カチカチカチッと音が響いた
信条を持つ忍足くん
さっきから何度も何度も同じ音が聞こえる。
小さな小さな音だけれども、今の私にとっては只今先生が黒板にチョークをたたきつけるようにするよりも大きな音で。
カチカチカチッ、と音がするたびに、思わずとなりへと視線を向かわせてしまう。
カチカチカチッ、と音がするたびに、何故か私もマネするように、カチカチカチッと音を出してしまう。
カチカチカチ、カチカチカチ、カチカチカチ、カチカチカチ
同じ音が続くけれども、やっぱりそれは、どこか音が違う。
私はかっちりと押されるような音だけれども、彼はかすっ、と空気を押すような音。
何度目かのカチカチカチに、私もやっとの事で腹をくくってみた。 女は度胸だ、といわんばかりに。
「忍足くん、シャーシンあげる」
彼は絶対に物を受け取らない。
それが忍足君ファンクラブの情報は、クラスでよく女子からの受け取りを拒否していたので、知っていたし、恩着せがましいのは百も承知。
けれどもこれ以上、隣でカチカチと音を聞くのも、なんか微妙。
眼鏡の奥の瞳を、ほんの少し目を見開いた彼は、「おおきに」といって、手を伸ばした。
多分彼よりももっと、大きく目を見開いた私は、流されるままに彼の大きな手のひらへとシャープペンシルの芯のケースを置いた。
取り敢えずとても不思議だったので、休み時間、彼に何故シャーシンを受け取ったのか訊いてみた。
彼は、ちょっと変な顔をしながら(まあ、私から渡しておいてこの質問は変だろう)ちゃんと答えてくれた。
なんでも、「タダより高いものはない」らしい。
(それは答えになっているようで答えになっていなかった)
1000のお題 【612 無料より高いものはない】

2006.12.9
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