番外編
ペンギン、ちょっと不思議な日




*クリスマスってちょっとあれな話をあげても許される日だと思ってます
*4未プレイの人には相変わらずやさしくない。







ごぼごぼごぼ


口の中から、いっぱいに泡がこぼれた。白い泡がぶくぶくと宙にのぼっていく。白い光が水面をはねて、溺れている。(俺、なんで) こんなとこにいるんだよ、と手のひらを伸ばした。茶色い革手袋がびちゃびちゃで、こりゃまたまずい、と気づいたとき、しょっぱい水を飲み込んだ。

ごぼっ、とまた白い泡が口元からあふれた。細めた瞳で空を見上げて、沈み込む。ちくしょう、と顔を歪めた。死ぬ、死んでしまう。何もせずに死んでしまう。

父さん、母さん




「がはっ……げほっ、げへ……」
「うわあ……」

きみ、大丈夫? と大きなタモを持って、濃い茶髪を束ねた男が、あわあわと俺に話しかけた。「テッドくんの真似をしてたら、男の子が釣れちゃったよ……第二のシラミネさんだ……」 一瞬聞き覚えのある名前が聞こえたような気がしたが、耳に詰まった水をぺんぺんとはたいていた俺には、ちょっと聞こえづらい。
沈む。そう認識したその瞬間、俺はどこぞの魚のごとく、その玉網に持ち上げられた。意味わかめ。とりあえず、もしかしなくとも、この目の前の男は俺の命の恩人なのかもしれない。そもそも、何でこんな状況になったのかすらも覚えてないか。

「まあ、なんつーか、さんきゅう……」

ぶえくしゅ、とくしゃみを一つしながら、俺はべちゃべちゃに濡れたバンダナをずり下ろして、あーあ……と長い溜息をついた。そんなとき、ふとその青年が息を飲んだ。そんな気がした。「あれ、きみ」 きょときょと、と瞬きを繰り返す。そうしたあとに、じいっと俺を見つめた。妙に顔の距離が近い。

「……いや、眼の色が違うし、ちょっと背も低いみたいだし」
「アッ!? ちょっとでけーからって自慢かコラッ!?」
「えっ、いや、そんなこと言ってない言ってない!」

思わずいきり立ってしまった。慌てる男に、フンッと俺は鼻から息を吹き出して、あぐらをかいた。まあ別に、自分が平均よりも下のサイズであることくらい知っている。これでも伸びてきているのだ。久しぶりにウィークポイントを刺されてしまったものだから、必要以上に反応してしまった。

ぽたぽたと服から水が滴っている。ぶるりと震えた。「あ、ごめん。寒いよね、中に入ろうよ」 とりあえず暖かくしなきゃ風邪をひくよ、と優しい顔つきでこっちに手のひらを伸ばすその男を見て、おう、と俺は少しだけ考えて頷いた。男は俺の手を握って、ひどく嬉しげに笑った。なんだかその顔を見ていると、妙に照れた。

「よし行こう」と男がそう頷いたとき、おおーい! と名前を呼ばれた。俺とその人が二人一緒に振り返ると、「おおーい、おおーい」と知らない黄色いバンダナの兄ちゃんがこっちに向かって手を振っている。「あ、ニコくん」 呼んだのは、俺の名前じゃなかったらしい。ちょっとした気のせいだ。当たり前だ、あっちが俺の名前を知るわけない。

「ごめんね、ちょっとだけ待っててね」

そのニコと呼ばれた兄ちゃんと、俺をおあわあわ見比べたその男は、すぐすむからね! と言い残して、ぱたぱたと兄ちゃんの元に走っていく。何やら話をしているらしい。まあいいか、と俺は辺りを見回した。(これは……) なんだ? とこつこつと床の板を叩いてみる。乗り物だろうか。俺をひきあげたときの名残か、びちゃびちゃと水で濡れている。

景色を眺めてみた。妙に風がしめっぽくてばたばたしている。大きな大きな水たまりだ。でかい湖だな、と思ったとき、これはちょっと違うんじゃないだろうか、と瞬いた。
足を踏み出して、体を乗り出してみた。青い水の上を、ぐんぐんと白い水の泡を立てながら進んでいく。これは、

(うみ)

ふと、頭の中にそんな言葉を思い出した。父さんが昔、いたことがあると言っていた場所。でかくてでかくて、ずっとずっと水が広がっていて。(目の色が違っていて、背が低い?) ん? と今更ながらに気がついた。身長のことに気をむけていたものだから、すっかり気が付かなかったが、あの男は、父さんと俺を間違えたのかもしれない。ときどき、そんなことがある。
(父さんの知り合いなのか?)

どうなんだろう、と顔を向けてみると、丁度あっちの兄ちゃんたちも俺に視線を向けたらしい。ごめんとばかりにポニーテールの兄さんが早歩きでやってくる。おいおい、そんな急がなくってもいいんだぞ、と少しだけ笑いそうになったとき、「ぶえくしゅ」 勝手にくしゃみが出た。そうして俺は、手のひらを滑らせた。「お?」

あっ! と二人の男が、こっちを見て瞳を大きくさせた。ゆっくり景色が流れたのは一瞬だ。ぼちゃん! と気づけば海の中に落っこちて、ゆらゆらと視界が消えていく。

(これは)


どういうこった?






「お、アルド。目が覚めた?」

ぱたぱたとウチワで扇がれた風が頬に当たる。赤いバンダナの男が、呆れた顔で俺を見下ろしていた。「きみ、覚えてる? お風呂場でのぼせて倒れちゃったんだよ」「あー……」 そういえばそんな記憶があるような、ないような。「鼻血も流れててね、ちょっと笑えたかな」「ながしてねーよ……」「うん、嘘だけど」

でもまあ今度から気をつけてね、とぱたぱたウチワをあおぎ続けるに、「おう」と短い返事を呟いた。(それにしても) 妙な夢を見た気がする。布団の外から眺めた窓の外に、ちらほらと雪が降る。寒いくせに、暖かい。ぶくしゅ、とくしゃみをして鼻をすする。

「あ、扇ぎすぎた?」
「んにゃ」

ちょっと、思い出して寒くなっただけだ、と布団の端にほっぽり出された、なぜだかびちゃりと濡れているバンダナに手を伸ばして、変な男だったな、と瞳を閉じた。





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じんぐるべーる!
2012/12/25

1000のお題【622 雪の中】