三上亮に勝てないのならば、周りの柿根を倒せばいい。
なんて考えついたのは、布団の横にある目覚ましが丁度鳴ったときだった。

(柿根じゃなくて垣根よ! by


噂をながす





頭の中で、ぐるぐると今日いうハズの台詞が回る。
『三上亮は狡猾でインケンで、ねちっこい気質で、ゲロ甘フェイスで女の子を拐かしているのです!』

我ながら、中々なとぼし文句だと思う。


計画は、こうだ。適当に、三上亮の知り合いにこの台詞をいって、着々と三上亮の評判を落とす、名付けてネチネチ影でコソコソ作戦なのである。
(頭の中でリハーサルしながら、只今裏庭でお昼ご飯中)

ところで、問題がここで一つ。

(…誰にコレいおう)
渋沢くん? 絶対ダメ。爽やかに笑ってお父さんみたいに、寛大な心で受け入れちゃう。
タクミくん? そうなんですか。の一言で終わりそうだから、ダメ。
? …別ににいってもなぁ。


うー、と唸りながら、ひたすらモソモソお昼ご飯を口に含んでいたら。


「あーっ、さんだ!」

よく知らない泣きぼくろ少年が、やって来た。








「気持ちいいッスねぇ」
「日差しがぽかぽかだからねぇ(…あれ? なんでこんな事に)」


ふかりと緑色が広がる絨毯に2人で腰を下ろして、ぼへーっと空を見つめる。
少年に何でこんなトコに? と訊いたら反対に訊き返されそうで恐くて訊けず、只ぼーっと(私の場合、三上亮をおとしめようとしてここに居るんですから)


「少年君」
「誠二ッス。藤代誠二」
「ああ、藤犬…」
「…藤代ッス」

俺って結構有名人なハズなのになぁ、と肩を落とす勢いで、しょぼーんと、尻尾が垂れた犬のように、大きな体を縮こませる少年を見つめて、クラスの子らの写真売買でトップ4の中に入ってた子な気がする、と他の人よりも自信のない記憶力をフルに回転させた。

確か、確かそう、

「…サッカー部?」
「そうッス!」


(…犬の尻尾が、動いた)
ちょっとかわいい。


「っていうか、サッカー部?」

大きく首を立てに振る、藤代君。

「もう一度訊くけど、サッカー部?」

もっともっと大きく首を立てに振る、藤代君。

「…三上亮って、知ってる?」

上と同じく。



(…これは)(これは、これは、これは)(こ、れ、は…っ!)



鴨がタマネギを背負って、やってきた?(…あれ、タマネギ?)




「あのさ、藤代君」

『三上亮は狡猾でインケンで、ねちっこい気質で、ゲロ甘フェイスで女の子を拐かしているのです!』

ぐるり、と今日の午前中ずっと考えていた私なりのとぼし文句が頭を回った。

「み」

狡猾で、インケンで

「みか」

ねちっこい気質で

「みか、み」




(ホントにそうだっけ?)


真っ暗に沈みかける夕日の中、手を伸ばしてきた三上亮
目の前にいきなり現れて、格好良くボールを取った三上亮


(そうだっけ?)

私は、一体何がしたいんだ、とか。
こんな嫌なうわさ話なんか流して

何がしたいんだろう



さん?」
「…なんでもない」


(フクシュウしたいんじゃなかったっけ、私)
(誰に? 何に?)
(なんで私、こんなチクハグになってるんだろう)


ぐちゃっと潰れてしまった、砂で出来たお城を、なんでだかいきなり思い出した(潰してしまったのは自分自身だった事も、いきなり思い出した)


キンコンカンコン、と聞こえるチャイム音。
三上亮がいる、教室に帰らなきゃいけない時間が近づいた。
重い腰を、ゆっくりと、上げると、ぐいっと藤代君に捕まえられた。


「藤代君?」
さん」



下から見上げられるその目は、只、鋭く、射抜かれるように


「ふじし」
「三上先輩は!」
「ふじ」
「三上先輩は!!」


一呼吸、おいて


「三上先輩は狡猾でインケンで、ねちっこくて、お得意のゲロ甘フェイスで女の子キラーなんス!」

「だから」

「タクの方が、いいッスよ」






(…キミの方がゲロ甘フェイスだよ)

藤代くんの極上の笑みを見たら、なんだかどうでもよくなった。




1000のお題 【837 うわさを流す】


三上視点へ





2006.10.13