本編過去編です。ほぼ坊ちゃんオンリーです。
激シリアス死ぬはずのないキャラの死亡グロテスクな描写?など注意項目満載です。
本編の19話以降を読まないと、不親切極まりません。
管理人の自己満足だぜイエッイエッー!!!

↓ ok! の方のみどうぞ


過去編
僕達のバットエンド




俺は何度も繰り返した。









「テッド……! 逃げるんだ、君はこの街にいちゃいけない。逃げよう、俺は君が真の紋章を持っていることを知っている!」

必死だった。このまま彼がこの街に居続ければ、彼はウィンディに連れられ、俺の前から姿を消す。初めは「、何言ってんだ?」とケラケラ笑っていたテッドは、俺が片手のソウルイーターを見せると、すっと表情を消した。冗談だろう、と彼は俺の右手を手に取り、何度もこすった。「……ちょっと坊ちゃん、こりゃあ……冗談にしちゃ笑えないぞ?」 ははは、と彼の口元は笑みを作ろうとして、失敗していた。冗談だろう、と小さく呟き、長い間うなだれていたかと思うと、ふいと顔をあげた。「ちょっと待ってろ」ただそれだけ言葉を落とすと、即座に荷物をまとめあげ、彼はすいと俺を見つめた。

「事情はよくわかんねーけど……俺はお前を信じる。一応、旅慣れしてるからな。どうした方がいいって勘は人よりすぐれてんだ。今はお前についてった方がいいと思う。よし、親友、グレミオさんに怒られるからさ、さっさと手紙でも残して旅に出ようぜ」

壮大な家出だ。彼はカラカラと笑っていた。


逃げ出した。軍を追う責務からも、全てから逃げ出した。すでに何度も繰り返していた。いくら俺が頑張ったところで、目の前の人間は死んでいく。辛かった。本当なら、今頃はオデッサに招かれ、解放軍の仲間になっているところだろう       そう思いながら、テッドと一緒に狩った兎を、シチューの中に入れて、二人で焚き火を囲みながら笑い合った。やっぱりグレミオほど上手くは作れないな、と言って、苦笑した。

風のうわさで聞いた。反乱軍が軍によって討伐されたらしい。
(……討伐)
胸の中で声がうずく。まさか、と苦笑した。ただの噂だ。これまで何度も繰り返したけれど、程度の差はあれど、必ず解放軍はバルバロッサに勝利した(ただの間違いだ)
ふと、テッドが心配げに俺を見つめていた。なんでもないさ、と俺は彼の肩をたたいたのが数日前だ。

ふとしたことから、テッドは軍に捕まった。クイーンアントを倒すべくソウルイーターを使ったことがいけなかった。行くべきではない。そう感じていたのに、俺はあの山へ登った。キラキラと光るクリスタルの中で、ウィンディはお前が持つ紋章の半分を渡せと叫んだ。
何も変わらなかった。テッドは死んだ。俺は逃げた。
(なんで)

(どうして)

逃げ出したはずなのに。争いから、逃げたはずなのに。結局奴らは追って来た。ふらりと首都に戻り、自分が捨てたものを見回した。マクドールの家は消えていた。「さらし首だ。解放軍のさらし首だ」 街は異様な興奮に包まれ、城の前に奇妙な人だかりができていた。(……さらし首)

人ごみの間をかき分けると、俺は“彼ら”と目が合った。体中の力が抜ける。“彼ら”は死ぬはずのない人間だった。何故、とへたり込むと、頭上から声が落とされた。「あなた、大丈夫ですか? 御気分がすぐれないのでは」 呂律の回らない舌で、彼はゆっくりと俺の腕を持ち、勢いよく引き上げようとした。けれども彼の足がふらふらとしていた所為で、二人一緒に地面に尻をついた。彼の片手に持つワインが、ごろりと音を立てて地面に転がる。紫色の液体が、土の中にしみ込んだ。

