「あれちゃんって青学やったん」
番外 冒険ヤッホるるれいひ
今更だなぁ、と思って、忍足さんの言葉に頷いた。がっくんも、「へぇ」とどうでもよさそうな相づちを打っていて、「何だ知らなかったのか」と跡部さん。
「青学ってったら、あそこやんなぁ」
「そうだな」
「しょとーぶ、なのです」
「おお、そうなん」
ふうん、ふうん、と何回か体を揺らした後に、忍足さんが、「なぁちゃん、青学のテニス部、見たこととかあらへん?」 ………なぜに?
うむ? と首を横に倒してしまったのを、忍足さんは何か勘違いしたらしく、「そうかぁ、見たことあらへんのかぁ」
残念やなぁ、と呟いた後に、ぱっ、と目を輝かせて、「じゃあちゃん、今度部活見に行ってや、そんで俺達に報告とかイッター!」
ビシッとチョップの形をしたまま、忍足さんの背後に、にゅにゅっ、と立った跡部さんが、眉毛と眉毛の間に皺を寄せたまま、「小学生に偵察のマネさせる気かお前は」
隣でがっくんが、にさせるぐらいならジロー連れてって昼寝させてる方がマシだろー! とかいう台詞に、ほんの少しイラッと来たけど、我慢した、うん。誰だジローって。
まぁちょっとした冗談やん、とへらりと笑った忍足さんが、こっちに向かって、「なぁ?」 なぁっていわれても困る。大体、
「私、テニス、みたこと、ないです」
事前にかおるちゃんに聞いた休憩時間に、ちょろちょろと遊びに行った事はある。始まる前に、部室に遊びに行ったことも、ある。けれども試合中には、見たことがない。することもないのに、ぼけっ、と見ているのもバカバカしいから、いっつもひゅるりとお家に帰るか、真知田ちゃんが待っている部室へと、やっぱり帰るか。そのどっちかだ。
「ええ、ホンマに?」
「ほんとに」
「嘘じゃなくてー?」
「うそついても、しゃーないです」
ついでにいうならサッカーなんて学校の球技大会ぐらいしか見たことないし、野球の試合もテレビでワンアウト! といった瞬間に、ぷちっと電源を切った。敢えていうなら、南ちゃんのマネをして「甲子園につれてって!」と海堂くんにいった事があるけど、冷ややかな目で見られた事しかない。
たったそれだけのことなのに、跡部さんと忍足さんとがっくんは、こっちをとっても寂しそうな目をして、じーっと見てくる。なんだろう、「ああアイツ、とってもかわいそうだなぁ」といった目だ。………やめろよその哀れむような目線!
「よし、しょうがねぇ、明日あたり俺様の部活見に来るか!」
「ぜったいやです行きません」
そういったのに
気づけばでっかいマンモスの巣窟のような学校にいた。跡部さんに握られた手を、ぐんぐんとひっぱられて、あっちだ、と指さされた場所には、とってもコートが大きい。いいやコート自体が大きいんじゃなくて、その数が多いのだ。
細々動くちっちゃな影達を見て、跡部さんは「三軍の奴らだ」 さ、さんぐん! 一軍二軍、さんぐん! あのう、跡部さんって、と訊きたくて、手をぐいぐい、と引っ張ろうとしたときだ。中学生らしく、若々しいような、エネルギッシュな少年達が、「おはようございます跡部部長!」 ぺこっ、と頭を下げつつ、綺麗にそろったその声を聞いて、「おう」といつもの事のように、頭を軽く動かす。「………(ぶ、ぶちょ)」
「どうした、ちび」
「………な、なんでも、ないです、跡部……ぶちょ」
「あーん?」
ボールが飛んで危ないのか、緑色の、私の何倍もありそうなフェンスの向こう側に、ぱかんぱかんとボールを打つ音が聞こえた。向こう側の、木陰が出来ているベンチを指さして、跡部さんが、「いいかちび。よーく見とけ。損はねぇ」と随分真面目な顔で語ってきたものだから、イエッサー! と敬礼。みぎて!
