完結後
バレンにタイン、しちゃう?
* 幻水世界にバレンタイン行事があるのかな……
* 2主くんがやって来た後
* 主人公たちの外見年齢は変わってないルート
くんがやって来てしばらく。
「そろそろグレックミンスターに帰ろうか」、とはぼんやり呟いた。
こういう言い方はあんまり好きじゃないんだけど、原作でも、2主くんがやってきた後、坊ちゃんはグレッグミンスターの家に帰った。だから、タイミング的に丁度いい、ということなんだろう。おそらく的に言えば、お決まりのパターンと言う訳だ。
グレミオはきょとんとして、の言葉を聞いていた。そして何度もうんうん、うんうんとうなずき、ものすごい超スピードで荷物をまとめ、「さあ! 行きますよ坊ちゃん!! お嬢さん!! テッドくん!!」と風呂敷を首にまいて、鼻息を荒く、力の限りニコニコしていた。
見ればわかるけれど、グレッグミンスターに戻ることが、嬉しくって仕方がないんだろう。それは自分がその場所に戻ることができるから、と言うわけではなくて、が戻ってもいい、と思えたことが嬉しいのだと思う。は少しだけ苦笑して、「別にそんなに急がなくてもいいよ」とちょっとだけ可愛くないことを言いながら、みんなで山越えをした。
丁度国境線のところで、複数人の男の人が、ガチャン、と武器をならしながら、じろりとこちらを睨んだ。「ここは、トラン共和国、国境線である。何用かッ!」 おそらく、彼はバルカスさんだろう。山賊風味に、というか元山賊の彼は、濃い眉をピクピクさせた。けれども、「やっ、ひさしぶりー」とがひらひらと手のひらを振った瞬間、ゴトンッと大きな斧を足元におっことして、あと一歩でぐっさり突き刺さってしまった彼の足元を見て、子分の人たちが「ギャーッ!!! なにしてんですかー!!」と叫んだ。
「、おまえ……」
「バルカス、お前、ちょっと老けたねぇ」
そう言ってくすくす笑うと、バルカスは即座にのお腹をひっつかんで、米俵にして持ち上げた。さすがのもこの展開は予想をしていなかったようで、「え? え? え、ちょ」と口をパクパクさせて、「ぼっちゃーん!?」とグレミオが叫んでいる。テッドはぽかんとしていたものの、我関せずという顔で、一ニ歩ひいた。そして関わりたくないとばかりに、サッと視線を逸らした。
「え、え、さまということは……!?」とバルカスさんの子分の人たちが、きょときょととして、米俵の少年を見つめ、目を何度もぱちぱちとさせる。バルカスさんは返事をしなかった。けれども代わりに、ガシッと力の限りにの腰をひっつかんで、「確保ぉおおおおおおおおおお!!!!!!!」 叫んだ。
爆走した。
消えていった。
うおおおおおおお!!!! と同じく子分の人たちが、彼を追いかけていく。さすがに全員出ていく訳にはいかないのか、残った一人の人が、ちらちらと彼らの背中を見つめて、こっちを見て、照れ笑いをした。私達はぽかんとしてその光景を見ていた。一番最初に反応したのは、もちろんグレミオだった。「ぼっちゃーん!!!」 バルカスさーん! 坊ちゃんをどこに連れて行く気ですかぁー!?
私とテッドはお互い顔を見合わせて、はは、とぬるい笑みを浮かべ、子分の方に軽く会釈をして国境を乗り越えた。あんまりにも彼らのスピードが速いものでから、私があわあわ走っていると、ぐいっとテッドが私の手をひっぱって、力いっぱい走ってくれた。
ごめんね、と言ったら、気にすんな。と彼はちっちゃく呟いた。
それから、私達はお城に行って、はレパントさんに会って、解放軍の人たちと盛大に、こっそりと再会した。どっちなんだよ、というと、は解放軍の英雄ではあるけれど、たくさんの人に騒がれることを好まないし、そもそも見かけも三年前とまったく変わっていないから、堂々と姿を見せる訳にはいかなかったのだ。
さまー! お久しぶりですー! どのー! お元気そうでー!! ー! どこに行っておったこのバカものがー!!! と片っ端から喜びの洗礼を受けたは、さすがにへとへととしながら、グレッグミンスターの家に戻っていった。そしたら、知らせを受けていたらしいクレオが、静かに扉を開けてくれて、「おかえりなさい、坊ちゃん」 お嬢さん、グレミオ。テッドくん。
一人ひとり名前を呼ばれて、私も少しだけ、懐かしい気分になった。
大して長く暮らしていない私でもそうなのだから、きっと達は、もっとたくさんの思う気持ちがあるんだろう。「ただいま」と彼はつぶやいて、ゆっくりと笑った。
***
パーンは、旅に出ているらしい。だからこの館の中には、ずっとクレオが一人だったそうだ。広い館の中をひとりきりで、お手入れをして、ずっと達を待っていた。