サンチェスは赤ら顔で、酒臭い息のまま「すみません」と謝った。記憶の中の彼は、いつでも自身の身だしなみに気を使っていたが、まるで別人だった。酔っ払いはケタケタと笑う。「あなたも見に来ましたか。いいですよぉ、さらし首。あれがバルバロッサ様に逆らおうとした反逆者どもの首な訳です。まったく、身の程知らずで……リーダーは残念ながらいませんが、副リーダーと軍師、その弟子、その他もろもろ。いやぁ、壮絶な……光景だ……」

彼は地面に尻をついたまま、ケタケタと笑った。そして口元をぶるりと震わせた。「酔っ払いの戯言と、そう思ってください。実はですね、私は彼らのスパイだったのですよ。私が彼らを壊滅させたのです。バルバロッサ様直々の命令でした。私は忠実なしもべでありますから……そんなことは……お安い……御用……」 サンチェスは、白髪混じりの前髪の両手を合わせる。手のひらで隠しきれない唇が、ぶるぶると震えていた。「……そう、思わなければ……いけないのに……」

なぜ、と一言だけ呟き、手のひらの間からほたほたと涙をこぼした。溢れかえったワインの匂いに、周りの人間は顔をしかめた。俺も自身の鼻をつまもうとして、手のひらが濡れていることに気付いた。
(これは)

逃げた報いか


                           5回目



「サンチェス、今度の作戦は、君は城にいてくれないか。城の者たちを落ちつかせてやって欲しい」
「ですが、殿」
「君は解放軍が、ただの火種であったときから見守ってくれている古参だ。君だからこそ頼んでいるだ」

どこか困ったような顔のサンチェスに、俺は素知らぬふりをして彼の肩を両手でつかんだ。サンチェスは、ギチギチと油の入っていない人形のように、ゆっくりと首を縦に振る。「信用している。もう少しだ。今までありがとう」 我ながらわざとらしい台詞だった。けれども心からの言葉でもあった。彼は揺れている。バルバロッサと、解放軍に芽生えた情に苦しんでいる。彼はバルバロッサのため、マッシュを殺す決意を持っていたはずだ。けれどもそうはさせない。あの砦で、サンチェスがいなければマッシュが死ぬこともない。「頼むよ」ともう一度彼の肩をたたく。

これでマッシュは死なない。



様、軍師殿が……刺されました!」

兵の報告を受け、俺はマッシュの天幕の元に向かった。「誰が」「え?」「誰が、刺した」足早に歩きながら、俺を誘導する兵士に尋ねる。胸の中が銅鑼を鳴らしている。ワイン好きの男を思い出した。
兵士は不安げに首を振りながら、「新参の兵士です。おそらく、名前もご存じないかと」
(……スパイは、マッシュ以外にもいたのか……)

マッシュの寝顔に、死相が浮かんでいた。死神が、マッシュの首元へと鎌を向けていた。隣に立つリュウカンは、重たげに首を横に振った。



8回目。殺してしまわぬように父を投獄する。それは父の決意をただないがしろにする行為だと気付いていた。彼は牢の中で舌を噛み切って死亡。彼の右腕、左腕のアレンとグレンシールは、テオの後を追うように自害。

9回目。テッドのために薬を買いに行くと言うパーンを止める。テッドが軍に捕まる多少の時間稼ぎになったものの、パーンは帝国軍に逃亡。テオと共に戦死。

12回目。テッドにウィンディの正体を告げる。クイーンアントが首都に出現。

23回目。この繰り返しのルールに気付く。

X9回目。謁見にて、ウィンディの暗殺を謀るが失敗。首都逃亡のタイミングが変わっただけ。

1XX回目


(……こいつを殺せば……)

ぐうぐうと派手な寝息を立てる、赤い服の男、カナンに、俺は夜、ひっそりと刃を向けた。今から俺達は、クイーンアントの討伐に向かう。テッドの紋章がなければ、あいつに勝つことができない。そしてこいつは、首都にいるウィンディに、テッドの存在を告げる。
(そうだ、なんで気付かなかったんだろう)

