一緒にご飯なんてどうかしら。


いただきます




うちの両親は、いない。いや永続的にではなく一時的に。簡単に言うと出かけている。というか、基本的にアイツらは家に居ることよりも、外に居る事の方が多い。今までの俺はこの状況をどう打破していたかというと、戸棚に入っているカップラーメンにお湯を注いで三分待っていた。そしてそのまま箸を使って口の中に放り込んで。
作れば出来るんだろ、といわれれば否定はしない。面倒くさい。正直俺の中でそれが大半にしめていた。

(ねぇ柾輝くん)

扉を出て、呼び止められた声に振り返って、パタパタと手をふる女性。

(一緒にご飯なんて、どうかしら)

      正直、願ってもない誘いだった。






目の前に置かれた暖かい湯気を出す食事に、思わずごくん、と唾を飲んだ。正直この頃三分待つメシしか食ってねぇし、うちのお袋のメシはお世辞を言っても上々とはいえない。だから、ごくん。もう一回唾を飲み込んだ。
…………そのまま手を伸ばしたいところなんだけどよ。

「ごはんっがごっはんっがすっすむっくん! おかわりー」
(………そうだよな普通にいるよなナチュラルに)

なんでだか隣にちょこんと座ってバタバタ足をふる小さな物体を、つん、とひっついてコロリと頃がしたくなる衝動に駆られた。ころころころころ。多分この小さくてまるい物体は、制限なく遠くへと転がって行くのだろう(そのまま行ってくれたらどんなに楽な事か)

正直言うと、俺はコイツが苦手だ。初対面で目が合ったとき泣かれた事はバッチリ記憶に残っているし、こないだだって目が合った途端に泣き出しそうになった(泣かなかった事は少しの進歩かもしれないが)
俺はガキがそこまでキライという訳じゃない。あっちが俺を嫌うんだ。泣かれるたびに、「お前の顔は怖いんだよ!」とハッキリといわれてるような気分になって、正直気が滅入る。「ごっはんっがごっはんっが」(うるせぇな今考え事してんだよ)だから俺は決意した。このガキとなるべく関わらないように生活していこうと。「すっすむっくん〜」(うるせぇってば。つかソレなんだよ)よしそうだ、これから関わらないように関わらないように関わらないように

「まずいっもういっぱいー」
「(つっこむな俺つっこむな俺つっこむな……っ!)」
「でぃぽびたんでー」
「ち、ちが…(落ち着け俺落ち着け俺落ち着け俺)」

取りあえず自分の口を押さえて、目を瞑った(あと一歩でつっこむところだった)なんとか静かになったらしいに、ふう、と一つため息をつくと、おばさんんが「柾輝くん、どうぞ食べちゃって」といわれたので、「あ、ハイじゃあ遠慮なく」と、銀色のスプーンに手を伸ばして       (じー…………)何コレ隣からの視線がイタイんですけど


…………ちらり。隣を見てみた。
唯でさえでっかい目をもっとでかくして、じー………(なんか凄い眼見されてんだけど俺)

右手に持つスプーンを、ひょいと上にあげてみた。じー。の視線も上に上がる。右に伸ばしてた。じー。の視線も右に移動する(なんだこの物体)(俺の事キライじゃねぇのかよ)(っていうかどこのお預けくらった犬だよ)

なんとなく、そのまま食べるのは気まずいので、何故か俺もを見つめる事になって、隣でおばさんのクスクス笑い声が聞こえる。「ま、柾輝く……クスクス、あのね、クスクス」なんだっていうんですか。

ああもういいそのまま食っちまえ、とメシに向き直ると「あ」と小さな声が聞こえた。(………なんだよ)

「ん、んっ」
また小さく声が聞こえて、ちらりとそっちを見てみると、小さな両手をぽんぽん、と何度も叩く。……なんだよ。お手々とお手々あわせて幸せ?
「ん、んっ」
いやだから何だっての。
「んーっ」

が俺の手に小さな小さな手を伸ばした。ぎゅ、と掴まれた手首はなるほど小さな紅葉みたいだとか一瞬思った。きゅ、と力一杯握られてるはずなのに、全然痛くない。…いたくない。
ぎゅ、とは俺にも両手を合わせてきて「お、おいなんだよ」「んんー!」(んんーっていわれても)

ぎゅ、と掴まれた手を乱暴に降って、放す事は、多分簡単なんだろうけど、俺にはこんな小さなガキに対して、そんな事をする勇気はない(くずれちまいそうだ)(第一親が見てる前でそんな事しねぇよ)
ぱんっぱんっ。に掴まれた俺の両手は小さく何度か音をあげた。

(ああ、これってもしかして)
久しぶりだからすっかり忘れてたけど。

はなせ、とに小さく俺はいった。一瞬、はっとそいつは目をおおきく開けて、ゆるゆると俺から手を放す。違う俺は別に怒ってる訳じゃない。
(ごほん、と俺は一つ息をついた)

「………いただきます」

しっかり俺の手は両手を合わせて、一体何年ぶりかって言葉を口にした。あとちょっとで忘れてそうな言葉を口にした。
これでいいかよ、とを見ると、「よく、でひまひたっ」と舌っ足らずな言葉でにっこり笑う。小さな拍手はおばさんが。「よくできました」偉いね柾輝くん。………そんな事、いわれても。


そのまま銀に光るスプーンに手を伸ばして、口の中に放り込んだ。久しぶりに食べた飯は、暖かかった。「おいひいですか」また舌っ足らずなの声と、「おいしいですか?」とクスクスと笑いっぱなしなおばさんの声が聞こえた。「……うまい、です」
それはよかった。と聞こえるおばさんの声が、妙に何処かにしみこんだ。




1000のお題 【740 いただきます】







2007.10.08