学校へ行ってみる事にした。


寂しいよ(久しぶり)





とはいっても、服をかえるのがめんどいというだけで俺は毎日制服だし(時々は着替えるけど)ぺこんと凹んだ特に何も入っていない鞄を肩に掛けている以外、普段と変わる事はない。けれども犬は「あー柿ピーがっこーいくのーでも俺めんどいからいかないー」とゴロゴロと転がりながらいわれて、特に俺から話した訳でもなんでもないのに、後ろをちょこちょこついて回るクロームに何故だか妙な気持ちになった。

どっかの誰かのイヌの所為で散らばったおかしの袋が、踏みしめるたびにガサガサと音がする。邪魔だ。
そろそろ二本足にも慣れてきた。時々やっぱりふらつくけど、そのたびにクロームが情けないような顔をしていて、取りあえず根性で踏みとどまっている。俺すごい。


久しぶりの学校は、相変わらず面白くもなんともなさそうだった。授業中の教師の声は子守歌にはちょうどいいんだびょん。とかお前色々舐めてるだろという事を犬がいっていたけれど、案外それも間違いじゃないなとか思ってしまう。
(元気だろうか、さん)

扉の、削られた部分に指をかけて、何故かどくどくと体の内部が音を立てている事に気づいた。ゆっくりと心臓部分へ指を伸ばしてみると、内側から押されて、小刻みに振動する指先をじっとみる。元気だろうか。
頭の中で、いつも通り、「おはよう、ちくさくん」と彼女がにっこり微笑んでいる姿を思い出した。なんでこの子はいつも嬉しそうに笑っているんだろうと、常々思っていたけれど、今はそんな事どうでもいいな、とちょっと思う。
めんどいなぁ、と色々と思っていたけれど、別にそんなにめんどくなかった。さんが嬉しそうだったなら、猫じゃらしだってなんだって遊んであげる。流石にこの格好じゃ、もう勘弁だけど。

入らないの、とクロームが困ったような声をあげた。入るよ、といつもながらぶっきらぼうに、ドアを開ける。
ガラリと少々乱暴な音をたてて開けたとき、猫背気味な俺の視線の先に、ちいさな女の子が立っていた。
ほんの少し目が赤くなっている目をこしこしと左手の甲でひっかいて、ぺちゃりとつぶれたような笑顔の女の子を、誰だこれは、と考えた後に、そうだこれはさんだ、とやっと気づいた。

さんは、こんなに小さかったのだ。もっともっと、見上げるように大きいのだと思っていたけれど、そういえば、彼女はもともと、こんなサイズだった。すっかり忘れてしまっていた。


(今度学校で会ったら、挨拶ぐらいしてあげるよ)

そう考えたはずなのに、俺はぬーっ、とドアに立ったまんまで、後ろのクロームがウロウロと体を行ったり来たりしているのが、がさがさうるさい音で分かった。
おはよう、その一言でいいはずなのに、俺はじっと上からさんを見下ろしていて、さんはまたじぃっ、と俺を見ている。

「おはよう」

俺の声なんかじゃない。小さく響いた柔らかい声は、彼女の声だ。俺は実はこっそりとビックリして、ドクドクと聞こえる体の中に耳を澄ました後に、いつもみたいに、てんてんてんと暫く間をとった後、「おは」よう、さん

「クロームさん」


彼女は、俺とドアが作る隙間へと、体をずらした。「えっ」ときょとんとしたような声を作るクロームが無性にいらつく。えっじゃないよえっじゃ。せめておはようって言い返せ。
その後彼女は俺へと小さく頭を下げて、手に提げた筆記用具とノートと教科書に、そうか移動教室だから、もうどこかへ行ってしまうんだと小さくなる背中を見詰めて思った。

俺はどさりと自分の席へと荷物を置いて、うろちょろするクロームに、「なに」と声をかけた。案外低く響いた自分の声に、少し驚いた。
もう帰ってしまおうか。背中からもたれかかるように、イスへと深く座り込み、軽くため息を吐いた。けれどもクロームは、特に何も気にした風でもなく、俺の机の前で、じっと俺を見詰める。

「さみしい?」

なにおまえ、それ誰かにいわれたの。
頭にかぶったニット帽子をずりずりと片手で引き下げて、メガネが軽く鼻先へとずれる。「………なにそれ」
さみしいって、なにそれ



1000のお題 【624 メンドイ】




2008.08.07