こいつを殺せば済む話だったのだ。おそらく、それは簡単な作業だ。今までの旅の中で、こいつの身のこなしがせいぜいのものだということは知っていた。今まで何度も人間を殺した。今更その人数が、一人や二人増えたところで、何も変わらない。殺した後はソウルイーターで死体を消す。いや、それだとテッドに気付かれる。一撃で彼の心臓を突き、音もなく殺した後で死体を宿の外に運び、バラバラに解体して、モンスターに食いやすくさせておけばいい。さすがに人間を解体したことはないが、人体の構造ならある程度の知識はあるし、モンスターの解体なら今まで何度もしてきた。問題ない。

ぐう、ぐう、とカナンの腹が寝息で上下する。やるなら息を吐き出した瞬間がいい。もし万一悲鳴をあげられたら面倒だ。カナンは自分一人だけ宿の部屋割を別にした。テッド達は壁の向こうだ。問題ない。俺はカナンにのしかかった。ぎしりとベッドが軋む音がする。ナイフを掲げた。
振り下ろす。

(おかしいな)

カナンは平和な寝息を立てている。俺はもう一度ナイフを掲げ、振り下ろした。ピタリと彼の胸の手前でナイフは止まり、それ以上動かない。ナイフを持つ腕が震えた。(もう何度も……)人間を殺してきたじゃないか。今更、一人や二人増えたところで、変わりはないじゃないか。それなのに、(何で殺せないんだ)
右手の紋章が、殺せと叫ぶ。腹が減ったと叫んでいる。ナイフをベッドの上にこぼした。窓の外から差し込む光が、ナイフの刃をきらめかせる。(俺は) 今まで何度も他人を殺めてきたけれど。(私的な感情で、殺したことは……)

ただの自己満足だ。
どんな内容で他人を殺めようと、生かそうと、殺された本人には殺されたという事実一つのみであって、結局何も変わらない。手のひらで顔を押さえる。唇をかみしめた。何で殺せない。殺してしまえばいいのに。そうすれば、テッドが、
(俺は……)

涙なんてとうに枯れ果てた。俺の心情に、まったく似つかわしくない平和な寝息が響いた。窓の外で星が瞬く。今日は眠れそうにない。



XXX回目




自分自身の何かが擦り切れそうだった。この人間は死ぬのだな。そう、冷めた目で見ている自分に気付いた。
オデッサは死ぬ。子どもをかばい、俺に本拠地の地図を示すイヤリングを渡して、フリックへ謝罪の言葉を口にし、死ぬ。
何度も見た光景だった。自分の腕の中で、オデッサは死んでいく。
血に濡れた口元を、彼女はゆっくりと開いた。分かっている。医者を呼ぼうと叫ぶ自分に、彼女はこういう。『……いいの、その必要は、残念だけど、なさそうよ……』

、あなたは……不思議な子ね……」

俺はパチリと瞬いた。記憶の中の台詞と違う。オデッサは続ける。

「貴族の子だと……そう聞いているはずなのに、そうとは思えないわ……。いつも、どこか悲しげな顔をしている……。あなたは、一体、なんの為に生きているのかしら。あなたは自分のために生きなさい。あなたの人生は、あなたのものなのよ……」

(……違うだろう……)

彼女は、もっと別のことを俺に伝えてきたじゃないか。何で今、そんなことを言うんだ。ぴちゃぴちゃと水滴がこぼれる音がする。ビクトール達は静かにオデッサを見下ろしていた。「お、俺、は」 勝手に唇が動いていた。「何で死ぬんだ」 あなた達は、なんで死ぬんだ。何で俺ばかり残していくんだ。もう諦めたいのに。無理やり任されたものなら、きっと投げ捨てていた。何で今になって、自由を与えようとする。オデッサ、と呟く唇に、彼女はのろのろと指をあげた。そして人差し指を伸ばすと、俺の口元にちょん、と当てた。そして「ごめんなさいね」ゆるゆると瞳を閉じる。「ありがとう」

