完結後
あけましておめでとペンギン
■ 幻水世界にあけおめ文化があるとかどうとか分からない気にしない
■ 細かい時系列、文化はつっこまないであげてください
■ 息子ネタです
「あけたねぇ……」
「あけたなぁ……」
俺はぼんやり空を見上げた。ちらほらと白い雪が降っている。どうりで寒いと思った。手袋をこすり合わせて、白い息を吐き出す。隣ではさすがに寒いのか、上着を羽織ったが空を見上げて、ぽかんと口を開けていた。「雪かぁー」
年があける。
一つ、時が進む。
太陽暦、475年、トラン共和国暦18年。
伯父、・マクドールによる“国開き“より、約18年の歳月が経つ。
「アルドは雪とか珍しくないの?」
の言葉に、俺はぶくしゅ、と鼻をすすりながら片眉を上げた。「別に、どうでも」「へー。子どもったら雪に喜ぶってのが慣例なのに」「子どもじゃねーよ」 ずるずる、と鼻をすする。
商隊の護衛は、端から首切りになった。
別に、俺たちがポカをした訳じゃない。敢えていうなら、雇い主が、ポカをした。そもそも商売の荷の移動がないのだから、その護衛なんてできる訳がない。それじゃあな、とお互い軽く手を振って、新たな街に移動した。(それなのに) なんでかこいつは横にいる。
ひらひら赤い鉢巻をなびかせた茶髪の男は、もぐ、と幸せそうに饅頭をほうばってる。寒いときの方が、やっぱり饅頭はうまい、と幸せそうな声を出していた。「そういうお前は珍しくないのかよ」
雪よりも、夢中なものは饅頭だ。
そんな顔つきはいつものことなので、なんとも判別し辛い。とりあえず、さっさと街に着くべきだ、と足を動かしながら、「お前、寒いとこの生まれなの」
ふと、なんとなく違和感を覚えた。(ああ、そうか) なんだかんだと一緒にいるくせに、俺はこいつのことなんて全然知らないんだ。あっちの生まれ故郷のことなんて訊いたこともなかったし、あっちだって深くつついてはこない。だから俺はなんだかんだとこいつと一緒にいるのだと思う。
「いやあ、どっちかっていうと、暑いところだったかな」
「……あっそ」
「でも、一応、長い間旅をしてるからね。雪が珍しいってのはないかなぁ」
ふうん、と興味もなさげに俺は歩く。ちらちら降る白い塊が、ちょこんと俺の鼻に当たって消えていく。「俺も、別に。結構色々旅したし、どっちかって言うと、寒いだけ」 ロマンがないなぁ、とはカラコロ笑っていた。俺は肩をすくめた。
俺の両親は、真の紋章を持っている。
真の紋章とは、不老の紋章である。老いることのない姿で、同じ場所にとどまることができず、俺の両親と、伯父と、そしてグレミオさんとで、俺たちは転々と旅を続けた。
今現在、俺は絶賛反抗期中である。決して両親が嫌いになったとか、嫌になったとか、そういう訳じゃない。ただ苦しいのだ。俺はちょっとずつ背が伸びる。少しずつ、父親に近づく。
いつか、自分の年が、両親を越してしまったら。
想像ができなくて、怖くて、俺はその場から逃げ出した。
そして何故か、赤い鉢巻の男と一緒に旅をしているという訳である。
「ま、とりあえず、さっさと街に行かなきゃね。せっかくの年明けだってのに、こんなとこでぶらぶらしてちゃ、もったいない」
「……別に」
「さっきから、ほんっとテンション低いね、どうしたの」
別に、ともう一回俺は吐き出した。我ながら、心底めんどくさそうな声が出た。「なんで?」 無邪気な顔つきで、は俺の横へと顔を出す。俺は眉をひそめて、手のひらで軽くはたいた。いて、と言いながら、はひょいと顔を上げる。「年なんてとりたくない。正月も、誕生日も、合わせて憂鬱だね」 父さんと母さん達は、喜んでたけど。
ざくざくと、足を進めていると、ふと、の声がしないことに気づいた。いつもは馬鹿みたいにうるさいくせに、と顔を上げると、そいつは困ったような顔つきをして、苦笑していた。まるで子ども扱いされたみたいで、俺はさっきよりももっと眉をよせて、を睨んだ。「なんだよ、なんか言いたいことでもあんのかよ」「いや、別に?」「嘘つけ。笑ってるだろ」「笑ってないよ」「嘘だ、ほら、また笑った!」
