完結後
ホワイトデイズ(おーばー)

*遅参ホワイトデー
*あま……あま……あま? とりあえずらぶってます





にチョコを貰った。
ばれんたいんでー、というやつらしい。


はい、テッド。どうぞ、と渡されたチョコを見て、おお、と俺は瞬いた。馬鹿っぽい、と言われてしまうかもしれないが、
こうやって実際もらってみると、なんだか感動する。「おう」ととりあえず俺は頷いて、照れ半分にの頭をよしよし撫でて、包み紙で包まれた、小さな箱をじいっと何度も見つめた。「……開けないの?」「開けるけど」 うん、うん、と返事をしながら、ピリピリとなるべく綺麗に包装を開く。がじいっとこっちを見ているのが、なんとなくやりづらいなと背中を向けたら、がぐるりと丸め込むように、俺の前に座り直した。

もう一回背を向けようと思ったけれど、照れているとバレてしまうことが、気恥ずかしいような気がして、俺はなるべくじいっと表情を変えないようにと箱を開いた。「おお、チョコだ」「バレンタインだし」「そうか」

おおー、おおー、と俺は箱の中にきゅっと入り込んだ小さな粒をひとつ手に取り、じいっと見つめた後、箱になおした。「食べないの?」「いや、うん」 あとで、と答えた俺に、は不思議気な顔をしてこっちを見た。「今、腹減ってねーから、後で食べる」 もったいないから、ゆっくり食べたい、だなんて言える訳がないので、なるべく誤魔化すようにして、そそくさと寝室に逃げた。(うーわー) 仲良しこよしで、こんな風にものをやるカップルを見て、羨ましいと思ったことはない。別にんなもん、どうでもいいんじゃね。うっすらそんな風に考えている自分もいた。

けれどもと会って、ちょっとずつ自分の考えが変わっていってしまっていることに、今さらながらに気づいてしまった。手作りのチョコ一つで心底嬉しがっている自分に気づいて、ちくしょう、と自分自身の顔を片手で掴みながら、小さく丸まり、おそらく真っ赤な顔になっているであろう自身を隠した。



   ***


(確か、お返し、なんてのもあったよな……?)

女から、好きな男へ菓子をやる日。名前は忘れてしまったが、どこぞの地方の風習だった。随分変な祭りがあるものだな、とそのときは軽く思っただけで、実際それがどんなものなのかは知らない。けれども確か、その後に男から女へお礼を渡す祭りもあったような気がする。「やべ、全然覚えてねぇ」 のふるさととはまた祭りの形が違うかもしれないが、そうでなくとも、やっぱり何か俺からも何か送りたい。

とは言っても、一体何を送ればいいのか。俺からにやったもんと言えばなんだろうと考えて、彼女の薬指にはまっている指輪がせいぜいだと気付いてしまった。随分甲斐性のない旦那だ。「女って、何が喜ぶんだろ」 全然わかんねー。そもそも、女ってくくりじゃなくて、なら何がという話だ。何が欲しいなんて聞いたことがないし、どうせだったら喜んで欲しい。「けどなぁ」

何をやったって、彼女は喜んでくれるのだ。ちょっとびっくりして、申し訳ない顔をした後、ありがとうって喜ぶんだ。だから厄介なんだ。

うー、うー、うー、と俺はぐるぐる家の中を歩きながら、ばしばしと自分の頭を叩いてみた。何でも喜んでくれる、その一番というのが難しい。いっそのこと、本人に何が欲しいか、なんて訊いてみるか、なんてことも思ったけれど、それじゃあ意味がない。「あーもー」 わかんね。ぜんっぜんわかんね。


一体何にすりゃいいんだ、とずるずると時間ばかりが過ぎていって、これじゃあ駄目だ、と俺は恥を偲んで、に相談することにした。に渡す贈り物について悩んでいる、なんて白状すれば、は手のひらを打って、ゲラゲラ大笑いをするに決まっているが、なんだかんだ言って、一番いいアドバイスをくれるのはあいつな気がした。

のだけれど。



「……………テッドの様子がおかしい?」
「うん、は思わない?」


俺はマクドール家のリビングの入り口から隠れるようにして、彼らの会話を盗み聞いた。いや、勝手に耳に入ってきたのだ。なんつータイミングの悪さだ。坊ちゃんなら二階にいますよ、というグレミオさんの言葉を聞いて、とことこと階段を上り、「おーい、」と声をかけようとしたとき、開けられた扉の向こう側には、うーん、と首を捻ったがそこに座っていた。

慌てて彼らの視界から消えるようにと体を移動させてしまったのだが、これからどうすればいいかがわからない。だいたい考えてみれば、隠れる必要なんてなかったのだ。あれ、もいんじゃん、とか適当に声をかけて、にはまた 別の日に尋ねればいい。だというのに俺という奴は。
出づらくなってしまった状況に、あーあー、くそう、と頭を抱えて、けれどもいつまでもこうしてるのはな、と一人で頷き、よしいくぞ、いくぞ、とひょいと顔を覗かせようとしたとき、「あれじゃないの? バレンタインデーのお返しに悩んでるんじゃないの?」 お前はエスパーか!?