俺の右腕がぶわりと皮を突き破るくらいに膨張する。黒い死神が彼女の魂を刈り取り、咀嚼した。

俺は瞳を瞑った。空気は静寂だった。「……」 ビクトールが、恐る恐ると俺に声をかける。今からどうするべきなのか、彼らには分からない。俺は彼女の死体から、イヤリングを外した。カチャカチャと音を立てながら死者の体をあさる俺に、グレミオはぞっとしたように声をあげる。「坊ちゃん、何をしているんですか!」

俺は赤いイヤリングを手に持ち、彼らの前に掲げた。「もし、自分が死んだらこれを、セイカという街にいる、マッシュという男のところに持って行けと、彼女は言っていた」「……オデッサが、そう言っていたのか?」 俺は頷く。嘘ではない。嘘だったが。

彼女が言うべき言葉、言えなかった言葉を、俺が代わりに口に出した。茶色い柔らかな髪を撫で彼女の唇の血をぬぐう。「それと、自分の死体を……」口の中で歯が震えて、カチカチと嫌な音がする。「下水に流して、処分しろとも」「そんな!」 グレミオが、金切り声をあげた。クレオがグッと息を飲み込む音がする。
ビクトールは、暫くすると、心得たという風に頷いた。オデッサの髪を俺と同じく撫で、脇を掴む。目を瞑ってはならない。

ぼちゃん、と暗い水の中に重いものが放り投げられる音がした。
         生きていたのにな

ほんの少し前まで、生きていたのに。
……あなたの人生は、あなたのものなのよ……

なんてありがちな言葉だろう。
なんて、胸に響く言葉だろう。





お前は不思議な奴だな、とビクトールは俺の肩をたたいた。オデッサが、最期に言葉を残した理由が分かる気がする。リーダー、俺はお前についていく。綺麗な夜明けを拝ませてくれ。

さて、俺には何ができる。繰り返すことに意味があると、思えるだろうか。

歯を食いしばりながら進み続ける俺に、レックナートは憐れんだ声をかけた。
「それでも、繰り返すのですね。無駄なことだと分かっていようとも。いいでしょう、繰り返しなさい。飽くまで旅を続けなさい。私はバランスの執行者、星を見守るもの。さまざまな世界の私が、あなたを見守り、見届けましょう」



あるとき、俺は失敗した。ごろりと空間から飛び出た先は、いつものマクドール家ではなく、鉄の馬が地を蹴る、奇妙な世界だった。何度か自分たちの世界の未来で、同じものを見たことがある。確かあれは“くるま”と言う。
けれどもここは俺の世界の未来ではないことはすぐ分かった。誰の部屋だか知らないが、“げーむかせっと”が棚の中に敷き詰められている。俺は靴を脱いで、なんとなく、棚から一本の“そふと”を取り出した。“ぱっけーじ”には、“たいとる”らしき文章が書かれていたが、この世界の文字は読めない。けれども思わず笑ってしまった。「……ははっ、なんだこれ」 何故だかその表紙には、俺が描かれていたのだ。見覚えのある棍まで握りしめている。俺だけじゃない、グレミオにビクトール、オデッサまで。

ー? 部屋に戻ったらすぐに降りてきてねー」
「はーい」

部屋の外から母子の声が聞こえる。俺は慌てて棚に“そふと”を片づけて、次の世界の穴を開いた。こんなこともあるのだな、と興味深い気持ちになったがそれだけだ。
       もう少しした後、何故自分が失敗を繰り返すのかと考えたときに、この世界の存在を思い出すのだが、それはもうしばらく先のこと。

さよなら世界、もう一度。

XXX回目。





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ペンギンスクールの過去、坊ちゃんが一人で頑張ってたとき〜と質問されて、ああそっち方面でも書けるんだなぁー、気づき、もっそもそ。
まったく関係ないんですが、ループ系のお話は大好きです。大好物です。
2010.06.19

1000のお題【524 生きる権利】