彼はもの凄く、怒っていた。
説教魔神忍足くん
「なんやって!」
ビイン、と冷たい石で出来た廊下に聞き慣れた声が響き渡る。自分くらいしかいないだろう、なんて考えていたのに、微かに聞こえたその声が、その考えを改めさせた。
(忘れ物、取りに帰っただけなのに…)
運が悪い事に、その声は私の教室から聞こえてきて、またまた運が悪いことに、彼だけじゃなくてもう一人の声まで聞こえる。高めなその声は聞いた事がないけど、女子だ、なんて事はすぐに分かった。
(関西弁あんど女子あんど人気がいない)
告白現場
(さいあくだー)
そんなもん見たくない。けれども確かに響く声は間違いない。最悪だ。
「お前、そんな、アレは嘘やったんか」
「だって、忍足…っ!」
(しししししかもあれか、カップルによくあるかは知らんが、うわ、うわ浮気を追求か、追求か!)
ちょっと気になるぞ。
色恋沙汰なんてろくな事がない。それはこの15年間でいやという程学んだ私。 けれども仮にも女子というものは、こんな話に目がない、なんてのもあったりして。
勝手にそろそろと進む私のこの足は、一体どうしたらいいものか。
「私だって、分かってる、分かってるよ」
「ホンマにな」
「でも、無理なんだ」
「そんな事ないで。な、やり直せる」
「無理よ…」
(すげぇ、面白くなってキター!!)
そろり、そろり。少しずつ大きくなる音が、目的地へと近づいていっている事を表している。ぶつかり合う感情、揺さぶられる音。ああ何もかもが 私の中のおばさん魂を燃え上がらせる。バーニング!!(おっと学校が違うな)
「お願いや、止めんといて…」
「忍足には悪いって思ってる」
「思っとるんなら、なぁ、お願いや。止めんといて!」
「…忍足」
「少しずつ、頑張ればええやん。な、一日一日を大切にするだけでええんや」
(…うわー)
案外、案外真面目なのだ、彼は。普通に感動する事までいってるし。
さっきまで上がり上がっていたテンションが微妙にぐるりと回り始める。
彼らはこんなに一生懸命なのに、こんな赤の他人の私が盛り上がってていいんだろうか。と。
申し訳ない気分でいっぱいになって、つい、と自然にドアへと手のひらを寄せる。ぴとりと頬をくっつけた部分が冷たい。
「節約とおんなじや。一日を無駄にせんかったらええんや!」
「ダメ、忍足、ダイエット成功したら学食おごるっていったけど、もう辛いの!」
「そんな、俺の今までの協力はなんやねん!」
「だからごめんなさい!!」
あまりのオチのしょうもさなさに、ドアを力の限り蹴って逃亡した。
1000のお題 【872 ○○は一日にしてならず】

2006.12.14
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