて、ピンピンピン。


そろそろそろ。それと俺は距離を取るようにした。一歩逃げる。ずるずるずる。ソイツは俺へと一歩踏み込むずるずる。ちょっとやめろよあっち行けよめんどいな!「ちくさくん」


さっ、とさんに体を持ち上げられた俺は、それよりも、随分高い位置へと移動した。上から見上げると、そのバカ面がハッキリする気がする。「………犬」 喉の奥から出したような俺の声は、バカへとしっかり伝わったらしい。微かに動いたそいつの耳が証明した。念のため確認しとくけど、いぬとは呼んでない。けんって呼んだ。………まぁどっちでもいいよめんどいから。


俺をぎゅ、と抱きしめたまま、さんは、「ええっと、初めまして、ちくさくんと遊んでくれてたの?」とどうにもピントのずれたような挨拶をしている。さんそいつに挨拶とかいらないから。寧ろ無視してやって。あと遊んでない。
なんでだこのバカイヌ! と叫ぶ代わりに、じろっ、と睨んでやった。そうすると、犬はぴくっ、と首をすくめた後に、「オレも骸さんに、幻覚の実験しろっていわれたんだぴょん。二人一緒の方が、より正確にデストロイできるらしいっていってたんら」
そうか犬わかったぞちなみにデストロイじゃなくてデータじゃないかぴょん。最初の一文字しか合ってないぴょん。


「そんな訳で、オレは今、さすらいの一匹狼だ!」とか叫ぶ犬を見て、次会うときには保健所じゃないといいなと思った。



1000のお題 【368 こんなとこで死にたくない】





                         アトガキ

にゃんにゃん、ちょっとわんだから。

2008.06.29