完結後
ちなみにペンギン、らぶってます
■ お正月リクエスト、昔を振り返っておしゃべり
■ でもペンギンならなんでもという言葉に甘えすぎました
■ 不老ヴァージョン
■ らぶった?
「…………っていうか、なんで俺、のこと、男だって思ってたんだろ?」
それはこっちのセリフなんだけど、と私はぷっと頬をふくらませた。
と、言ってもしょうがない。私はテッドの隣で腰をついて、はー、とため息をついた。テッドときたらぼんやり釣りの糸を垂らしているだけで、ときどき思い出したようにマジマジと私の顔を見る。ここの村に来て、1年が経つ。やっと慣れてきた頃だけれど、あともう1、2年もいれば、私達は旅立たないといけない。いい村なのにな、と思ってもしょうがない。これが、私たちが選んだ道だからだ。
(そういえば、そろそろかな)
あまり詳しく覚えてはいないけれど、坊ちゃんの話の三年後、また新しく話が始まる。こっちの2主くんの名前は分からないけれど、そろそろ彼らの物語も始まっているころだろうか。それとも、どうだろう。全然違う話になってしまっているのかもしれない。(なんてったって) テッドが生きているのだから。
(は……手を貸すのかな)
そもそも、2主くんがに声をかけに来るかどうかも分からないのだ。(の名前がだったから、名前はくんでいいのかな) それとも、やっぱり全然違う名前なのかも。
「……? 何ぼんやりしてんだ?」
「えっ、あ、ごめん、考え事してた」
「あっそ」
ふーん、と言いながら、釣竿を持ったまま、私の顔を見つめてくる。むーっと眉をひそめた顔つきで、一体なにが言いたいんだ、と私はぶにっとテッドの頬をひっぱった。案外硬い。「うおっ、なにすんだよ」「テッドこそ、何見てるの」「いや、俺は……だから」
言っただろ? と不機嫌な顔つきをして、つん、と唇を尖らしている。これはどっちかというと、不機嫌なんじゃなくって、照れている顔つきだなぁ、と不思議に思うと、やっぱりテッドがこっちをマジマジと見つめている。「テッド?」「あー、いや、だから……なんで俺、お前のこと、男だと思ってたのかなぁってさァ……」
改めて、不思議に思ったんですよ。と小さく声を付け足す。
「なんでって……そりゃあ、紋章の力で?」
というか、の所為で?
マクドール家の長男という役割の場所に、無理やり割り込んでいたものだから、女なのに、男扱いをされてしまっていたのだ。そこら辺の事情は、ちゃんと説明したので、テッドも理解しているはずだ。
「んなことわかってるよ」とテッドはめんどくさそうに呟き、「わかってるって言ってもだな……やっぱ、変だなーって思うじゃん」「さぁ……」 それこそ私にとったら、当時は理由すらもわからなくて、一体全体、なんなんだ、と周りの反応にほっぺたをふくらませるばかりだったので、きちんと理由がわかっている分、今はそこまで不思議に思っていない。けれども、ある意味騙されていた方のテッドは、反対にそうすっきりと飲み込めないのだろう。
どうせ釣れやしねーや、と糸をひいて、竿を草の上に置いたテッドは、もう一回、私の顔を見つめた。「お、男とはさ、全然違うじゃん」「うん……」 そりゃあ、まあ。
「腕とかもさ、細いし」
ぎゅっ、とテッドは私の腕を握った。「色だって」 じっと自分の肌と見比べているらしい。そうした後で、今度は私のほっぺをふにふに触った。髪の毛もくしゃくしゃした。「柔らかいし」
俺、ばっかじゃねーの。とテッドは心底情けなさそうな顔をして、私の手のひらを握ったまま、はー、とため息をついた。「いや、でもさ、グレミオとかも、男だと思ってたし、しょうがないと思うよ?」「ん、まあ、そうかぁ……?」「うんうん。下着なんてトランクスしかなかったもん。あれはビックリしたねー、困ったねー」「ブボッ!」
テッドは顔を真っ赤にして、弾かれたように頭をのけぞらせた。暫く空を仰いでいたと思ったら、じわじわとこっちに顔を向ける。耳まで真っ赤だ。「知らなくて、いいこと知った」 ぽそり、と呟いた後、ハッとした表情で私を見て、「お、おま、まさか、今でも……!!」
「ち、ちがうに決まってるでしょ! っていうか、知ってるでしょ!!」
「ああ、うん、違う、な……」
「うん……」
お互い恥ずかしくなって、ぎゅっと手を握りしめたまま、じいっと地面を見つめた。テッドの指先が、所在無さげに動いて遊んでいる。私もそれに合わせて指先を動かした。ふと、テッドが顔を見上げた。きょろきょろと辺りを見回した後、うんと頷いた。そしてこっちにぐっと近づいた。あっ、と思ったとき、ちゅっ、と唇がくっついて、ぱっと離れた。お互い目線を合わすことができないで、口元に手を当てて、見当違いの方向を見る。そろそろと、視線を戻すと、テッドも同じようにこっちを見ていた。彼は唾を飲み込んで、もう一回、と近づこうとしたとき、「…………なにやってんの」「うお、おう!」「うわわわっ」
がため息をつきながら、額に手のひらを当てて、「いや邪魔しちゃ悪いなとか思ったんだけどね、この場合俺が悪いっていうか、そっちがもうちょっと周りを確認して欲しいっていうか、なんていうか? そんなんだからあそこのご夫婦は仲がいいわねーとかさー、いろいろさー」「う、うるせーよ! 何しに来たんだよ!」
もう一度、は長い長いため息をついた。「魚。遅いもんだから、確認しに来たんだよ。……その様子じゃ、材料は他で買ってきた方がいい?」「い、いや、今から本気を出せば」「……テッドは今度からちゃんと一緒に魚釣り禁止」「ああ!?」「らぶらぶ禁止」「してねーよ!」「ああ、禁止は食事に関することだけね。他は好きなだけしてくれたらいいよ」
なんなんだよその中途半端な禁止は!!
