完結後
ペンギン会合、おかえりなさい


*好き台詞アンケで子どもネタFlashと答えてくださった方がいたので
ダイジェストFlashその後。息子が家に帰ったとき
*夢主は出ません。4未プレイの方には相変わらず優しくない






ぼろぼろ泣いた。
あほ、と怒られて、ばかみたいに鼻をふくらませて、力の限りに泣いていた。あほ、と父さんはもう一度呟いて、ぽんぽん、と俺の背中を叩いた。少しだけ俺の身長は伸びていて、また父さんに近づいた。ゴシゴシ、と腕で瞳を拭って、ぷい、とそっぽを向く。ぶ、と父さんは吹き出して、俺の背中を叩いた。「ま、でかくなったんじゃねーの」「父さんよかね」「そりゃまだ足んねーだろ」

お前、結構ちびぃもんなあ、とゴツンと額を叩かれた。ずるっ、と俺は鼻をすすって、父さんを見上げた。相変わらず俺とよく似ていて、茶色い手袋で片手を覆っている。
「ほれ、疲れたろ。家ん中に入っとけ。母さんが俺の分の飯を作ってくれてるから」「ん。あ、いや」 俺が首を振ると、きょとりと父さんは口元をつきだした。「なんだよ」「俺一人じゃないんだ。もう一人いて」

、と赤ハチマキの男の名前を呼んだ。彼はぽつりと立っていた。相変わらずにこりと口元を笑わせて、こっちを見つめている。奇妙な間があった。父親を見上げた。彼はゆっくりと一つ、瞬きした。ぼんやりとした顔で、ちょいと片目を開ける。「     息子が、世話になったようで」 くす、とは吹き出した。父さんは、ゆっくりと口元に手を当てた。

「お前も、あがってけよ。残念ながら嫁は外に出てるけど、茶の一つくらい、俺でも出せるぜ」
「それじゃあお呼ばれに上がろうかな」

お互いきゅっ、と瞳を開けて、何度かの瞬きを繰り返すと、どっ、と笑った。
俺は一人、きょとんとして彼らを見つめた。ぽんぽん、と父さんが俺の背中を叩いている。
ゲラゲラ、と笑う声が響いた。
彼らはひどく、楽しげだった。



   ***


「テッド、きみ、弱くなったね」

ずるり、といれた茶を飲みながらはそう笑っていた。「ああ、こいつか」 右の甲をちらりとみつめる。「まあ、色々あったもんでね」 ついでに自分の茶も飲み込んで、ベッドの上でぐうすか眠る息子に目を向けた。よく似ていると言われる、瞳の色だけは嫁ゆずりな少年は鼻の頭をぐずぐずの真っ赤にして体を小さくさせていた。

「違うよ。それもあるけどさ。いろんな意味で弱くなったねってこと。昔のきみは強かったけど弱かった。でも今は、弱いけど、ちょっと強い」
「意味がわかんねぇな」

でもお前、昔っから意味がわかんないやつだったな。と肘を立てると、「うん」とは嬉しげに笑っていた。「嫁さん、もらったんだって?」 おう、と頷いた。「なんで?」 
ずるずるずる、と茶をすする音が聞こえる。「好きだからな」「なるほどシンプル」 納得してくれたならなによりだ、と扉を見つめた。まだ彼らは帰ってこない。

「お前、うちのかみさんに会ってけよ。ついでにもう二人ほど」
「始めっからその気に決まってるじゃないか」
「あ、そ……」

相変わらず、男は赤いハチマキをして、ゆったりと腰をおとした座り方をするやつだった。何にもないのに甲板に座って、釣竿を垂らして、揺れる波の向こう側には、深い緑の雫が見えた。
     あれから長い長い時が過ぎた。おそらく、100年を越えていた。「正直一瞬、誰だかわからなかった」 だってもう、こんなにも時間が経っている。「まあでも、そいつでわかったけどな」 彼の左手にはめられた黒手袋は、ピリリとはじけた。

ばち、とは左手を叩いた。「そう? 俺はあの子のこと、すぐに分かったけど。名前を訊いたしね」「ああ」 両手をこすり合わせる。あいつも変な男だった。けれども食べられてしまった。「なんで、紋章は俺たちを死なせてくれないんだろうな」      なぜ、呪いなんてものがあるのだろう。

すでに俺達は人の道筋を踏み外した。とっくの昔に迎えるべきである終わりを無視して、俺はを引きずり込んだ。少しずつ、彼らは気づいていく。自身の特異さに恐怖する。グレミオさんと、アルドと。彼らとお互いを比べ、滲んだ恐怖が、ゆっくりと牙をむく。

昔に会ったこの男は、その事実を知らなかった。けれどもおそらく、既に彼は知っていた。「そうだなあ」とはつるりとコップの端を指でなぞった。「人は、なぜ生きるんだろう。なぜ、人は死ぬのに生まれるんだろう」 静かな声だ。「多分、そういう疑問とおんなじなんじゃない? 答えなんて出ないよ」 コツン、と指先でそれをはじく。

「そうか」
「そうだ」
「じじいになったな」
「きみは元々」

げらりと笑った。
ぐすっ、と鼻をすするように、アルドが身動ぎした。じじい二人はピタリと声をとめて、少年を見つめた。そうした後に、また笑い合った。
久しぶりの言葉を言い合った。




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2012/09/16