テッドがもしケータイだったら
1
ちっちゃい体の手乗りサイズで、「朝だぞおきろ!」と言ってくれる。なかなか起きない私のほっぺをひっぱって、「おきろっつっとろーがー!!」 とぴーぴー叫んでゲシゲシ私の頭を蹴っ飛ばす。ついでにほっぺをぶにぶにひっぱってくる。そんななんとも職務に忠実な携帯少年に起こされて、あいあい、と目を覚ましたときには頭とほっぺがじんじん痛むのはいつものことという訳である。
「おはようございます……」
「おう、あさめし!」
「んー……」
部屋の端からごそごそプラグを取り出して、えいやとテッドの襟首を持ち上げた。「てめ、おら、てめ、なにすんだー!!」「いや、おしりから充電しようと」「やめろーーー!!!」
ふざけんなゴラッ! とチビの意地で鼻先を蹴っ飛ばされた。
2
私が朝ごはんを食べるテーブルの隣にちょこんと座って、延長コードをずるずる伸ばしたプラグを、まぐまぐと口にふくんでいるテッドがいる。「充電率はー?」「半分ちょい。もっとこまめに充電しろよな」 腹が減って死ぬかと思った、とぷーぷープラグと一緒に頬をふくらむテッドの額をぐりぐりして、「今日の予定はなんですかー」
「8時に起床、10時にバイト、16時まで。そしたら友達と約束だ」
「おうおう」
「メールは?」
「なし」
よーし行くぞ、とテッドをポケットの中につっこんで、私はパタパタとバイトに出かけていった。
3
待ち合わせの場所が分からない。どうしようかな、とポケットの中でぐうすか眠るテッドをつついてみた。「テッド、道案内できる?」「んんー」 ぱちぱちぱち、とテッドが瞬きを繰り返して、あくびをひとつする。小さな指をおりおりしながら何かを考えるような仕草をして、「右! 左! そいでみぎ!」「アバウトすぎる」
もうちょっと本気を出してアナウンスしてくれないかな、と昨日えっちらおっちらテッドが大きなえんぴつを持って描いてくれた地図を鞄の中から取り出した。文字がきちゃない。「えーっと、右にコンビニ?」「そうそう」 わかんじゃねーか、とちょっと自慢気に鼻をこするテッドの頭をえいやとそのまま押し込んで、左、まっすぐそいで右。
「あ、いたいた」
おーいおーいー! と友だちがこっちを呼んでいる。「もうちょっとメールするとこだった」と言う彼女の肩には紫と緑のバンダナの携帯だ。私を見た彼は抱えていたキーボードをかしゃんとしまって、礼儀正しく頭を下げた。「お、、久しぶりじゃん」「うん、久しぶり」 ポケットから勝手に飛び出した携帯たちの交流を見ながら、はいはい、と私は彼の首根っこをつかんで、彼女と同じく肩においた。
「どこに行く?」
「うちの子に検索させるよ」
4
テッドが大きくなっていた。「おっす」 ぴらぴらと茶色い手袋をこっちに向けて振っていた。ベッドから寝ぼけ眼で彼を見上げて、「朝だぞおきろー」といつもどおりにぶにぶにほっぺをひっぱるそいつをぼんやり見つめた。
「おい、?」
「でかい」
「あ?」
「うちの子にこんな子はおりません!」
なんだそのサイズは! ふざけてんのかもとにもどれ! と茶色いくしゃくしゃ頭の頂点を両手で抑えこんで、思いっきりに押し付けてやると、「ぎゃああ!」とテッドは唸った。「アプリだよ、なんかおもしろそーなのがあったからダウンロードしたら、こうなったんだって!」とぎゃーぎゃー喚く彼のほっぺをぺちりと包んだ。テッドはちょっとだけ顔を赤くして、きゅっと瞳を見開いた。
「お前はふざけとんのか」
勝手にアプリをダウンロードする携帯がどこにおるぅ!? とがつがつ頭突きを繰り返して、「もとに戻れかわいくないかわいくない可愛くない! っていうかじゃま!」「ちょ、おま、やめろ! 石頭か! 壊れる! 壊れる!」
だったらさっさと元にもどれー! と思いっきりに怒ってやった。「いやだ!」 反抗的だ。「絶対にいやだー!」 なんでじゃごらあ、と首元をひっつかんで、テッドを見上げた。テッドはちょっとだけ耳を赤くして、ぱくりと口元を動かした。熱暴走中なのやも。「だから、その、おれは」 テッドはほんの少し屈んで、ぐいと私の手首を掴んだ。「だから、その」
ぴー、ぴー、ぴー
聞こえた電子音と一緒に、ぼふん、とテッドが元のサイズに小さくなる。両手を上げて宙に舞ったテッドを、慌てて私は両手を伸ばして受け止めた。「テッド?」 へたへたとへたりこむテッドをベッドの上にのせて、どうした大丈夫か、とつんつんほっぺをつついてみた。テッドはぱたりとシーツの海に沈み込んで、そのまま両手両足を大の字に投げ出した。ぐうううう。腹の音が聞こえる。
「バッテリーもたねえわ……」
腹減った……とぼんやりつぶやく少年を暫く見つめて、私は彼の首根っこをひっつかんだ。「おいなんだよ、なんだよ、なにすんだよ!」「おしりから充電が一番速いんだよね」「やーめーろーーーー!!!!」