「えー? それはないと思うなあ」
「こないだすっごい難しい顔で花屋の前でウロウロしてたし、ついでに言うと菓子屋の前で苦々しい顔をして子どもをビビらせてたし」
「えー……」

テッド、一体なにやってるの……とが渋い声を出しているのが聞こえる。軽く死にたくなった。「そろそろテッドの中で爆発して俺に相談してくるんじゃないかなーって思ってるんだけど」 モロバレだし。

なにこれやだー、と自分自身混乱しつつ、思わず廊下で小さくなった。親友は予想以上に俺の親友だった。マジでモロバレすぎだろ。やってらんねぇ、とこっそり階段から降りて、グレミオさんに挨拶をしてそのままマクドール家を去ろうとため息をついて、こそこそと立ち上がる。背後では、の会話がぽそぽそと聞こえた。けれどもそのまま、一段一段階段を降りた。はずだった。「だからさー、お返し。なんだっけ、ホワイトデー。あれに悩んでるんだって」「違う違う」「違わないって。頑張って鉄仮面はってたけどさ、案外あれでめちゃくちゃ喜んでたじゃん」「うん、それは知ってるけどね、そうじゃなくって」

「ホワイトデー、もう過ぎちゃってるもん」


だから違うよー、とからから笑うの声が聞こえる。えっ、と俺は振り返った。「ホワイトデーはバレンタインデーの一ヶ月後でしょ? こっちでもそうだよね?」「ん、あ、そうか」 そうそう。すっかり忘れてたなー、とがぼんやりとつぶやく。さすがのおっちょこちょいのテッドくんだって、日付は間違えないよね。

そんな風に最後に付け足されたセリフを聞いて、思わず俺は階段から滑り落ちた。どごんっ、ガラガラ、ゴゴゴッ! とでかい音を響かせて、激しく尻を強打し、ばたりと倒れこんだ俺の姿を見て、なんだなんだと飛び出たは激しく叫んだ。大丈夫か何やってるんだ、あらまーテッド、怪我してない? と問いかけられるセリフを聞きながら、俺は激しく思った。


俺ってもしかして、死ぬほど馬鹿なんじゃなかろうか




   ***



テッドの機嫌が悪い。
いや、前々から「あれ、なんだかおかしいなぁ」と思っていたけれど、別にそれは機嫌が悪いとかそういう訳ではなくって、そわそわしているというか、何か考え事をしているというか、少し様子が変だというだけで、ベッドの上でむっつりと座り込んで、唇を尖らせながら、じいっとこっちを恨めしげに見てくるとか、そういう様子はなかったはずだ。

「……テッド、たんこぶ痛いの?」
「……別に」

頭が痛い訳ではないらしい。の家に言って、階段から落っこちてから、ずっとこんな調子だ。虫の居所が悪いだけなら、放っておいた方がいいだろうか、と思っていたのだけれど、ご飯を食べて、お風呂という名前のたらいに入って、それじゃあ寝ますかとお布団の上に行こうというときになってもこの様子だ。もしかして、「テッド、機嫌悪いの?」 いや今更なんだけど。「私何かした?」

テッドはちらりと私を見た。その後ひどく苦虫を噛み潰したような顔をして、「別に」
(うーん、覚えがないなぁ……)

案外テッドはよく拗ねるし、よく怒る。けれども時間が経てばけろりとするし、怒りながら、こっちに文句もぶつけてくれるので、ごめんねと謝れば済む話だ。なので、ぶすっとした顔をしているのに何にもないと言われてしまうと反対に困ってしまう。

「テッド? テッド、テッドさーん」

私はテッドの正面に立って、ぶにぶにほっぺを引っ張ってみた。けれどもやっぱり難しい顔をしたまま、ぷいっと顔を背けて唇を尖らせた。「何拗ねてるの?」「拗ねてねーよ」「言ってくんないとわかんないよ」「だから拗ねても怒ってもねーっての」 それならいいけど、と私は手を離して、パジャマを出しにと背中を向けたら、ずしっと背中が重くなった。そしてそのまま後ろから引っ張られて、ベッドの上に二人一緒に倒れ込んでいた。

