久しぶりの人間の体は、なんだかちょっと歩きづらい。


飼い主さんのところ(超います)




基本的に今まで四本足だったのだ。猫のときにこっそりと二足歩行の練習をしてた事もあるけれどめんどいなとすぐさま諦めてしまった。そんな訳で頭の中のバランス感覚が完璧にねじれてしまっている俺は、右足を一歩踏み出すだけでふらりふらりと体が揺れる。なんだこれ勘弁して!

「柿ピーばかみたいだー!」

と犬がニヤニヤと四つ足の体勢のままニヤニヤとしている事に何故だか無性にむかついた。お前元々四本足か。楽でいいな、もう俺もプライド捨ててそれやっちゃおうかなでもやんない。

クロームであり骸さまでもある彼は、窓のそばの、ほんのちょっと出っ張っている場所にお尻を埃だらけにしながらちょこんと座っている。骸さまその服ホント埃目立つんでやめた方がいいですよと進言するのはめんどいので取りあえず見守る事にした。

「なるほどいいデータがとれました。千種、犬、お疲れ様です」

と、骸さまは手元に持った数枚の紙を見詰めながら呟いた。いいデータってどんなんかなあ。クフクフ笑う彼を、ふらふらした体のまま見詰めて、頭の中はさんの家へとトリップしている。さん元気にしてるかなぁ、いきなり猫がいなくなって、ビックリしてないかなぁ。
探さないでくださいとでも書き置きなんで出来たらよかったろうけど(この際めんどいとかいわない)残念ながらどこの世界に文字が書けるにゃんこがいるっていうんだ。………や、それでもやっぱりよかったかな。心配してたらどうしよう。


「千種!」

耳元でいきなり骸さまに怒鳴られて、俺はワンテンポかツーテンポ遅れた後にたっぷりと間をおいて「…………はい」と答えた。「もうちょっと早く反応しなさい」と怒られたけれどこれが俺のペースですからと反論する事も出来ないので、取りあえずこくんと首を縦に振っておいた。あれだ、善処します。日本人ってこれよくいうよね。俺日本人じゃないけど。

「どうしたのですか、随分ぼうっとしているようですが」
「………………」
「早く反応なさい」
「…………………いつも、こんなん、です」


本当にそうだろうか。いつもよりも、何倍も思考能力が遅くなっているような気がする。ずるずるとずれてきたメガネを、人差し指と中指できゅっ、とあげると、呆れたような表情をした骸さまがふうと軽いため息をついていた。


なんとなく俺もため息を吐きたくなって、さん元気かなぁ、と真っ暗な天井を見詰めながら、そう考えた。
(なんとなく気になるので、今度学校に行ってみようと思う)



1000のお題 【470 「探さないでください」】






2008.08.06