*おまけチャコ視点
俺たちの街だ
ここは、俺たちの街だ。
例えば羽つきだとか、ガキだとか、勝手に街に住み着いているよそ者だとか。耳と尻尾がくっついているやつらも、ニンゲンも、みんな好き勝手に口を回すし、俺たちだってあいつらを好き勝手にバカにしている。あいつらにとっちゃ、俺たちはよそ者だ。でもそれっておかしいだろう。ずっとずっと、長くこの街に住んでいて、生まれた時からずっとここにいる。
(さみしいことだね)
ばあちゃんは、そう言ってゆっくりと椅子に座っていた。みんなみんな、同じだっていうのになんでかね。いいや、きっとしょうがないこのなんだろうね。同じなのに、同じでない。でもね、私は思っているの。いつか、何かが変わるんじゃあないかとね。
チャコ、あんたもね。
ばあちゃんの言葉は、俺にはよくわからない。ニンゲンは嫌いだ。コボルトも嫌いだ。けれどもこの街は好きだ。トゥーリバーの街は好きだ。
ここは、俺達の街だ。
絶対に、守らなくちゃいけない場所なんだ。
懐に抱え込んだ石をおもいっきりに投げつけた。重い。体中が重い。ばさばさと必死に翼を動かして、王国軍に投げつけた。打ち上げられる弓矢に、腹の底がひやりとする。おもいっきりに息を吐き出して、溜め込んだ石がなくなれば、足の爪であいつらの瞳をひっかいた。剣が来る。ぐるんと旋回して、バカみたいに重たげな鎧に両足を打ち付けて、がちゃんとでかい音を立てる。
悲鳴が響いた。ニンゲンも、コボルトも、ウィングボードもごっちゃになって、みんなが一緒に戦った。一瞬、変な気持ちになった。なんで俺、こいつらと一緒に戦ってんだ。でもそうだ、変じゃない。全然変なんかじゃない。
ぼたぼたと首元から汗が滑る。それを腕で拭って、必死に宙で剣戟を避ける。
危ない、と何度も思った。ずるりと足を滑らせて、羽に矢がかすって、喉から妙な息が出る。
目の前が霞んだ。ずるりと出た鼻水をぬぐって、とっくの昔になくなってしまった石っころを探して、地面に縫いつくように王国軍の攻撃をかわす。
おっこちた石を拾った。投げつけた。ガツン、とやつらの鎧にあたってはじけ飛んだ。けれども全然意味なんてなかった。俺ははあはあと息を荒くしてこっちに向かうそいつを見つめた。どんどん息が大きくなる。心臓の音もひどくなる。けれども体が動かない。きょろりと定まらない視界を動かして、振り下ろされる剣を見上げる。あっ、と思った。
ふと、誰かが俺の腕を引っ張った。
ひゅん、と静かな風がふいた。
下から上に、黒い何かが通り過ぎる。ニンゲンだった。ニンゲンの男の背中だった。「ナイスファイト」 そいつはニッと口元を笑わせて、小さな声で呟いた。そのくせ、俺の耳に、その兄ちゃんの声はしっかり響いた。
奇妙に長細い剣が、キンッ、と静かな音を立てて宙にひらめく。男が飛び降りた馬が戦場を駆け抜けた。ぬっと長く背の高いその兄ちゃんは剣についた血を片手で拭った。「やあ少年、がんばったな!」 いいね、そういうヤツ、大好きだぜ、とニッと白い歯を見せながら、その兄ちゃんは笑っていた。「でもこっからは、大人にかっこつけさせてもらいたいところだね」
にまり、と兄ちゃんが顔を上げて、視線を投げる。俺はぺたんと地面にケツをつけて、意味がわからないままにきょとんと瞬きを繰り返した。そのときだ。
「 南のコボルト村からの援軍が来たぞッ!!!!!!」
雄叫びが響いた。
勝鬨の声だ。
兄ちゃんは笑っていた。けれどもすぐに、そいつの背中はもみくちゃの中に消えていく。
なぜだか勝手に視界が滲んだ。
(援軍)
みんながひとつの街を守っていた。俺たちの街を守っていた。
トゥーリバーの街は、守られた。
2012/11/08
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トゥーリバー編今更ながらに終了