もしビクトールがケータイだったら







可愛い女の子型ケータイが欲しい。
できることならご主人様と呼んでほしい。
でもこの世には、ケータイがいっぱいある。優柔不断を背負って生きている俺には、どうにも選べそうにない。目を瞑った。クリックした。きみに決めたと名前を見ずにやってきたのは、おっさんふぉんでございました。

「よう、よろしく頼むぜ!」
「アーッ!!!!」






ネット通販というのは恐ろしい。女の子ばかりがあふれていたページの端に、そっと位置したこのビクトールふぉんは、32歳、見える二の腕がムキっている。「俺、なんであんなアバウトな決め方しちゃたんだろ……」「まあまあ気にすんなよ。人生こんなこともあると思うぜ?」 まさかのケータイに慰められた。

俺はぐしぐしと鼻をこすりながら、「……お前、どんなケータイなんだ?」 ケータイには、それぞれ特色というものがある。例えばグレミオふぉんならお料理アプリが充実していて、テンプルトンふぉんなら、いつでもどこでも電波が届く、迷い人知らずである。ケータイのことなら任せてくれ。調べに調べて、調べすぎてよくよくわからずこんなことになってしまった男だ。

「あー、そうだな、バッテリーが長いな」
「……そんな見かけっぽいよな……」

主に二の腕とかを見つつ。

「特技はねーの?」

例えば歌がうまいとか。メモリの記憶力が充実とか。
俺の質問に、うーん、とビクトールは首を捻って考えた。考えて、考えた。「昼寝かな?」 スリープモードはバッチリらしい。






「てめえこらビクトールー!!!」

ふざけんじゃねー!!! と俺は叫んだ。そうして持ってたメモを星辰剣と遊ぶビクトールにつきつけた。「お? なんだそりゃ? ぶはは、キタネエ文字だな」「お前だお前! お前が書いたんだろうが!」

ついこの間、上司に送信したメールである。「次の会議よろしくな! お手柔らかに頼むぜ! じゃねーよおおおお俺そんなこと言ってねーだろおおおおおお」 なんでこんなフレンドリーな言い方に変わってるんだよおおお、と俺は一人頭を抱えて沈み込んだ。なんと送信したかと確認をしたらこれである。

ビクトールは自分で書いたメールを見て、ふんふん頷きながら、星辰剣を肩にかけた。

「あれだ。お前の文章書きづらいんだよ。文字数が多くてなあ」
「上司なの! 仕事メールなの! しかもなんで端っこに絵文字もついてるんだよおおおお! 何を主張したくて熊さんなんて書いたんだよおおおお!!」
「熊じゃねえ。獅子だ」
「どっちでもいいわい!」


うちのケータイが申し訳ありませんでしたと上司に頭を下げたら、げらげら肩を叩いて笑われた。






「あんたは頭が硬いのよ」
そう言って怒られたのは、いったいいつのことだったか。振られた彼女のことを思い出しながら、俺はふらふらコンビニに向かった。振られた寂しさに購入したケータイは、なにやらおっさんふぉんで、適当なやつだった。

「ビクトール、さむくねーか」
「発熱機能はバッチリだからな」
「それただの熱暴走だろ」

あーあ、と溜息をついて、頭の上にビクトールを乗せながら、カゴの中にカップラーメンを詰め込む。寂しい食事はいつものとおりだ。「ビクトール、金出せ金」 お財布ケータイの出番だぞ、とレジで声をかけると、いつの間にやらそいつがいない。

店員さんにすみませんと頭を下げて、相棒を探した。「おいビクトール!」「おう、こっちだ」 酒缶を抱えたでかいおっさんが、なぜか俺の背中に突っ立っている。「……お前でかくね?」「やっぱ自分の足で歩く方が楽だよな」「いやでかくね?」「これも追加でよろしく」 こっちのツッコミはスルーである。

さっさか一人で済ませてしまったおっさんに、「おいこら待て」と俺は慌てて突っかかった。「おう、、今日は飲むぞ。こんな気分のときは飲むに限る!」「いやお前ケータイだろ、飲めないだろ」「そういうときのための、小型バッテリーだろうが!」 お気に入りのお猪口型のバッテリーを言っているらしい。


いやお前ね、と俺はそいつの隣に並んで、顔を見上げた。見慣れないサイズの男は、「ん?」ときゅっと瞳を開いて、ニカリと笑った。なんだか色々、どうでもよくなってきた。

「振られた女のことは忘れるに限る!」
「ばっ……んなこと誰も言ってねーだろ!」
「ぐだぐだ前の彼女の手紙を見てりゃ、嫌でもわかるだろ」
「うおおおーっ!」

勝手に俺を見てんじゃねー! と人騒がせに道端で叫んだ。ビクトールはげらげらと笑っていた。


その日はチビなケータイを相手にして、俺はちびちびビールを飲んで、ビクトールは楽しげにお猪口に口をつけた。おえーっと酔って、ぐがーっと眠った。スリープモードが得意なビクトールは、めざまし機能なんて便利なものは使えない。

ベッドの上から、がんがん響く頭を抱えて、「起きろー!」 と俺は思いっきりケータイに叫んだ。「うおっ?」とぱちぱち瞬きを繰り返すビクトールに笑って、「今日も元気に仕事するぞー!!」 相棒に宣言した。