それはまだまだばあちゃんが元気で、俺が亮にも会ってなくて、転校もしてなかった頃の話だけれど。
番外編 過去の話
「俺って女の子にもてるよなー」
ぼんやり呟いて、周りに広がる誕生日プレゼントに目を向けて、空を見上げた。コンクリートの床がケツにいたい。隣に座り銀髪の男は、プッと俺の台詞を聞いて噴出した。こいつ、失礼なやつめ、と思ってじろっと見返すと、そいつは「悪いのぉ、あんまりにも馬鹿っぽい台詞をいっとったからの」とニヤッと笑ったのだ。
そいつのあだ名は詐欺師である。
「まぁお前の方がもてるしな」
「ま、そーじゃの。は俺の足元にも及ばんぜよ」
「それイケメンだから許される台詞だよなぁ、仁王」
仁王は中1からの付き合いだ。いたずら好きで、気が付いたら詐欺師なんてあだ名になっていた。なんじゃそら。お似合いだのうへっへっへ、とか指をさして笑うと、「じゃろ?」なんて悪びれもない顔でこっちを見てくる。
俺ははー、とため息をついたあと、もらったプレゼントを紙袋の中に詰めていった。こういうことがあろうと、ちゃんと用意をしておいたのだ。正確に言ったら家のババアに強制的に持たされたのだが。「毎年あんたが馬鹿みたいに抱えて帰ってくるもんだからあたしゃ恥ずかしいよこの馬鹿孫か!」ということらしいのである。今朝出かけに叩きつけられた。
「まぁ、俺はこのくらいで済んでるけどさー。仁王とかもっとやべーよなぁ」
「まーの。俺は女にもてもてじゃから」
「俺もだっての。何でお前、彼女作らんの?」
そうだ、入学当初から、もててもててしょうがなかった。やだぁ、仁王くんったら大人びてるぅ、と周りからよく言われていたけれど、大人びてるっていうよりおませなんじゃないの、この場合。
こう、好きなオンナノコを男はカノジョにするもんだ。ということは、なんとなくわかっている。うむうむ、あってるよな? と自分の中で確認してみた。
俺がそう言ってうかがってきいてみると、仁王は顎をポリポリと指でひっかいた。そして眉根を寄せた。「なんでって、そりゃあ、お前……」と言いながら何故だか最後に俺を見た。俺は、なんでお前も作ってないじゃないか、という意味だと思って、「俺? 俺はなぁー、その好きなオンナノコってのがよくわかんなくってなぁー」と言って紙袋に詰める作業を続けると、「はあ?」と仁王が妙な声を出したのだ。
なんだお前、と思って仁王を見てみると、仁王はふんっ、と笑いそうな表情をして「そりゃあ、お前には無理じゃ」と笑った。「よ、よくわからんが失礼なやつだな」「事実じゃ。そうじゃなきゃ、俺は変態じゃ」「はあ?」
何いってんの? と仁王を覗き込んだ。仁王はなぜか妙な顔付きをして、俺の腕の一本をぐいっと掴む。なにすんだよ、と俺が腕を振ると、彼はふん、と鼻で笑った。意味わかんね。「俺は、ずっとおもっとったんじゃが」
そしてぽつりとつぶやいた。
「、お前女じゃないんかの」
たっぷりの間の後、俺は思わずぶふっと笑った。「え? って名前だからか? 女っぽい名前だからって? 失礼なやつだなー」あんまりにも真剣な表情をしてたもんだから、俺は反対に面白くってゲラゲラと笑ってしまった。けれども仁王は俺の手をはなすことなく、ぐいっとひっぱったまんま、「だったらここで裸になってみんしゃい」 目がマジだった。
「お前ここ屋上だぞ。つーかマジ大丈夫か」
「鍵はしめとる。誰も来ん。ほらぬぎんしゃい」
「ちょっとちょっとちょっと仁王さん!?」
「きもちよくしたるから」
「いいいいい意味がわかんねぇええええ!!!!」
変態かお前! と言ってばたばた手を動かせると、「それを確認するためじゃ」とよくわからないが使命感にも溢れたような表情で仁王は俺を睨んだ。紙袋に詰め込んだプレゼントがそこらにばらけていた。
うおお、とよくわからないが、俺の中の何かがぞわりとしたのだ。これはやばい。これはやばい。「め、目をさませぇえええええ!!!!」 顔面キックゥウウウウ!!!!
見事に入った顔面キックに、俺はさかさか逃げた。屋上の端っこで体育座りをして、「お、お前冗談にもほどがあるぞ……!!」と何故だかぶるぶる震える体をおさめつつ、仁王を睨む。
仁王は俺に殴られた頬を押さえながら、ぼんやりとしたような表情をしたあと、「冗談じゃ」と呟いた。だから、冗談にも、ほどがあるっつーの!!
昼休みが終わるチャイムがなる。「お前悪ふざけもいい加減にしろよー?」と仁王に言いながら、俺は立ち上がって、ちらばったプレゼントを集めて鍵をあけて、教室へと向かおうとした。仁王も立ち上がって、「そうじゃのー」とかいいながら、未だに俺が蹴ったほっぺたを押さえていた。
「俺が女とかありえねーだろ」
「そーじゃのー」
「………………りょう、俺、前の中学のとき、女だってばれてたかもしれない」
ふと思い出した記憶に、思わず体育ずわりをしつつ、亮の背中にぐりぐりと頭をすりつけた。「あー?」と亮は言いながら、「何言ってんだ」と特に心配もされていないような口調で宿題にとりかかっている。おいちょっとこっちの話もきいてくれや。という意味で、俺はさっきよりも大きめな声で話かけた。
「屋上で、ぬがされかけた!」
「は、はあ!? お前なにやってんだ!?」
「俺じゃないよ、されそうになっただけだよ」
「あ、あほか!」
だから俺が悪いんじゃないよ。ともっかい主張してみたのだが、亮は聞く耳も持たず、体をぐるりとこっちに向けて俺の肩をぐいっと掴む。「前々から思ってたんだが、お前はちょっと女子としての自覚が足りない! いいかもうちょっと考えて行動しろ!」
だから……あのときは俺、本当に自分のこと男だって思ってたんだって……。なんて台詞も通じそうにない。ちくしょー、変な火をつけちまったぜ、と舌打ちすると、「女子が舌打ちするな!」と怒られた。
「亮、ほら、宿題やりかけ」
「今はそういう問題じゃない!」
(俺いらんこと言ったよちくしょー……)
あーあ。仁王、あっちの学校で元気かなぁ。っていうか、お前さすが詐欺師だなぁ、するどいなー、と考えて、長い間連絡をとってなくてキレてるはずだから、手紙でも送ろっかなー年賀状とかでもいいかなー、とガミガミ怒る亮を聞き流しつつ、俺は考えたのだった。
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2011.01.05
言いたいことは一つ。仁王さんかっこいいよね。