完結後
隣の国から、ペンギン

■ 2主くんが出ます




そろそろかなぁ、と思っていたのだ。コウくんという男の子が、いつも嬉しそうにを見ている。とうとう、とお揃いの服を作ってもらったらしい。「いいでしょー」と嬉しそうにテッドに自慢して、テッドの方は、「なんで俺が羨ましがらなきゃなんないんだよ」とペシッとコウくんのおでこにデコピンをした。グレミオは、「坊ちゃんの小さいときを思い出しますね」と両手を合わせてニコニコほのぼのしている。

そろそろだった。
ルカ・ブライドが、討たれたと聞く。彼を討った軍を率いる少年の名前は。かの有名な英雄ゲンカクの養い子だという。私とは、特にそのことに対して何かを話した訳じゃないけれど、お互いの言いたいことは、なんとなくわかっていると思う。はどうする気なんだろう。そればかりが気になる。私はご飯を食べながら、じーっとを見つめた。隣でテッドが、「おい、お前なんでさっきからばっか見てんの? の飯も食いたいほど腹減ってんのか?」「そんな訳ないでしょ!」

失礼な! とぷんぷんしていると、はくすくす笑って、左手でおにぎりを掴みながら、もぐりと口の中に放り込んだ。「この梅すっぱいなぁ」「あ、すみません坊ちゃん。もうちょっと甘い方がよかったですか?」「いいや。たまにはいいかも。……グレミオ、後で宿で厨房を借りて、追加でおにぎりを作ってくれない?」

がちらりとグレミオを見るものだから、グレミオは不思議そうな顔をして、「それだけじゃ足りませんでしたか?」「ちがうちがう」 はカラカラ笑った。「ちょっと出かけようと思ってさ。テッドも連れて」「はあ? 俺ぇ?」

そんなの聞いてないぞ。とテッドはめんどくさそうに耳の穴をほじる。食事中にやめなさい、と怒ると、彼は肩をすくめて頭を下げた。「駄目かい?」「駄目って、どこに行くんだよ」 しょうもないとこだったら一人で行けよ。とテッドが片手をはたはたさせた。は宿屋の娘さんに湯のみを出して、「あ、お茶のおかわりくださーい」と言いながら、「いや、まあ、大したとこじゃないって言えば大した場所じゃないんだけど」

湯のみにお代わりをそそいでもらって、ずるずる、とは湯気のたつお茶をすすった。

「ちょっと、山賊退治とモンスター退治に行こうと思って」




英雄イベントで必要不可欠かつ、困った存在と言えば、コウくんをさらう山賊と、グレイモスだ。から話を聞いたテッドは最初はぽかんとしていたけれど、「それならしゃーねーなー」とため息をついて、準備に向かった。グレミオは、「坊ちゃん、危ないんじゃないですか、危ないんじゃないですか!」と何度も手をあわあわさせていたけど、「大丈夫大丈夫。ほっといた方が危ないからね」とグレミオを落ち着かせて、そのままテッドと二人で山の中へと消えていった。私も行きます、とグレミオは主張したものの、「あんまり人が多すぎると邪魔だからね。グレミオは、ちゃんとお留守番」とビシリと人差し指をさされてしまったものだから、私の隣でしょんぼりしている。

(……ホントに、は何を考えているんだろ)

英雄イベントの前に、山賊達を退治してしまうということは、くんに会う気がないのだろうか。多少そわそわと彼ら二人の安否が不安になる気持ちはあるけど、多分大丈夫だ。大丈夫じゃなかったら、が二人だけで山に向かう訳がない。心配事があるとすれば、テッドが得意のうっかりをしてしまわないかということなのだけれど、さすがにこういうときは大丈夫だと思いたい。彼だって、伊達に長い時を生きてきた訳じゃないのだ。

うーん、うーん、と悩んでいる間に、とテッドはあっけなく山賊達を退治して、ついでにグレイモスの方もなんとかしてしまったらしい。おつかれさま、といいながら、それじゃあ、これから私たちはどうなるんだろう、と思った。くんがバナーの村に来て、と出会うことはないのだろうか?

と、思ったのだけれど。




「初めましてさん、僕はデュナン軍の軍主、といいます」
「お話は聞いているよ。俺は・マクドールと言う。よろしく」

左手を出すに合わせて、くんも一緒に左手を出し、握手する。その後ろで、テッドとグレミオと、私は、うーん、と首を捻って彼らの動向を見守っていた。山賊がいなくなってしまったのだから、これからどうなるのだろう? と思ったけれど、なんてことはない。初めから、くんに会うことを拒まなかったのだから、そのままするっとこんにちはの挨拶までこぎつけてしまった訳だ。くんの仲間の人たちは、一旦宿屋の外で待ってもらっている。

くんは、ちらりと私たちに目を向けた。慌てて私たちは会釈すると、彼も同じく頭を下げる。「そっちは、俺の妹。そんで、従者と妹の旦那」「だんな?」 くんは、きょとんとしたような声を出した。こっちの世界の基準はまだよくわかっていないけれど、(あくまでも見かけの年齢の話で)私達の年で、“そういう関係”になっている男女は、ちょっと少ないのかもしれない。どうだろう。少なくとも、くんは少しだけ驚いているようだった。

