もうそろそろ、骸様の幻術がとけるらしい。


元気がない(そう見える?)




犬からそう伝えられた事をただいまとさんが帰ってきたときに思い出した。とりあえずいつも通りにゃおんと鳴いた後で、そうだよ俺そろそろ元に戻れるんだ。
やっとか、と考えたとき、案外ほっとしていない自分がいた事に、ほんの少し驚いた。やっと元の姿に戻れる。長い手足でちゃんと二足歩行できるし、(別にもともとそんなグルメな気もないけれど)何でも好きなものを食べれる。
今となっちゃ微妙に懐かしいような気がする、あのほこりっぽい捨てられた大きなアジトへも帰れる。

よっしゃやったぜと元々両手を上げて喜ぶキャラじゃない事は知っている。けれども今の俺は「あ、そうなんだ」といきなり背後から剛速球のボールをぶつけられて痛いけど頑張って平然としてます的な感じだ。どんな例えだ。

「なんだか元気ないね、ちくさくん」

しょんぼりと眉毛を八の字にしたさんに、申し訳ないとなんとなく思った。別に元気がないわけじゃない。いたって普通だ。ただ、
(そうか、彼女と、さよならしなきゃならないってだけか)

学校で、また会えると思う。俺はあまり学校へは顔を出す人間じゃないけれど今度会ったら頭ぐらい下げてみてもいいかもしれない。
いいや挨拶くらいならしてあげるよ。
今生の別れって訳じゃない。それでも何故だろうか、ふさふさした胸の毛の、またその少し後ろくらいが荒縄でぎゅうぎゅうと握りしめられる感じだ。超ぶっそうだ。


俺は、さっさと早いところ、この家を抜け出さなきゃいけない。彼女の前で元の姿にでも戻るもんなら、俺は本気で首をつってしまいたい気分になると思う。
いつも通り、さんと一緒に布団に潜り込んで、「ちくさくん、おやすみなさい」と静かに響いた言葉に、ゴロゴロと静かに喉を鳴らせてみた。彼女が嬉しそうに笑った。

そのままゆっくりと瞳を閉じる彼女を見詰めて、俺もほんの少しだけ瞳を閉じた。もう少ししたら、この家を抜けだそうと思う。
それまでもう少しだけ、と体を小さく丸めて、あまり上手く動かない指に、ぎゅっと力を入れた。
おやすみなさい、さん。さようなら、さん。



1000のお題 【791 一回お休み】




2008.08.06