*2主視点




人が多く集まる。
少しずつ、少しずつ、僕らは歩を広げていく。デュナンの城を守りあげ、トゥーリバーの街から、王国軍の軍勢を撃退し、グリンヒルの市長を奪還した。
広がる指示の声に、ときおり足が重くなる。それは多分気のせいだ。僕はそう思って前を向いた。けれども不安げなナナミの顔を見る度に、純白の軍服に身を包んだ、消えた幼馴染を思い出す度にどきりと心臓が嫌な音を立てる。そのことを僕は知ってる。

(けれども)
同盟軍は、新たなこの同盟軍は前に進まなければならない。そうしなければ瓦解する。
(義務じゃない)
そう思うから、僕はこの場所にいる訳じゃない。

ときおり、瞳を閉じる。そうして深呼吸を繰り返す。いつもの癖だ。
こんこん、と分厚い木のドアを問いかけとともにノックした。「シュウ、いる?」

開かれたドアの向こう側に、背が高い男がいた。帯刀した剣は妙に細くて、不思議だ。腰元に揺れる彼の飾り紐を見て、もしかするととその人の姿を思い出した。

「で、ティントさんはあいかわらずの梨の礫。話すらきいてくれなかったよ」
「なるほど。まあ予想の範囲内だ」
「あっそう。どうせそのうちまた行けってんだろ、わかってるよ     おっと」

青年が振り返った。「よう少年」 びしりと片手を上げられたものだから、なんとなくこっちも反応を返してしまった。「はあ、こんにちは」「悪いね、待った? 飴やろうか」 オレンジやろうか、とポケットをいじくって目の前に吊り下げられたものだから、思わず「はあ」とまた頷いて、受け取ってしまった。

よしよし、と頭を撫でられると、どこかひどく奇妙な気分になる。
、彼は殿だぞ」
「ん? わかってるわかってる」

そいじゃあ俺の用事は終わったから、またなんかあれば声かけてやってくれや、と言葉と態度の割には、妙に礼儀正しく扉を閉めた彼を見つめて、僕は幾度か瞳が瞬いた。ついでに渡された橙色の包み紙に首を傾げて、ころころと手のひらの上で転がす。

「シュウ、さっきの人は?」

幾度か、城の中ですれ違ったことがある。ときおり、ビクトールやフリック達と酒場で酌を交わしている人だ。二十歳の半ばは過ぎているだろう。その縦に長い風貌と奇妙な剣が印象的な人だった。
シュウは僕の疑問に、少しだけ眉を動かした。それにしても、相変わらずわかりづらい表情だ。「体の良い使いっ走りです。自身が食べもしない飴を配り歩く、酔狂な男だとでも覚えておけばいいでしょう」「はあ……」

よくよく見れば、シュウの机の上にも僕とは色違いの飴玉が転がっている。
さんって言うんだっけ?」
「まあ便利な男です」
「シュウが言うってんならよっぽどだね」
またぴくりと眉が動いた。

「それで殿。何か用があったのでは」
「ああ、そうそう。これからのことをちょっと聞いておこうと思って」
「なるほど、ではそこにお座りください」

丁寧な言葉を使っているくせに、やっぱり態度はどこか横柄な彼に頷きながら、ふと、さっきの人のことを思い出した。
さん。
なんだかちょっと気になった。
(今度、声をかけてみよう)そう思って、ころころと手の中でオレンジ色の飴玉を転がした。





2012/12/26
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グリンヒル逃亡後