この頃、が苦手だとは思わなくなった。


ごちそうさまでした




学校から帰ってきて、重いランドセルを、背中に背負ってポケットの中からがちゃがちゃと家の鍵を探す。どこに入れたかな、と考えながらランドセルは重いので、腰を横に落として地面においた。すっと背中が軽くなる。「    あー」………ついでにマヌケな声も聞こえた。

「おかえりなのー」
「………ただいま」

にっこりと、顔に泥をつけながら隣の家の庭でバタバタと暴れるご近所さん。今までの俺だったら、正直見ないふりが関の山だったと思うけれども、この頃は挨拶ぐらい、と思うようになった。こっちこっち、と手をふるに、ふう、と小さなため息をついて、分かった分かった。と小さく返事。


青いブルーシートの上にちょこんと座って、手に持つおちゃわん一つ、ぐちゃぐちゃにすりつぶされた泥ひとつ、バケツの中に大量の水一つ。………お前、なにやってんの?「おままごとー」………おままごとににしちゃあ、ちょっとアクティブすぎねぇ?「あく、く?」悪いなんでもない。

はくいっと首を横に傾げてもう一回「おままごとなのよ」と呟いた。俺自身そんな事した事はないが、だいたいおままごとといったら、一人でするもんじゃない気がする。けれどもはちょこんと一人で座って、一人でパクパクとご飯を食べるマネをしていた(さすがに茶碗に盛られた泥を食べる訳にはいかない)

「お前、ひとり?」
「んー」
「ともだちは」
「ずっと、あっちーのほー」

小さな指を精一杯立てて、俺の右側をビシリと指す。ずっとずっとあっちのほう。が来た方よ。と呟いたのが聞こえた。(そうか、そういやコイツは引っ越して来たんだったか)(こっちにゃ一人もいないのか)

そう考えるとなんだか変な気分になって来て、俺もブルーのシートの上にちょこんと座る。がでっかい目を見開いて、まるで「なにしてるの?」といった感じに首を横へと倒した。俺だって聞きたい。俺なにしてるの? ってな。
こくん、こくん、とは何度か首を左右に降って、どうでもよくなったのか、今度は手元にある茶碗をじーっと見つめて、また食べるフリをし始めた(やばい俺なにしてんだよ)「たべ、おわ、った!」 一瞬、がでっかい声を出して、とんっとシートの上に茶碗を置いた。俺は正直どうしていいか分からなかったので、シートの上で正座しなおした。

、たべ、おわったのれす」
「…………」
「たべおわったのれす!」
「………ん、あ、ああ。そうか」

お互い正座で見つめ合って、こくんこくん、とは首を左右に振って。なんだよ俺どうしたらいいだよ、とホントにもう訳が分からない。
は何もいわない。じーっと俺を見つめて、俺が何か言うのを待っている。


「……………あー………おそまつさまでした」
「んっ、ごちそう、さまでひた!」


なんだかんだで、俺とこの小さなガキは、なんとか上手くやっている気がする。




1000のお題 【741 ごちそうさま】






2007.10.08