| *お互い高校生だったときの短い話 あいたいなあ、と思うときがある。 カチコチ、とケータイをいじった。それから、正座をして、唸って、ぽすっと携帯を布団の上に投げ捨てた。部屋の中の相棒のクマをもふもふと抱きしめて、勝手にとがる唇に気づいて、ぱしぱしほっぺを叩いてみる。(あいたいなあ) 山口くんに会いたい。 未送信のメールが、ぽんわりと布団の上で光って存在を主張していた。 『山口くん、今、なにしてますか?』 中学生を卒業して、高校生になったら、もっと色んなことができるのだと思っていた。でも、なんとなくそんなわけはないだろうなあ、ということも気づいていた。山口くんは私と違う、サッカーの強い高校に行ってしまった。通う学校も違うし、山口くんは忙しい。会いたいです、そんな言葉をごくんと飲み込んでもう一回クマのぬいぐるみを抱きしめた。 とたとた、と誰かが廊下を通る音が聞こえる。平馬だ。(平馬に、きいてみようかな) 山口くんが、今どうしているか。そう一瞬本気で考えてしまって、思わずぶんぶんと頭を振った。平馬だって、山口くんと違う高校に行ってしまったのだ。平馬に頼んで、メールをしてもらって、だなんて考えるのは卑怯すぎる。 ため息をついた。 (……会いたいなあ) ぶるり、とケータイが震える音がした。ころん、と床を転がりながらぱかりと蓋を明けてみる。ぼんやり見つめた。山口くんだ。慌てて立ち上がった。 『ちゃん』 文字の続きを見た。 『外』 ほんのちょっと考えた後に、急いでカーテンを開けた。「おう!」と山口くんがこっちに向けて手のひらを振っている。ひんやりした空気が、ほっぺをぱしりと撫でた。山口くん、と大きな声を出しそうになって、ごくんと飲み込む。「な、なんでいるの」「練習。近くの高校とあったからさあ」 そっか、と返事をする声が、やんわりした夜の中にぽとんとこぼれた。「ちゃん、補給しにきた」 きゅっと口をつぐんだ。 ばか、と言いそうになって、それでももぞもぞとうれしくって、「おばか」 やっぱりそう言っていた。はは、と山口くんが笑った。かしゃん、と止めていた自転車に足をのせる音がする。私は慌てて廊下に飛び出て、玄関を明けて、「待って」 思わず山口くんの服をつかんだ。 「ん?」 「あの、その」 1、2秒だけ考えて、きゅっと唇を噛んだ。それからぽすんと彼のお腹に顔を預けた。「おわ」山口くんは、びっくりした声を出した。 ほんの少しばかり、耳が熱い。 からからと山口くんが笑っている。それから、ちょいちょい、と私の耳をいじった。くすぐったくて、肩を小さくさせたら、よっこいせ、とぽすんと大きな体で抱きしめた。「つぶしたらごめん」 そんな簡単に、つぶれない。 「だ、だいじょうぶ」 だからもっと、ぎゅっとしてほしい、なんて言葉は言えない。そのかわりに、私もいっぱい手を伸ばした。山口くんが、私の肩に顎を載せた。とくんとくん、と小さな音が響いている。 涼しげな、夜のにおいがする。 top 1000のお題 【483 甘える隙を探す】 2013/07/13 |