あー、思い出せねぇ




花屋の店先に






久しぶりの休みで。
する事もなく、バカ代を殴っても暇で暇で。
ぶーたれるバカ代を、笠井に押しつけて散歩中。

「つーか、休みって言われてもナァ…」

いきなりで困る。監督の用事か何かしらないが、別にいいじゃねぇかよ、いつも通り部活しちまっても。はー、と深くため息を吐いて、それでも只時間が過ぎていくのはもったいない。

取り敢えず、適当に、いつもと違う道を歩いてみる。
いつもと一本外れた道を歩いて、適当に、適当に歩いて。


「…パソコンでもいじっときゃよかった」

特に何の発見もする事がなく、只歩くだけ。
腕時計の時間を確認してみると、まだ昼ちょっと過ぎ。
もう寮に戻っちまうか、とも考えたが、それをすると今の今まで歩いてきた俺の時間がもったいない気がする。はー、ともう一度ため息。


こんな事になるんなら、と遊ぶ約束でもしときゃよかった。

女子寮に連絡してみても、実家に帰ったって事で声すらも聞いてねぇ。
これも、なにも、いきなり休みにしやがる監督の所為じゃねぇか。


もう一発、ため息

「帰るか」

パソコン決定、くるりと反転

「あれー、三上せんぱーい?」

もう一回、くるり。


「…?」
「はいはーい、です」

小さな体いっぱいに、あり得ない程たくさんの花を彼女は抱えていて。
色とりどりの花に囲まれる少女は、俺が言うのは何だか中々、いや、まあ、その、あれだ。

「何してんだ、お前」
「何って、店番ですよ」


ほら、とは右手をちょいと上げて、ほんの少し古ぼけた屋根の上の方へとかけられている看板を指す。そこにはでかでかと、秋乃花屋、なんて分かりやすい名前が掲げられていた。


俺はあー、と低く唸りながら、頭の中に本のわずかに引っかかっていた情報を引っ張り出す。

 部活、園芸部、委員、園芸委員、実家、花屋

あまりにも分かりやすすぎるその情報はすっかりと俺の頭の中に埋まってしまっていたらしい。俺様の素敵な記憶のタンスの中にそれはぎゅうぎゅうに、押しつけられていた。


「花屋の店先に、ねぇ」
「なんですか?」


なんか思い出しそうなんだよな、と思いながら「なんでもねぇよ」との頭へと手を伸ばしてぐりぐりとなでつける。それを止めて下さいよーと大量の花を持っているせいか、いつもよりも小さな反抗。…うん、可愛らしいじゃねぇの

「せんぱい、私店番ありますんで」

うーうー唸りながら俺の手からそいつは逃れて、抱えた花を近くのバケツへと放り込む。おいおい、もうかよ、なんてガラにおもない事をほんの少し思ってしまった自分に腹を立てながら、それでも何故だか視線はを追ったまんまだ。

そんな俺を見て、はにこりと微笑って


「…お客さんとしてなら、構ってあげないこともありませんよ」



ああ、こいつは世界で一つだけの、俺の



「せんぱーい?」
「なんでもネェよ」

ほんの少し赤く染まった頬を隠すように、またそいつの頭を力一杯なでる。
「なにするんですかー」といいながら小さな手をコイツはパタパタと振り回して。
取り敢えず、思い出した、と一人ため息を吐いた。




1000のお題 【世界に一つだけ】