クロームは、ただぼんやりと窓の外を眺めていた。
クロームさん寂しそう(そう見える?)
学校は嫌いじゃない。けれどもめんどくさいといえばめんどくさい。別に授業や宿題がめんどうだと彼女は考えるのではなく、人間がたくさんいる場所がちょっと面倒なだけだ。
話しかけられたからには頷くでもして相手をしなければならない事は知っている。それは犬や千種のようにつんと取り澄まして聞こえないふりでも決め込めばいいものの、人間社会で長く培われたクロームには難しい話だ。
それでも口元をもごつかせていると、あちらの方から早々に話を切り上げてくれるから、特にそこまで困っていない。
(………ひま)
特に変化のない窓越しに、風がながれたと思うと、大きく幹がしなった。その動きに合わせて、クロームは中々動きもしない表情とともに、微かに体を左右に揺らす。根本的に暇なのだ。アジトへ帰っても、犬はいないし、千種もない。敢えていうなら夢の中の骸以外、誰とも話すことのない生活を延々と続けている。苦はないが案外一人きりというものは寂しいらしい。
「………クロームさん?」
ふいに話しかけられた事に、クロームは特になんの反応も見せず、数秒後、ゆっくりとした動作で振り返った。クロームよりかは長い髪の毛を垂らした少女を見て、瞳へとつけた眼帯をカリカリとひっかく。
そういえば、クラスの中でこの子だけ話しかけてくるけれど、名前をまだ覚えていないな、とぼんやりとそんな事を考えていた。
少女と目が合わさっていても、クロームは微動だにせず、ただじっと少女を見詰めた。少女の方も、いわゆる慣れっことなってしまっているのか、にこにことした微笑みを絶やすこともなく、緑色のスカートを揺らせながらクロームの机へと片手を置いた。
「この頃、柿本くんと、城島くん、こないね」
別に、自分の返事を期待している訳ではないだろうとクロームはまた窓をじっと見詰める。別に彼らと一緒に暮らしていると公言している気はないが、彼らの後ろをちょこまかとくっつく自分を、彼らのペアと見なしているんだろう。別にその事についてクロームは否定も肯定もしない。
「さみしい?」
ガラスに映り込んだ自分の姿を見詰めながらも、特になんの動揺も生まれない。クロームがそれは真実だと理解しているし、相手はただの当てずっぽうだ。「はやく、学校に来たらいいね」
そう呟いた彼女の声をクロームは聞きながら、ぱくぱくと軽く口元を動かす。
「もうちょっとで、おわるから」
約一週間ほどぶりに開いたクロームの声門に少女は気づくはずもなく、「ね、クロームさん」と彼女はクロームへと同意を求めていた。 クロームは小さく頷きながら、骸の声を思い出す。そう、よくは分からないが、骸様がそういっていた。
みんなが集まった、あの所々壊れかけたアジトを頭の中で思い浮かべて、小さく、そのガラスの窓をノックした。
コンコン、と乾いた音が響く。
1000のお題【515 浮世離れ】

2008.07.29
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