完結後



*手乗りテッド






朝起きると、テッドが小さくなっていた。と私は両手で顔を覆った。オウマイゴット。このパターン、二回目です。

……どうする……どうする……もう放っておいてもいいかなあ」
「いいんじゃない? どうせ明日になったら元に戻ってるでしょ」
「なってるなってる」
「問題ないない」
「問題大アリだっつーの!!!」


他人ごとだからって、悠長にしてんじゃねー!! とぷんぷん怒るテッドは、どうにも迫力が足らない。手のひらサイズ十センチ。より、ちょっと小さめ。きいきい、とテッドは小さな手のひらを振って、興奮しすぎのあまりか机の上でずべっとこけて、額をしたたかに打ち付けた。「うおおお……」と額を押さえてぶるぶる震えるテッドを私はちょんと指でつついた。「おい。ちょ、こら、おま」 ぷすっ。ぷすっ。ぷすすっ。「やめんか!」

いい加減にしろっての! とテッドは私の指先をバシッと手のひらで叩いた。ちっちゃな指先を、やっぱりちっちゃな手袋で覆っていて、「あはは」と私はちょいちょい遊んでみた。ニマッとする。「うりうりうり」とお腹を指先でいじってみた。ころん、とテッドは尻もちをついて、ぎゃあ、と手足をばたつかせた。「うりうり、うりうり」「ぎゃっ、ちょ、あうっ」 微妙に涙目になっている。

ぜはぜは息をさせるテッドを見て、さすがにちょっとまずいかなあ、と指先を収納すると、「てめえ後で覚えとけ」とずるっとテッドは鼻をすすった。申し訳ない。「あーくっそ、なんでまた」 どうせまた、ソウルイーターが3つなのがうんたらでこうなったんだろ? とやる気のない説明をするテッドに、「まあ大丈夫、すぐ直るよ」と軽い口調で励ました。

少し楽観しすぎかもしれないけれど、重っ苦しい口調で話してもしょうがない。「そうだとありがたいんだがな」とテッドはぼそりと呟いて、乱れた服をなおしている。「ねえ?」 私はに問いかけた。
は難しげな顔をして、親指に唇をつけていた。「俺、思ったんだけど」 静かな声だ。ドキリとして彼を見つめた。「服も一緒に縮んで本当によかったよね」 まったくもってどうでもよかった。




とりあえず元に戻るかと思って三人ソウルイーターを共鳴させてみました。
結果。無理でした。

「やばいこれどうする? どうしよう笑えるけど笑えない」
「いや笑えないよ。本気でちょっと笑えないよ」

凹みすぎてコップに頭から体をつっこんでお尻を見せているテッドを放置し、私とは二人で作戦会議を始めた。ちなみにグレミオは、テッドのミニマムな姿を発見したときから、カッと天啓が降り立ったらしく、せせこさと針と糸でミニマム用の着替えを作っている。「そのサイズの服はさすがに売っていませんからね! とりあえずパンツから優先に作ります!」と目に炎を灯す彼は頼りになる大人である。

「テッドー、大丈夫だって。前にほら、子どもになったときも、なんだかんだ言ってなんとかなったし」

だからコップから出ておいでー、と声をかけてもぐらぐらとコップが揺れるだけである。可哀想に。まあまあ、とは首を振った。「ちゃん、そこはちょっと、違うんだな……」 俺にまかせてくれよ、とばかりにはぽん、と私の肩を叩いた。

「テッド、よく考えてみてくれ。今のきみはだいたい8センチばかりのサイズだ。とても小さい、ミニマム小さい!」 がらがらがら、とテッドが入ったコップが転がっていく。しょぼくれているのだろう。「しかしっ! 考えても見て欲しい! 今ならみんなが夢見たことを、なんでも体験できるじゃないか! ケーキに頭からつっこんで食べるかい!? 札束の海で泳いでみるかい!? それともっ!」 ビシリ、と私を指さす。

ちゃんの谷間に入ってみぶぼっ」 とりあえずしめといた。





むぐむぐ、とスパゲッティーをすする。ずるずる。分厚い。爪楊枝でぶすりとさして、等分する。むぐむぐ。うまい。しかしながら情けない。
パンツの替えもできて、踏み潰される恐怖と戦っていますとコメントする程度には慣れてしまったが、本当にこれでいいのかと泣けてくる。けれどもしょうがない。パンツがあって本当によかった。グレミオさんありがとう。