テッドを下敷きにするみたいに寝っ転がっていたのだけれど、ごろんとテッドが体を動かした。お腹の前に回された手にぎゅっと力が入って、ぐいっと体を引き寄せられた。「うおおー……」 テッドさーん、と私は短くつぶやいて、ぽんぽんと彼の手を撫でた。振り返ろうとしても、力強く引っ張りこまれているものだから上手く体が動かせない。「なんで言わねーんだよ」 どうしたものかなぁ、と私はされるがままにぼんやりベッドに寝っ転がっていたら、ふとぽそりと彼が呟いた。「え?」

よく聞こえなかった。「テッド?」ともう一回問いかけても、やっぱりテッドはなんにも言わなかった。「テッド、もう一回言って?」 背中越しだから、テッドの顔がよく見えない。けれども多分、むっとしたというか、ふてくされたような表情をしているんだろうなあ、と声色でわかった。「テッドー」 ぽんぽん、と何度も彼の手のひらを叩いていると、またぎゅっと力が入った。「だから、なんで言わねーんだよ」 全然わからなかった。


「うーん、よくわかんない。ごめんね、もうちょっと教えてくれないかな」 ごめんねー、ともう一回言って俺の人指し指を遊んでいると、「なんでが謝るんだよ」と不機嫌そうな声が聞こえる。「いやなんでって」 わかんないし。
テッドさん、教えてください、とゆっくりつぶやいて、今度こそと体を反転させて、寝っ転がったままぎゅっと彼に抱きついた。多分顔は見られたくないだろうから、彼の胸部分にぐりぐり額をくっつけた。

テッドはしばらく考えるみたいに、間を置いて、私の頭にごつんと顎を当てた。「だから、お返しで。期限があるなんて、知らなかったし」 ねーよ、と怒ったみたいな、ちょっとだけ泣きそうな声を混ぜあわせて、ぽそりと彼は呟いた。その言葉で、テッドが言いたいことを、なんとなくわかった。が言っていたことは本当だったのだ。


私はうーん、と考えた。どう言ったら彼が怒らないでというか、傷つかずに済むだろう、と考えて、ちょっとずつ言葉を選んだ。「テッド、お返ししてくれようとしてたの?」 まず前提を確認すると、返事の代わりにまたぎゅっと抱きしめられた。「あのね、そう思ってくれただけで嬉しいよ」 

別にもともとお返し目当てではなかったし、そもそもバレンタインがあるだけでもびっくりなのに、ホワイトデーがあるとは思ってもみなかった。だからそんなの気にしなくてもいいんだよ、と言おうと思ったのだけれど、それは言わなかった。お返しに何をしよう。そんな風にずっと考えてくれていたことが嬉しかったし、そう考えてくれていたテッドの気持ちをなしにするみたいで嫌だったからだ。
代わりに、ごめんね、ちゃんと言ってなかった私が悪いね、と謝った。

そうしたら、だからなんでが謝ってんだよ、とまた怒られた。ひどく不機嫌な声だった。ごめんね、とまた謝ったら、今度はぐりぐり頭の後ろを手のひらで抱えられて撫でられた。お前、何が欲しい、とテッドが小さな声で私に訊いた。全然思いつかなくって、テッドがくれるんなら何でも嬉しい、と答えたらだから困るんだよ、と心底嫌気がさしたような声でため息をついたので、思わず笑ってしまった。

「じゃあそうだな、お花がいいな。丁度何か育ててみたいなーって思ってたし」
切花じゃなくって、種の方がいいな、と呟いた。そうして自分で言った後に、自分はいつまでもこの街にいる訳じゃないのに、何を言っているんだろう、と思った。慌てて言葉をかけようと顔をあげたら、テッドはちょっとだけ嬉しそうな顔をして、「わかった」と言いながらふにふに私のほっぺをいじった。テッドが嬉しそうな声が嬉しかったので、そのまま声を飲み込んだ。

「なんだ、締め切りっつーの? 来年は、ちゃんと言えよ」と、むくれるから、「じゃあ私も来年、バレンタインをあげないとなぁ」とケラケラ笑えば、テッドはなんで笑うんだ、と私の鼻をふにっと摘んだ。
さすがにそれはやめて欲しい、とバタバタ暴れたら、テッドはにやにや楽しそうに笑って、もう片方の手のひらで、ぽんぽん、と私の背中をゆっくりと叩いた。





TOP



1000のお題 【244 タイムリミット】
2012/03/20