とグレミオは、マクドールの館に住むことになったけれど、わたしとテッドは、テッドが前に暮らしていた家に戻ることにした。私がそう告げると、(私はの妹ということになっているので)クレオは一瞬とても不思議気な顔をしたけれど、すぐにははぁ、とわかったように頷いた。「テッドくんと、仲良くしてくださいね」 察しがいいなぁ、と真っ赤になってしまった。女の人って、どうしてこんな鋭いんだろう。
二人っきりだからって、あんまりハメをはずすなよ、とからかうに怒ったら、テッドはどうでもよさげな顔をして、じゃあ、適度にはずすことにすらぁ、と返事をしたものだから、また私は何も言えなくなってしまった。この頃テッドは、堂々としすぎである。
私達は、そうやって住む所はわかれてしまったけれど、よくよくマクドール邸に遊びに行った。いつまでも、この街にいることはできなかった。もともとこの街の住人ではないテッドと、妹となっているとは言え、実際はそんなに長く街にいた訳ではないので、街の人たちの記憶に薄い私達はともかく、はあまり街をふらつくことはできなかった。戦禍をこうむり、たくさんの人がいなくなってしまったけれど、やっぱりのことを知っている人は多い。外を出歩くときは、怪しまれないようにと軽い変装をして、案外楽しくやっているようだけれど、それも時間の問題だった。
私達は、この街にいることのできるタイムリミットを意識しながら、のんびりと暮らした。いっそのこと、バットエンド、と言っていいか分からないけれど、ハッピーエンドではない2主くんと同じように、死なない王様をするのも選択肢のうちだと思うのだけれど、にその気はないようで、ひっそりと暮らした。ときどき、館にはくんがやってきて、を勧誘した。
ふと、私は季節を数えた。四季はとっくに寒くなっていて、日付の数え方は違うけれど、元の世界のものに当てはめるように計算する。「バレンタイン、近いなぁ」 ふと、ご飯の席でつぶやいてしまった。お正月のときも、クリスマスのときも思ったことだ。同じ名称の行事はないけれど、似たようなお祭りがあったりするらしいので、「ばれんたいんって、なんですか?」と首を傾げるグレミオに、あのね、と説明しようとした。
けれども、目の前でもぐもぐとご飯を食べているテッドを見て、唐突に恥ずかしくなった。
外国ではちょっと違うけれど、好きな人にチョコレートをあげる日、なんて説明したら、私はテッドにあげるのか、と思ってしまう。こっちに来て三年目だけど、こんな話はしたことがない。だったらやっぱり、こっちの世界にはこういう行事はないのかな、と体を小さくさせると、斜め向かいに座っていたが、くすくすと笑っていた。「、知ってるの?」「うん、まあ」
はこっちの世界では規格外な人なので、知っていてもおかしくない。何回も繰り返した世界の中で、見たことがあるのかもしれない。グレミオが、ちらり、とを見た。は、「あー」と説明しようとしたのだけれど、私に目を向けて、「俺より、ちゃんの方が詳しいと思うな。テッド、教えてもらったら?」「あ?」
唐突に会話に入れられたテッドが、眉を顰めた。そして私に顔を向けた。私は思わず、なんどもぶんぶんと首を振った。「いや、なんでもないから、なんでもない。あの、行事のこと、伝統行事。近いからって、それだけ」 いや、伝統行事か? ちょっと違うような気がしたけど、そこまで間違ってない気もした。「ふーん」とテッドはそのときは気のない返事をしたので、ちょっとだけホッとしたら、ちらり、とテッドがこっちを見て、手元のフォークをくるくるさせていた。「……ふーん」
***
「なあ、ばれんたいんって、何だよ」
夜になって、テッドと家に帰ったら、布団をぼふぼふしながらテッドが話しかけてきた。「えっ」とぎょっとしてお洗濯ものをたたんでいると、ばふばふ、とまたお布団を叩いている。その話題は終了したんじゃなかったのか「えーっと、えー、えー」おりおりおり、と服をたたんで、出てきたパンツをビシッとテッドに投げた。パンツくらい自分でたため。
ばしっと顔でトランクスを受け止めたテッドは、なんだか微妙な顔をして、ぴらりと布を指先でつまんだ。そしてのそのそと私の隣に移動して、一緒に洗濯物をおりおりする。「なあ、だからさ」「えー……」 まだ続くの。
別に、よくよく考えれば、そこまで恥ずかしがることではないし、むしろちょっと不自然である。「チョコ、渡す日」 まあこんなもだろう、と短く答えると、「誰に?」「……男の子に?」 いや、外国だったら反対だし、友チョコだってあるし、と思ったけど、そこまで言ったら複雑すぎて、めんどくさい。またつっこまれてしまう。「なんで?」 だというのに、テッドはくいついた。「なんでって?」「意味もなくあげるわけ」