そうだ、と跡部さんが、「喉が渇いたらそこの自販機でジュースでも飲めよ」とポケットの中をがさごそするのを見て、ちょっともしかしてクレジットカードでも取り出すんだろうか! と一瞬不安になってしまったけれど、私の小さな手のひらに渡されたのは、キラキラ光る百円硬貨だった。跡部さんって小銭持ってたんですね! といおうとしたけれど、やめておいた。
じゃあな、と手を振って、向こう側のフェンスの中へと消えていく跡部さん。取りあえず、よっこらしょ、とベンチに腰を下ろした。貰った百円玉は、しっかりとポケットに入れて、なくさないように。うん、だいじょうぶ。
(そんなにおもしろいのかね、テニス)
さわさわしたような木の音に、ほんの少しの木漏れ日が、膝元にかかる。緑色のフェンスの間から、たくさんの人が、集まっているのが見えた。多分、その中心にいるのは、跡部さんだとおもう。色素の薄い髪の毛が、キラキラと光って、ほんの少しわかりやすい。
その後さっ、と広がった。コートにひしめき合ったと思ったら、溢れた人たちは、グラウンドや、球拾いなのか、後ろの方で、びしっとセッティングしている。ボールが入ってるらしいバケツを抱えて、一つ一つ、コートの端っこへと置かれていった。
ぱかん! と一人がボールを打つ。もう一人が返す、新しいボールで、またぱかん!
くるくるくるくる、打つ人は同じまま、返す人はどんどん変わる。(………なんの、れんしゅう、だろう) 所詮文化部だ。ぶん、ぶん、と同じようにラケットを回すマネをしてみたけれど、肩の筋がちょこっと痛くなっただけだった。
ぐたっ、とベンチに背中を預けて、くるくるした光景を、じーっと見て、くるくるくる。ああ、「のどかわいたー」
跡部さんに貰った百円玉を握りしめて、ふらふらとグラウンドの端をそって、自販機を探した。こうすれば迷うこともあるまい。たぶん。お目当ての自販機を見つけて、精一杯背伸びをして、百円玉を、コトン。
百円でたりるのかなぁ、とおもったけれど、ちゃーんとたりた。マンモスの住処にちょこっと親近感がわきしそうだ。
精一杯、また背伸びして、ファンタのボタンを、ぷちっ
がたん! と大きめな音がして、ひんやりとした缶を、取り出した。(一番、したのボタンが、おしることかじゃなくてよかった!)
プルタブに指を、何回か、かけて、カン、カン。
「うむ」
喉の流し込んだしゅわわーっという感覚に満足して、いそいそとベンチに戻ろうとした。けれども、どこからか、また、パカン、パカン、と球を叩く音がする。(んむ、どこからだ) 少なくとも、フェンスの向こう側じゃない。グラウンドからでも、ない(もっと、近い)
自販機の背中沿いに、茶色い煉瓦が並んでいる。それに手をかけて、するすると音のなる方へと移動してみた。ほんの少しずつ大きくなる音に、こっちで合ってるんだな、と片手に握りしめたファンタを、ぐいっ、と飲み込む。
随分大きな植え込みの下っかわを、腹這いのように進んだ。カサカサと私の顔に、枝がひっかかったけれど、そのまま進む「うぷっ」
抜けだした瞬間、ぱかん! という音がまた大きく響いた。すっかりクリアになった向こうで、ざっざっ、と反復横跳びのように飛び跳ねて、壁へ向かって、またパカン!
「うおお」 しってる、これ壁打ちっていうんだ。
たんったんっ、と身軽に動くその人を、後ろっから見詰めてみると、男の人だ。とっても短い髪の毛に、かぽん、とリョーマみたいに帽子をかぶって、さっさっ、と腕を動かす。(なんで、一人でしてるんだろう)
手にもったままだったファンタを、またぐびり。「変なの」
ぽろっ、と零れてしまった声に、男の人がぴくりと反応した。壁から向かってきたボールを、返そうと、地面をすくうように進めたラケットを、ピタリと止める。黄色いボールが、ラケットの上を、さっ、と通り抜けた。
「へぶしっ」
そして私のおでこに当たった!
