「…珍しいね」

一馬の部屋で、ぽつりといった俺の言葉に、結人は不思議そうな顔をした。


達観する若者




「何がだよ、英士」

今現在、この場に一馬はいない。何故かというと簡単で、俺たちに出す飲み物を取りに行っているからだ。ちょっと待ってろよ、といって部屋を出て行ったのが、約2分前。もうすこし、一馬は戻ってくる事がないだろう。

「ほら、アレ。珍しいと思わない?」

一馬の机へと指をさす。結人は不思議そうに、「俺の机よりは綺麗だ」といっていた。そりゃそうでしょ。俺はすぐに「違う」という「何が?」一馬を待つ、暇つぶしの時間として、その程度の疑問で結人は言葉を返す。

「写真、クラス写真かな」
一馬にしては珍しいよね。

そこまでいって、「あぁ、」と結人はぽんっとグーにした手と、パーにした手を打った。めずらしいめずらしい! とニヤニヤとしながらその写真へと向かう。…何してんだ、お前は。

「だってさぁ、英士、分かるだろ?」

嬉しそうに、その写真を手に取って、俺へと突き付ける結人に何故だかイラつく。いや、鬱陶しいって証言が適切かもしれないね。自分で話題をふっといてアレだけど。

分からない、と正直に首を振った。
ええ? ホントに分からない? 結人がいう。

「で、何?」
「つまんない反応だねぇ。オンナだよ、オンナノコ」
「ああ、なるほど、ヘタレらしい反応だ」
「その子の写真、直接貼れないから、クラス写真で、ってか」


妙に、結人の頭の回りがいいと思ったら、それか。と言うのが本音だけど。そうか、一馬に、好きな子か。部屋の中を見ると、簡素なもので、残るものはサッカー関連(俺の部屋も同じようなものだけど)そうか、そんな一馬に、好きな子か。
ああ、これもしかして、旅立つ雛を見送る気分?

丁度良いタイミングで、窓の外から見える木々に、ピーチクパーチクと小鳥が飛び交う。そうか、一馬が、好きな子か。ちなみに彼女が出来たとかはありえない(ヘタレだから)

「なぁ、英士、誰だか当ててみようぜ」
「後で一馬に訊けば?」
「それは後でも出来るだろ?」

今だけしかできない事を遊ぶのさ、とかいいながら、あ、この子か、この子だ! といっている結人を見る。俺はそっと、その結人が指さしていた子を見てみたけれど、多分違うだろうな、と思った(なぜならそれは、明らかに結人の好みの子であり、一馬とはかけ離れていたからだ)

(…一馬なら、もっと違う子を選ぶと思うんだけど)

もう一回、チラリと見てみた。

その瞬間、一人の女の子が目に入った。
どちらかというと、地味な空気だったけれども、何故か。
(この子だな)

ちなみに確証なんてゼロだ。けれども確信している。



茶色いドアの向こう側で、階段を上るような音が聞こえた。三人分の飲み物を持っている所為か、ほんの少し、緊張をはらんだような音だった。

結人が正解か、俺が正解か。
答え合わせの時間がやってきたよ、とぼそりと呟いた。
お! そうか、と扉へと目を向ける結人が見える。



…残念、結人。
答え合わせなんてする必要もないんだよね。
(なぜなら俺が正解に決まっているからだよ)


ギイイ、と音をたてて、扉が開けられた。




1000のお題 【855 達観する若者】




  


2007.05.04