とかなんとか言っている場合ではない。俺はテーブルの上に刺しておいた針に手を伸ばして、そこから先に伸びている糸に抱きつく。するすると地面に着地し、低くなりすぎた視界を見上げた。ちっちぇえ。
この間は子ども、その次はミニマム。一体全体、ソウルイーターは何をしたいのか、と溜息をついてきょろきょろと辺りを見回した。他の三人は宿の売店で食事中だ。さすがにこんな格好で外に出る訳にもいかないので、自分の分はテイクアウトをしていたという訳である。
まあまあ大丈夫。気にせず一緒に食べよう。そういうたちに、「そっちこそ気にすんな」と俺は手のひらを振った。

じっと広い部屋を見上げる。広すぎる。一人である。
一人である。
オンリーワンである。

「うっほう!」

俺はごろんとでんぐり返しをした。ごろごろごろ。ごろごろごろ。ごろろんごろん。ベッドにのぼってぼよぼよ跳ねる。「うっほう!」 ごろごろする。「うほほっほう!」 爽やかな汗が流れた。温泉で一人こっそり泳ぐような気分である。「ひゃっほー!!!」 

とりあえずひと通り遊んだ後、俺はベッドから飛び降りた。さすがにちょっとした恥ずかしさはある。一体俺は何をしているか、と突っ込む気持ちもあるけれど、こんな機会は滅多にない。楽しまなければ損である。

疲れた疲れた、とあくびをしたとき、ふとベッドの下に、光るものを見つけた。そういえばしばらく前に、ポッチを転がしたのだ。ちょっと考えてみた。よしよし、とベッドの下にしゃがみながら進んでいく。
埃だらけになったので、そのまま旋回してUターンした。はやく大きくなりたい。






「っていうか俺、今思い出したんだけど、ピクシーの攻撃に、こんなのなかったっけ?」
「“チビ”だ!」

あったあった、と私は指をさして頷いた。「ってことは、紋章は関係ないのか?」 うむ? と相変わらず小さな手のひらを顎に置いて首を傾げるテッドに、「いや、そんなことはないと思う。ピクシーの攻撃に持続性はなかったし、そもそもテッド、きみ、ピクシーにいつ会った?」

まあそうか。とテッドはぼんやりと呟いて、ため息をついた。「じゃあ、ピクシーは関係ないんですかねぇ?」と首を傾げるグレミオさんに、「そういう訳でもないかもね」とはちょこんとテッドの額をつついている。やめろやめろ、ところころサイズの短い腕で、必死に暴れるテッドは可愛い。

「ピクシーの攻撃も、もしかするとソウルイーターと似た気質のものだったのかもしれない。時空を歪ませて体を小さく見せているんだ。けれども力が弱いから短い時間しか作用しない」

なるほど。と頷く。「ところでちゃん。ピクシーに捕まって、体が小さくなってしまったときの対処法は知ってるかい?」 ちょっとだけ考えた。「……効果が切れるまで待つ?」「それも一つ」 けどもうひとつ。とは両手の人差し指をくるっと回す。

「おおきくな〜れ」

どうしよう、と口元を押さえた。「おおきくなあ〜〜〜れっ」「あの、ちょっと、反応がしづらく」「いやこれホント。気の持ちようだから。この呪文はものすごく効くんだって。ね、グレミオ!」「おおきくなあれ! テッドくん!」「まさかのなんのためらいもなく!?」

謎の呪文を二人からかけられ、彼らの真ん中でぽかんとテッドは正座していた。おおきくなあれ、おおきくなあれ。「ほらちゃんも一緒に!」 おおきくなあれ。

本当にこれでいいんだろうか。
何が間違っている気がする。
けれども他に思いつかない。「…………おおきく、なあれ……?」 

ぴくり、とちょっとだけテッドのサイズが大きくなった。ような気がする。
今だ、と私ととグレミオは声を合わせた。「おおきくなあれ! おおきくなあれ! おおきくなあれー!!」

ずんずんずん、とテッドがどんどん大きくなっていく。ずんずんずん。見上げる影が、にゅっとこちらに落っこちた。ずんずんずん。


「やべ」とがぱちんと頭を叩いた。「やりすぎた」 ごめーん、テッド。
ミニマム事件、これにて終了。ネクスト、マキシマム?



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2012/09/08
手乗りテッドくれよお! って言われたから