「うあ、うああああ、い、いた、い」
「わ、悪い、大丈夫かってお前何してんだ」
帽子を反対にかぶったままで、コメカミ辺りに、ペタリと小さな絆創膏を貼った男の人が、ほんの少し肩で息をさせて、すっかりへたり込んだ私に向かって、ヤンキー座り。
ぺたぺたぺた。ぺしぺしぺし「………ま、問題ねぇだろ」 問題大ありだ脳細胞しんだぞどーしてくれる!
絆創膏さんは、私の目の前でてこてこ転がるボールをひょい、と拾って、さっと立ち上がった。ついでに私も立ち上がってみた。
「お前なんだ、初等部の生徒か」
「………ちがう、っぽい、かんじ……?」
「……いやまぁいいんだけどよ、勝手に中等部の敷地に来んなよ、踏みつぶされんぞ」
そのまま、またくるりと振り返って、さっ、と黄色いボールを、壁に向かって、ぽーん!
同じような動きを繰り返して、取りあえず暇だなぁ、とそのまま絆創膏さんを見詰めた。ぱかん、ぱかん、ぱかん!
(同じうごき、ばっかり)
「なんで、ひとり?」
ぱかん! 大きく振った後に、絆創膏さんは、戻ってきたボールを、利き腕と反対の手で、ぱしっ、と握りしめた。「ん?」 額から、つーっ、と汗を流して、それを袖の端っこで、さっと拭き取る。「なんだって?」
「なんで、一人で、してるの?」
もしかして、訊いちゃいけない事だったのだろうか。ハブられちゃったりしてるのだろうか。なんともいえない気分で、じっと見詰めると、どうでもよさげな声の口調で、「ああ、俺ダブルスなんだけど、相方が休みなんだよ」
ぽんっ。ラケットの上に載せたボールを、軽く弾いて、空にとばす。
「あいかた?」「おう、だから壁打ちしてんだ」
ふうん、と空に何度も飛ぶボールを見たけれど、何度もポンポンと弾むボールが、さっきの壁と、ほんの少し、似てる(気が、する)
「意味あるの、それ」
これがか? と空に向けたボールを見て、絆創膏さんがいった。ちがう、壁打ち、意味あるの、何度も同じような繰り返しで、意味あるの
ぽん、ぽん、ぽん。ボールの軌道が、ほんの少しづつ、小さくなって。
「さぁ、どうだろうな」
ぽんっ、ネットの上で、小さくはねた。
「けどしないより、マシじゃね」
「なるほど」
絆創膏さんは、ボールとラケットを握ったまま、「まぁそりゃいいんだけどよ小学生、さっさと初等部の方へ戻れよ」 にっ、と笑った笑みに、うん、といいたくなったけれど、あいにく、さっきまでの場所にすたこらと帰れる自信が、ほんの少しない(あんなに迷わないようにって思ってたけれど、大きすぎるマンモスが悪いと思う) 「絆創膏さん、」「ああこんなところにおったんか!」
ガサガサ茂みをかき分ける音がして、ぴょっこりと現れた小さなメガネに、真っ黒髪の毛。
忍足さん、と声を掛けようとした時に、ぱ、と忍足さんは絆創膏さんを見て、「なんや、宍戸と一緒やったん」
跡部が探してるで、はよ行こう、とちょいと引っ張られた手の向こう側に、ししどさんに、バイバイと手を振った。
(ししどって、どう書くんだろう)
ぎゅ、と手のひらを握って、何もしないよりはマシだといった、ししどさんの声がまたきこえた。(うんそうだ、ユーシは、きっとどこかにいる)
「樺地と一緒に探しててんよ、勝手にいなくなったらあかんわ」
「………ういっす(カバG?)」

アトガキ
氷帝200人って人がゴミに見えそうです
本編に入れようと思ったんですが歯切れが悪くなるので番外編
2008.06.02
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