運命論者は語る
運命論者は語る。
私は頭を垂れる敬虔な、ローレライ教団の信者達の手のひらを取った。ゆっくりと、口元から息を吐き出し、そして収める。ぐうう、と圧迫されたような苦しさが通り抜け、すっと瞼の裏に、明かりが灯った。それはくるくると踊りくねり、私はただ、その浮かび上がる文字を、手づかみに追う。そしてふと瞳を開き、彼らへと、預言を伝える。そして彼らは、ぱぁ、と咲き誇るように微笑むのだ。
気づくと私は、このように同じ毎日を繰り返していた。そのことに対する不満も何もない。
色とりどりのステンドグラスから照らされた光は、空中へと光の網を作った。その中にぽつぽつと色づく色合いがとても美しく、思わず目を細めてしまいそうになる。けれども私は、きゅうと両手を力の限り握りしめ、何かに縋るかのような目つきの青年を見詰めた。
ぽとぽとと、室内へと設置された、泉に例えられた池が静かに音を立て、「今年一年の預言をお願いしたいのですが」と、不安を押さえたような声を漏らす青年に、私は慣れた手つきで、男の固い手のひらを握りしめる。
こうして、色んな人間の手のひらを握りしめると、なんとなくその人の人物像が見えてくる。例えばこの男は、両の手を合わせ二つほど大きなタコが出来ていた。弓だろうか、と考え、がっちりと大きな手のひらは、体つきに合わず、おずおずとした手の出し方だ。
ふ、と今度こそ目を細め、そして、そのまま意識を巡らせた。
第七音素を、ゆっくりと頭の中でイメージする。くるり、と指先から循環し、脳の中へと。
つかみ取る。ぎゅう、と閉じた瞼を、また、力強く、閉じた。
ぱちん!
唐突に響いた破裂音に、びくりとまつげを震わせ、そしておもむろに開眼した。青年はどこか不安げに、「どうなのでしょうか」と自分の手のひらをじっと見詰めている。「………あ」 掠れた声を、ごくりと唾を舐めるように飲み込み、ゆっくりと声帯を、震わせた。
「………何も、案ずる事はありませんよ」
「本当ですか。病気も、何もなく健やかに暮らせるのですね」
「ええ」
手のひらを離し、薄く微笑む。
けれどもそれは、嘘だった。
さくり、と耳の奥へと、くしゃくしゃに散りばめた星くずが絡め合う音が響いた。地面へと精一杯張り付いた、短めの葉っぱ。風が吹き荒れるたびにゆらゆらと身体を揺らし、一様に同じ方向へと倒れ、またさっと元の形へと戻る。
教会の端にある階段を降り、街でも、教会でもないその中間地点へと、ふうと腰を下ろした。流した髪が首筋を揺れ、少しくすぐったい。
なじみの兵士がぺこりと頭を下げ、消えた。きっとおそらく巡回中か何かだったのだろう。
少し疲れたな、と空を見上げる。小さく身体を抱え込むようなポーズで、膝の上に顎をちょこりと乗せた。
まだ、約束の時間まで、少しある。
ただ少し前の、指にタコのある青年の表情を思い出した。嬉しそうに、目元を垂らし、頬を紅潮させ、高く響く声。
私は教会の壁へと背をもたれかけながら、ふいと瞳を閉じた。
(………しょうがない)
しょうがない事だ。
彼の預言には、未来が崩れていた。真っ直ぐに続く道筋に、大きな亀裂が出来、その先へと進む事ができない。おそらくそれを意味するものは一つだ。
(………ローレライ教団は、死に関わる預言を、詠んではいけない)
人間の心は、平穏でなければならない。死はそれをかき乱す。
だから、彼らに事実を伝えてはならない。
「しょうがない………」
ふい、とついた言葉は風にながれ、ゆるゆると余韻を残すかのように、消え果てた。
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2008.10.24
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