笑ってないって、と言い訳しながら、はとうとう耐えかねたように吹き出した。俺は一瞬、顔が真っ赤になるかと思った。そんなに自分が馬鹿なことを言っただろうか、と恥ずかしくなって、それでもそれを認めることが悔しくて、フンッと勢い良く鼻から息を吹き出して、俺はぐるりと反転した。どすどすと足音を立てて歩いた。
「怒んないでよアルド。たださ、きみってまだ子どもだろ?」
「子どもじゃない!」
「子どもってさ、大人になるのが楽しみなものだと思って。めずらしいなってさ」
「子どもじゃねーよ、14だ!」
言った後で後悔した。背は伸びた。ちょっとだけ。でも全然、には足りなかった。それなのには、急に神妙な声を出して「そうだね、子どもじゃない。ごめん」と謝ったのだ。ばかやろう。そういうところが、こいつはずるいと思う。
俺は結局謝るタイミングも、すねることもやめるタイミングもなくして、頬をふくらませたままドスドスと道を歩いた。「思うんだけどさ、年越しも、誕生日も、結局同じようなもんだよ。毎日時間は過ぎてるんだもの」 てってって、と小走りに歩いて、俺の隣へ移動する。「だからさ、アルド。こういう日は、時間が過ぎたことを嘆くんじゃなくって、楽しむべきだと俺は思うな。街についたら、きっと色々楽しいよ。お祭りだからね。寒い地方の祭りは、特に元気なんだよ。……いや、知ってるんだっけ」
まんじゅう、いる? と差し出されたの手のひらを、俺はちらりと見つめた。そして饅頭を受け取り、すっかり冷たくなってしまっているそれに、もぐりと歯を当てた。「知らない」 ホントは、知らない。
「別に、雪は、何度か見たことがあるだけで、年明けの時期に来たことはないし。父さんが、寒い所があんまり好きじゃないから、旅をするのは、暖かい場所の方が多かった」
「寒いのが、苦手だった?」
「いや、そうじゃなくて」
そうじゃ、なくて。
「俺と、母さんが寒いからって。父さんは、その……怪我をしていて、素肌を出すことができなかったから、母さんもそうなんだけど……寒いと、手のひらを握るだろ? でも、外だと父さんは直接、母さんの手をさわることができないし、悔しいからって、言ってた」
本当のことを言うと、父さんとさんが話していたところを、俺がこっそりと盗み聞いただけだ。さんはゲラゲラ笑っていて、父さんは顔を真っ赤にしていた。本気だぞ、とテーブルを拳で叩いていた。アルドも、まだ小さいし、なるべく住みやすいところに行こう。父さんはそう言って、さんは、ひとしきり笑った後、いいよいいよ、賛成。グレミオにもそう言っとこう、とぱちぱち両手を叩いて、もう一回笑いながら頭をテーブルにつけた。そして父さんにげんこつを食らっていた。
思い出すと、なんだか少し恥ずかしい。「馬鹿だなぁ」 俺じゃない。はさんみたいに、くつくつ肩をゆらせて、もう一回言った。「馬鹿だー」 嬉しそうに笑っていた。
それが奇妙に、まるで知り合いに向けた笑いのようで、俺は片方の眉をあげた。親のことを、馬鹿だ、と言われて、嬉しい気持ちはあまりない。けれども俺は抗議の声を上げることはやめておいた。あんまりにも、が楽しそうな顔つきだったからだ。
「ほら、さっさと行くぞ。日が暮れる」
「アルド、他にないの、お父さんの話」
「ええ?」
「なんでもいいからさ」
「まあ、いいけど。変なやつ」
「ほらほら」
「えーっと、そうだなぁ、伯父さんが、釣りをしてたときの話だけどさ 」
ほろり、ほろり。
溢れる白い暖かさに反面して、北方の地、グラスランドでは戦いの幕が開かれようとしていた。
太陽暦475年、英雄戦争の開幕である。
1000のお題【889 初雪の日】
2012.01.03
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