そう、と返事をしようとしたけど、嘘をつくのはちょっとためらわれた。洗濯物はたたみ終わってしまったし、なんとなく手持ち無沙汰に両手を膝の上でバタバタさせていると、テッドはじいっとこっちを見てるだけだ。「意味が、ない訳じゃないけど……」「なあ、なんで俺が、に教えてもらわなきゃだめなわけ?」 なんのことだ、と思ったけど、だ。夕食のとき、が言っていたあれだ。
「えー……、その、私が、テッドにチョコをあげてもいいから……?」
「俺、男の子って年齢じゃないぜ」
「その、年齢制限はなくって」
「うん」
で? と言葉を促す。
私はそこまで来て、なんだかおかしい、と思った。じろっとテッドを睨んだ。「テッド、知ってるでしょ」「ん?」 明らかにごまかしていた。「テッド、知ってるんでしょ」 もう一回、言葉を強くしてバシッと彼の膝を叩くと、彼は暫く視線をどこかに向けていたけれど、「いや、別に、そういう訳じゃ……」「じゃあから?」 お互いいい年をしているのだから、いい加減にしてほしい。はー、とため息をついて、洗濯物を持ち上げてタンスの中に入れようとすると、私が怒ったと勘違いしたのか、「いや、ほんと、そういう訳じゃなくて、からは聞いてねーし、ばれんたいんって言葉も初めて聞いたし」
「で?」
別に怒ってない。ちょっと呆れてるだけだ。短く言葉をはいて、タンスが重いなぁ、とガタガタしていると、あせあせしたようにテッドが私の隣にやって来て、「いや、だからさ、」「邪魔しないで」 あっち行ってください、としっしっと手で弾くと、テッドは静かになってぺたんと座り込んだ。よいしょ、と服と下着を入れ終わって振り向くと、テッドが思いっきり正座をして、膝に両手をついて頭をたらしていた。何故。
「え、あの、テッド、なにしてるの」
「いや、なにって」
反省? と首を傾げている。
はあ、そうですか、と彼の前に同じように座ると、「その」とテッドが口元をごにょりとさせた。「いや、ほんとにさ、その単語は初めて聞いたんだけど」 ちら、とこっちを見た。「昔旅してたとき、似たような祭りを見たことがあるっていうか」 丁度、この時期くらいに。
へー、と私は瞬いた。やっぱり、こっちでもそういうイベントはあるんだ。ふうん。と頷いていると、テッドは困ったように頭をひっかいていた。正座を崩して、体育座りみたいな格好になって、ちらちらとこっちを見ている。「……あの、怒ってないよ」「マジで?」「ん」
マジで? と、もう一回テッドが訊いてきたので、うん、と頷いた。「そうか」と言った後、少しだけ恥ずかしくなったみたいで、パッと視線をそらした。ふー、と息を飲み込んだ後、ちょいちょい、とこっちを手で招いたので、はいはい、と近づいた、ぽんぽん、と彼は自分の膝を叩いた。
なので、失礼します、とテッドの膝の上にのっかると、テッドが私の両肩の上に腕をおいて、ぎしり、と体重をかけた。ちょっと苦しい。「重いです」「おう」 そうか、と背中が軽くなった。
「まあ、ちょっと言わせてみたくて」 何を? と首を傾げて、ちょっとだけ振り向くと、顎の下をかりかりとテッドの指でひっかかれた。くすぐったい。
「ほら、がな、俺にそれ、くれるとするだろ」「うん」「まあ、理由がある訳だ」「うん?」 こっちのバレンタインと、あっちのバレンタインの認識の差がよくわからないので、首を傾げた。友達に、とか、感謝して義理チョコに、とかいうものがあっちにはあるけれど、こっち側にはなくって、重たいというか、一つの意味しかないのだろうか。
「うーん」と私は唸ると、テッドが今度は私の肩に顎をのっけた。やっぱり重い。「テッドも、ほしいの?」 うーん、と今度はテッドが低い声で唸った。こういうことは確認するものじゃないと思うけど、ちょっと意外なような気がした。「いや、べつに」 あ、嘘だなぁ、と思った。よしよし、と肩の上のテッドの頭を撫でると、うーん、とまたテッドは唸って、「まあ、それなりに」 今度は正面を向いて、よっこいしょと抱きついて、テッドの背中に手を回した。「うん、結構」
のしっとまた体重がのっかかった。肩が顎にぐりぐりと当たって、ちょっとだけ痛いので、文句を言ったら、抱きしめ返された。「ほしいです」「そうですか」 何故か敬語になってしまった。テッドは言い訳みたいに手のひらをわきわきさせて私の背中を叩いて、「いや、なんつーか、憧れる気持ちがない訳じゃない」「そっかー」
つまりすごく欲しいということだ。
「じゃあ、あげようか」と、いうと、おう、とテッドが返事をした。こっちのバレンタインの日付を確認して、今度グレミオに、チョコのお菓子の作り方を教えてもらって、一緒に作らなきゃなぁ、となんだか照れているらしい彼の頭を、よしよしと撫でた。
2012.02.13
1000のお題【723 尻に敷かれる】
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