くんの視線を見ると、なんだかもぞもぞしてきてしまいそうになった。こうやって紹介されるのは、なんだかやっぱり慣れない。思わず顔が赤くなりそうになって、気まずい気持ちでテッドを見た。テッドもきっと、おんなじような顔をしているだろうと思っていたのだけれど、寧ろテッドは、どこか怒ったような顔をして腕を組んで、じろっとくんを睨んでいる。

「なんか文句でもあんのかよ」
「えっ、いや、そういう訳じゃ。ただ、僕と同じくらいの年なのに、すごいなぁって思っただけで」
、二人は君より年上だよ。特にテッド、旦那の方は、とっくの昔に成人を超えてるからね」

とっくの昔、というところを、嫌に強調した言い方だった。
くんは、パチパチッと瞬きをして、テッドを見た。「え、えええ!?」 そしてとても素直に驚いた。はニヤニヤして、「生まれついての超絶的な童顔なんだよ」と適当なことを言っている。さすがに、そこら辺にポイポイと真の紋章があるとは思っていないのだろう、「はー、そうなんですかー……」とくんはどこか感慨深げにうなずいて、息を吐き出した。テッドは多少こめかみにをひくつかせていたけれど、いちいち否定するのも面倒だと何も言わないことに決めたらしい。グレミオは、「また坊ちゃんは適当なことを言って」と呆れたような顔をしている。

思いっきり話がずれた。

本筋に戻すように、彼らはお互い向き合った。客だから、と宿屋の部屋の椅子を渡そうとしたのだけれど、椅子の数が全員分に届かなかったので、最初にくんが断ったのだ。立ち上がったまま、彼ら二人のリーダーは、お互いの瞳を見つめていた。くんが、唾を飲み込み、喉を動かした。そして、に向かって、「お願いします」と頭を下げた。

にしてみれば、予想通りの展開だろう。「ご存知の通り、僕は今、都市同盟の力を集めて、ハイランドと戦っています。力は足りないばかりです。お願いします、さんは、先の戦いでの英雄だとお聞きしました。どうか、僕に、デュナン軍に、力を貸してください。僕は、そのためにここに来ました」

くんは、大きな瞳でじっとを見つめた。は頷いた。「なるほど、わかった」 パッとくんは顔を明るくした。「それじゃあ!」「うん、そうだね」 は、ゆっくりと口の端を上げる。すっと手のひらを出し、親指を立てた。さっきよりも口元を上げて、ニコッ笑った。そして、


     力の限り、断るッ!!!!」




「ちょ、ちょっと待ったー!!!!!」

予想外に、一番初めに行動を起こしたのは私であった。くんは激しく目を開けたまま固まっているし、テッドは半分予想していたという風に、ため息をつく。グレミオは、「また坊ちゃんは、人様をからかって……なんでこんないたずらっ子になっちゃったんでしょうか」と自身の教育のあり方を見直していた。

「え? 何? どうしたのちゃん、何か不満?」
「いやいやいや、不満とかね、そういことじゃなくてね、今の流れね、今の流れ!!」

普通はそのままオッケーに行きそうなものである。はうーん、と腕を組んで、瞳をつむって首を傾げた。「いや、俺が手伝う義理とか何にもないし? いやまあ、くんなら大丈夫だって。問題ないない。このままがーんばれっ!」 ポンッと少年の肩に両手を乗せる。おいおい。

やっとこさ意識が戻ってきたらしいくんは、パチパチと瞬きを繰り返した。そして、顔を下に向けて、ぶるぶると震えた。「お?」とくんの顔を覗き込むと、彼はガッと勢い良く顔を上げた。「諦めるもんかー!!!!」

即座にドアへと逃げたくんは、ビシッとに指をさして、「ぜーったいに、諦めないんですからねっ!! また来ますっ!!」

バタンっと勢い良くドアが閉まる音がして、「こなくそー!」と叫びが少しずつ遠くなる。ばいばーい、と誰がいる訳でもないドアに向かって、は嬉しそうに手を振っている。テッドはどこか気抜けしたような表情で、「……また来るらしいぞ?」「らしいねぇ」

今の、捨て台詞っぽくって、中々よかったねー、とけらけら笑っている親友に向かって、テッドは長い長いため息をついた。こんな奴の相手をさせられる奴は、大変だな、とでもいいたげなため息だった。




   ***



「別に、初めからに会う気はあったよ?」

が足を組んで、片手をふらふらとさせる。「山賊がいなくなっても、問題なく彼と会うことができることは、もう“知ってた”し、コウくんに、怪我をさせるのもかわいそうだったからね」 だから先に倒しておいたんだ。と今更ながらのネタばらしを、彼はどこか嬉しそうに語る。「俺は、のことが、結構気に入ってるから。なるべく、会いたいと思ってた。今回、会えてよかったよ。彼の軍に入ることを断ったのは、別に話した通りさ。俺が入らなくっても、彼はきちんとこの反乱を終結させる。力が足りないだなんて、ただの謙遜だ」

俺がいてもいなくても問題がないんだから、行かないだけだよ。

もう十分頑張ったからね。と彼はちょっと意地悪そうに笑った。「また来るらしいよ、くん」 私はテッドと同じセリフを彼に言った。は嬉しそうにして、「うん、そうだね」と膝に肘をついて、楽しげに声を明るくさせた。



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2012.02.02
1000のお題【63 覚えてろよ!(捨て台詞)】