「まさきくん、まってぇ」
迷子ちゃん
ちょこちょこと後ろについて回るの手を、ぎゅ、と握りしめる。手に持ったメモの中は、おばさんから渡された今日の晩ご飯の献立。二人でいってらっしゃい、と小さく手を振るおばさんが、にゅっと頭の中でリピートされる。
「、迷うなよ、人が多いからな」
パッと変わった信号を、二人でゆっくりと歩く。それと一緒に動き出した周りが、ざわざわと林の中で風がふいたように。ざわざわ。「まさきくん、くるしぃ」「もうしょっとでスーパーだ。我慢しろ」「うー」
ぎゅ、と掴んだ手を、放さないように、ぎゅ、と。
黙々と、てくてくと。歩いていく道に、きゅ、とが、俺の手を引っ張った。「ねぇ、まさきくん」「なんだ」「……まさきくん、お家に、帰らないの?」「買い物が終わったらな」「ちがうのよ、まさきくんは、まさきくんのお家に、帰らないの?」
「………帰らない」
なんでぇ、と少し舌ったらずな声が聞こえた。手に持つメモが、ぐしゃりとつぶれた音が聞こえて、「何でもだ」と答えると、また、なんでぇ。
ざわざわ動く人混みの中で、ぽつりと立っているような気持ちになった。ぽつり。ぐ、と苦しくなった息に、咳き込む前に、高い小さな悲鳴が、耳をついた「 いたいっ」 はっとした。思わず両手に入った力をぱっとぬいて、「、悪い、」と下を向いた瞬間、するすると抜けていく小さな手が、波の中に飲まれていく。「 !」
かき分けた。ぶつかる大きな波をかき分けて、小さな小さな少女を捜した。(まさきくんが泣いたら、 も悲しくなる)(泣くなよ、俺が悲しくなる)
「ま、まさきく、」
くるくる流される体を、ぎゅ、と引っ張って、引き寄せて。確かにぽかりと暖かくなる胸に、は、と息をついた。柔らかい髪の毛をぎゅ、と片手で引き寄せる。思わず堅く閉じた瞳を、開かせて。
「俺は、まだ帰らない」 もうすこし、待ってくれ。と耳元で呟くと、うん。と頷いた声が聞こえた。
(まだ、すこし)
1000のお題 【940 迷子ちゃん】

2007.11.18
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