…なんで、先輩、こんな所に居るんですか。
クールダウン
「んん…」
「先輩、起きましたか?」
小さく声を立てて、ぱちりと大きめの目を開く先輩の頭を、無意識のうちに何度か撫でた。質のいいその髪が、さらりと俺の手を流れる。
「タクミくん?」
「そうです」
「ここは?」
「俺と誠二…、いや、まあ、寮の部屋です」
とろん、とした目で、きょろきょろと辺りを見回して、こっちは綺麗だけど、あっちは汚い部屋だねぇ、と俺の布団に入ったまま、ほにゃりと笑う(ちなみに先輩、それは誠二が使っている所と俺の使っているエリアの差ですよ)
「なんで、私ここにいるのぉ…」
「先輩が、男子寮の中で倒れてたんですよ」
呂律の回らない舌の先輩も、可愛いな、とかそんな三上先輩のように変態チックな事、俺は考えてない。まあ、それはおいといて。
潤んだ瞳、紅潮した頬、呂律の回らない舌。
(可愛い)
違う、俺の思考ストップ。
(これは、完全に…酔ってるな)
寮母さんに先輩を渡さなくて、正解だ、と自分の勘を信じてよかった、と胸をなで下ろした。たまたま、誠二が遊びにと繰り出していて、たまたま、サッカー部が休みの日でよかった、と俺の運の良さに、感謝する。
「先輩、何かお酒とか、飲みました?」
「飲んでにゃいぃー…」
「じゃあ何か、飲まされました?」
「が、お水くれた」
(…って、誰だ)
名前からして、男ではないだろう、と勝手に納得させてもらう。
「じゃあ、先輩、何で、男子寮にいるんですか?」
「んむぅ」
「せんぱい?」
もう一度、手を伸ばして、軽く頭を撫でながら、にこりと笑う。
「いいこですから」と小さく呟くと、渋々口を割る様は、どこかの子どものようで可愛らしい。
(酔っぱらいってちょろいな)
「みかみ、あきらに、違うっていうの」
「何をですか?」
「みかみあきらがねぇ、私が、みかみあきらの事、すきだって、いうの」
「それが違うんですか」
酷く、ゆっくりとした動作で、何度も先輩の頭をなで続ける。
「…ほんとに、違うのかなぁ」
何が? なんて聞くまでもない。
(先輩って、鈍感なんですね)
「みかみあきらをね、見ると、胸がきゅーってなんの。どきどきするの。それがね、は、あんたは、みかみあきらの事が、好きなのよ、ってってたの。そうなのかな。ホントにそうなのかなぁ。ねぇ、タクミくん」
(俺に聞かれても、困る)
(そんなの、決まってるのに)
「先輩」
(ここで、違うっていえたら、どんなに楽なんだろうか)
只、先輩に、俺は。
(気づいたら、唇を合わせていた)
きゅ、と掴んだ先輩の後頭部が、微かに揺れる。
「…ん、ふ」
ぱたり、と先輩が微かに動く抵抗が、ギシギシと体に乗りかかる。ズキリとえぐるように痛くなる。
(先輩、先輩、先輩、先輩、先輩、)
「タク…んんっ」
(俺は、)
「やだぁ…」
「先輩、嫌ですよね」
「やだぁ」
「三上先輩からだったら、どうなんですか」
「…やだ」
「本当に?」
「ほんと」
「本当に?」
(俺は、)
「答えが分かってから、答えを出して下さいね」
(泣きそうになる、ってこんな気分なんだろうか)
1000のお題 【36 クールダウン】

2006.10.14
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