と怒る論点がずれてきたテッドは、頭をぐしゃぐしゃとさせた。は苦笑しながら、「ご飯はさー、グレミオが命かけちゃってるからね。そこはほら、本気でやんないと」「すみませんねー、まったく釣れなくって!」「ほんとにねー」
じゃ、今から本気出しちゃってねー。とはケラケラ片手を振った。テッドは唇をへの字にさせたまま、ほっぽり出していた竿をひゅんっと川に向けて放り投げた。ぽちゃん、と静かに水の音が響く。私はその隣でちょこんと座って、「テッド、何か手伝おうか」
「別に」
「そっか」
「そこに座って」
「うん」
「お昼寝でもしといてください」
そしてテッドはこっちを見ないまま暫く何かを考えていたかと思うと、ばたばた、と片膝を動かした。「ちなみに枕になら、俺の膝が空いてます」 私はパチパチ、と瞬きをした後、うん、と笑った。失礼します、と頭を寝かせてゆっくりと目を瞑る。「……テッド」「んー」「テッドの匂いがする」「ブボッ」
目を覚ますと、全然知らない場所にいた。
いや、知っている。知っているけれど、あまりにも久しぶりで、私はぽかんとその場所を見回した。「ありがとう」 眼の前で、学ランを着た少年が、教卓の上に座って、パタパタと足を動かしている。「っ……!? え、え、で、でも、ええ……!!?」
窓からオレンジ色の光が、やんわりと教室の中を照らした。教卓の後ろには黒板が。黒板消しはあんまり綺麗じゃない。並ぶ椅子と机の数は、三十とちょっと。部屋に扉は二つ。両方ともピンク色。「き、消えちゃったんじゃ……!!」
からから、と学ランを着た、“もう一人”のは満足気に微笑んだ。「驚かせちゃった? へへ、いいタイミングだったでしょー」「いいタイミングって、そんな」「消えてないよ。俺とは混じり合ったけれど、の中に俺はいる。そろそろちゃんも落ち着いたかなって思ってね。改めて、最後の挨拶に参りました」
とんっ、と少年は教卓から飛び降りた。
こつん、こつん、と革靴で音を響かせて、びっくりぼんやりする私に向かってニコッと笑いかける。「ありがとう、ちゃん」 パチパチ、と瞬きをした。「“”から、お礼は言っていても、“俺”からは、ちゃんと挨拶ができていないから。最後に、君に会おうと思って」
は、ぎゅっと私の両手を握りしめた。「本当に、無茶なお願いだったんだ。無理だと思ってた。わずかな、針の穴を通すぐらいに僅かな可能性だった。ありがとう、ちゃん。ずっと長いあの時は、やっとこさ、報われた。たとえ、救うことができたのは、テッド一人だったとしても、いや、救うなんて言い方は、ただの俺のおごりなのかもしれないけど」
「俺は、君に救われました」
ぽろっ、と片方の目からは涙をこぼした。私はただ、息を飲み込んで、少年の手のひらを握り返すことしかできなかった。はゆるゆると微笑んで、もう一度、硬く手のひらを握った。「押し付けて、ごめん。でも俺は、“”は。後悔なんてしてない。いや、本当は、少しだけ。俺は、君の世界を奪ったんだから。忘れない。そのことは、一生、忘れない。」彼は何かを言いよどんで、苦笑した。やんわりと体の力を抜いた。「ばいばい、ありがとう、本当に、ごめん」
私は何かを言おうとした。けれどもその瞬間、がらんっ、と足元を踏み外した。何もなくなる。落っこちる。上では、学生服の少年が手のひらを振っている。
最後だ、この人に会うのは、これで最後なんだ。何かを言わなくちゃいけない。それなのに、全然言葉がでない。
「 !」
やっとこさ、名前を言えた。
なんだい、という風に、彼は笑って
「あー!! 大物だ!! 大物! おおものー!!」
「うわっ」
「あ、わるい、ほら、大物が釣れてさ! ぜってー持ち帰ってやる持ち帰ってやるおらおらおら!」
テッドは力の限り釣り竿をひっぱった。えいやっと腕を伸ばしきったとき、ぱしゃん、と水音を響かせて、覗いた影を、力の限り懐に抱きしめる。「これでにはでかい顔させねーぜー」 にやっと笑って、懐の魚を満足そうに眺めた。「なあ、」
彼はにこにこと笑って私を見た。けれどもすぐさま眉を八の字にした。「……?」 ひょい、と手を伸ばして、私の前髪をかき分ける。「なにか、嫌な夢でも見たのか?」 よしよし、とわずかにしめった手袋がほっぺたを撫でた。私は首を振った。「そうか?」
魚をバケツにいれながら、テッドはやっぱり訝しむように私を見ていて、私はちょいちょい、とテッドの服をひっぱった。お願いの合図だ。テッドはパチッと瞬きをした後、瞳を大きくさせ、「え」とびっくりともうれしいともとれないような声を出した後、きょろきょろと辺りを確認する。ちょいちょい、ともう一回服を引っ張った。「うん」とテッドは頷いた。ひょいっとテッドが近づく。
私はぎゅっとテッドの服を握りしめたまま、目を瞑って、ちゅっと小さいキスをした。
2012.01.04
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