終わった後の話




勝ち組か負け組かと言われれば、俺は勝ち組らしい。


「…………なんで?」
「いや、なんでってさぁ、笠井」
「お前彼女いるじゃん」


複数人に囲まれた挙句、彼らは向かい側の校舎、つまりは女子の校舎を羨ましげに見つめた。「いや、いるけど」 一応幼馴染。ほんの少し前まで護衛対象。俺は頬づえをついたまま、クラスメートの言葉を聞く。っていうか、俺別に彼女がいるだとかいないだとか、そんな話をした覚えはないな、と考えていたのだが、「なぁ藤代ー!」と教室の端っこで水野に宿題をうつさせてくれとヘコヘコ頭を下げていた男を発見し、ああなるほど。とため息をついた。

「なになに? 俺なんか用? 色々いそがしーんだけどー」
「いやぁ、水野は難関だぞ。無駄な時間過ごすくらいならこっちに付き合えって」
「そこをなんとかするのがいいんじゃないですか」

まったく成長しないなぁ、と俺は一つため息をついた。「笠井の彼女しってんだろ?」「まーな! 出会いは小学生のときだぜ!」「まじで? 結構古いな」「おう。俺がスーパーの茶碗売り場で、ちゃんの手を颯爽を引いてかけぬけたのが始まりだな!」

いや正確にいうとお前が茶碗をぶちまけて混乱した挙句にをひっぱってったというのが真相だけどね。とか心の中でこっそり舌を出してやった。

「かわいい?」「かわいい」「趣味は?」「今編み物だって」「おお」

そんなこんなで俺が口を出す前に、どんどん会話が進んでいく。うらやましいなぁ、とそいつらが声を合わせ始めたところで、そうか? と首を傾げた。
あんまり羨ましくないと思うけどね。




「そもそも、どうやって両親に報告するのかが問題なんだよな」
「ん? なんか言った?」
「まぁね。考え事」

ふーん、とはあみあみと棒を動かし続けて膝の上に乗せた毛玉をころころと転がす。(そもそもなんで……) ひゅーっと通る風が首筋にしみた。いつの間にかはまってしまったというお手製のマフラーのおかげでそこまで冷たくはないが、気分の問題もある。木枯らし吹き荒れる外には、元気な子どもすら通らない。(こんなとこにいるんだろ、俺)目の前にはブランコがきいきい寂しげな音を立てていた。


情けないことに、公園のベンチにて俺達はぼーっと過ごしている。そもそもお互い寮生活で、寮は異性が入ることは禁止されているので、ろくに会うこともできない。そしてこの頃寒くなって来たからと編み物に気合を入れているのおかげで、会っても黙々と何かを作っている。って凝り性だったんだな、と幼馴染の意外なところを見せつけられている気分だ。
(……ちょっと健全すぎだよね)

別に文句はないけれど。

「何作ってるの?」
「マフラー」
「…………何本作ったら気がすむの、
「友達が欲しいって」
「…………そー」

ちゃかちゃか光速で動く手を見ていると、なんだか酔いそうになる。

まぁ冒頭に戻らせてもらうと、俺はやばいな、と考えていた。そもそも、元護衛対象の家のお譲さんとお付き合いすることになってしまったのだ。いくら家訓に護衛対象への恋慕を禁止していないからといって、それはヘリクツみたいなもんである。家、笠井家ともにいつか報告しなければならないことと思いながら、未だに話はできていない。

(俺、父さんに締め上げられるかもな)

いや、あの温厚な父ならそんなことにはならないと思いつつ、守るべき家のお譲さんに手を出した(いや別に出してないけど)のだ。そして昔馴染みの幼馴染に自分の娘をひっさらわれたのだ。(…………おばさん、ちょっとこわいかもな)そして冷静に考えると、俺が今までを守っていたということもばれてしまったのだ。

胃がキリキリしてきた。どちらかというと、人様よりも体は頑丈にできているはずなのだけれど、そうでもなかったのかもしれない。

黙々とあみあみし続けるを見て、また新たな懸念を思い出した。里帰りである。夏休みもなんだかんだ言って家に帰らなかった。けれどもさすがに正月は別だ。帰らないと不審に思われる。そのときには、挨拶に行かないと。腹をくくるべきだ。
俺はぐっと指を組んで、力を入れた。

「よし」
「さっきからどうしたの?」
「いや、正月に、の両親と、俺の両親に、付き合ってること報告に行かないとな、と思って」
「うん? そうだね。竹巳の口から言った方が、もっと喜んでくれるかもねー」

そう言って、手元をあみあみ再開し始めた自分の彼女を見て、ちょっと今の言葉おかしい気がするな、と俺は気付いてしまったのだ。

「…………もっと?」
「うん、こないだ私夏休み帰ったでしょ? それで竹巳は帰らなくて」
「ちょ、ちょっと
「喜んでたよー。竹巳のお父さんお母さんも、うちも」
「…………っ!!!」

どうりで。
どうりで、この間母親からの電話で妙にのことを勘ぐってきたと思った。不自然なくらいに「ちゃんは元気? 元気?」と訊いてきたのだ。校舎が違うのだから分からない、と答えたことに含み笑いさえされていたような気がした。
これは結構な屈辱である。


「いや、でも、ちょっと。笠井家は家を守ってた訳だし、そんな簡単に……」
「さぁー? あれじゃないかな? 私が男の子と女の子二人産んで、女の子に男の子を守ってもらったら伝統はちゃんと続くよー」
「いやそれどっちにも体質は遺伝するから意味ないから。っていうか気が早いから」

そしてもうちょっと照れながらそういうことは言って欲しい。

はむん、と眉を寄せた後、「竹巳は難しく考えすぎなんだよ。やだなぁ、頭がいい人って」「が簡単に考えすぎなんだよ。やだなぁ、頭が豆腐の子って」「し、失礼だねちょっと!!」

まぁとにかく、とっくの昔にが報告していたというのは解せない。
そして俺は夏から今までの間、父と母にからかわれていたようなものな訳だ。電話口からの言葉によって。「お仕置きがいると思う」「うん?」 こっとを見上げたに、よいしょっと、と顔を下ろした。ちゅっという軽い音がして、「はい終わり」と俺はまた目の前のさびれた公園を見つめる。

まぁなんていうか、報告をしておいて、既成事実の一つもないのは寂しいから、こんなもんでいいだろう、とからもらったマフラーを巻きなおした。

は口をぱくぱくとさせたあと、「ちょっと竹巳」と低い声を出す。「ん?」と半分笑いながら訊いてみると、「外はないよ、外はない。これじゃあ外でチューの略してガイチューだよ!」「ひどい略し方するな」 まるで有害指定みたいな言い方である。

今年はもう、竹巳には何も作ってあげないんだからね! とぷんぷんするに、「まぁ今年もあとちょっとだしね」と適当に流して、家に帰って、どんな顔をしたらいいのかな、とやっぱり考えたらむずかゆくなるような、胃が痛いような、恥ずかしいような気持ちになったのだった。






1000のお題 【337 故郷へ続く道】

2011.01.06