大家と店子と番外編





Q.第三話にてパンツ討論をしていたという店子は一体誰ですかと訊かれたので
A.全員です。


*ガイが来る前に、そろってパンツ談義をする男たちの図





「トランクスだろ」
「ブリーフですね」

グサッ。グサグサッ。
丸いお皿の中に入ったレタスの上に、ぐっさりとフォークが突き刺さる。「シンク、ちょっとお下品ですよう?」とかちゃりと眼鏡を直すジェイドさんに、フンッとシンクくんは鼻で笑いながら、もう一回ぐさり。「理解がしかねるね、ブリーフだなんて、ただの白い物体じゃないか」「おっとと。小学生までは戦隊物のブリーフパンツをはいていたアナタが言えた台詞ではありませんねぇ」「な、なんで知ってるんだよ!」

ブボッと思わず口からトマトを吐き出したシンクくんの立場は弱い。さすがにジェイドさん相手では、いつものシンク節を発揮することができないんだろう。いやはや、男性とは大変ですねぇ、カレーに付け合わせた福神漬をいただきながら、私はうっすらと細い目のまま彼らを見つめた。超どうでもいい。


話の発端は、一体なんだったんだろう。確かシンクくんが、クラスの男子がまだブリーフを履いていた、と言ったところだったかもしれない。いいじゃないですか、ブリーフ。私もブリーフです。嫌な返答をしてしまったジェイドさんと、シンクくんの間で、静かな火花が散った瞬間だった。久しぶりにお仕事から帰ってきたと思ったら、中学生とパンツ討論とは、一体何をしたいんだろう。
ちなみにディストさんは、私の隣で黙々と福神漬をポリポリしている。ジェイドさんがいるというのに珍しく静かなのは、福神漬パワーだろうか。



「ハッ、ブリーフなんて許されて小学校までだね。だいたい高学年になると、みんな少しずつトランクスに変えていくんだよ。まあ、オジサンには、今時すぎてわからないかもしれないけど?」
「おっとっと。私もトランクスの時期はありましたがねぇ、今となっては若かりし頃の思い出というやつです。ブリーフの動きやすさを、あなたは理解していませんね?」
「動きやすさなんて問題じゃない。ようは、“固定されるか”“否か”ってことだよオジサン。あんなのぴったりしてて、自由の隙間もないじゃないか」
「それが若い、と言っているのですよ。寧ろその固定されている感がいいんじゃないですか」


(…………心底どうでもいいことを聞いているような気がする……)
なんとなく口をはさむこともできず、もぐもぐご飯を頂いているけれども、固定されるって一体何がだろう。ああ、ナニなのか……と、新たな知識を得てしまった。そんなこだわりがあったのか。ブリーフとトランクスの分け目は、そこなのか……と考えながら、ご飯を咀嚼した。
さっさと食べて上がってしまいたい。けれども、食べ終わって、立ち上がる瞬間の気まずさを想像するとなんとも微妙な気分になるので、なるべく時間をかけて頂きたいような。どっちつかずでどうすればいいかわからない。


「ブリーフ」「トランクス」「ブリーフ」「トランクス」「ブリーフ」「トランクス」
掛け合う彼らの言葉と火花に静かにお茶を入れた。こぷこぷこぷ。いっぱいにしたお茶を手のひらでかこんで、口をつけようとした。ふと、ディストさんがぼんやりとこっちを見ていることに気づいた。「……あ、お茶いります?」「あ、頂きます」 こぷこぷこぷ。トランクス派とブリーフ派の主張は続いている。しかしながら、ぼんやりお茶を飲んでいると落ち着いてくる。


福神漬を食べ終わったらしいディストさんもそうなのだろうか。ジェイドさんを前にした、いつもの挙動不審は身をひそめて、彼は私が入れたお茶をじっと見つめている。「さん?」「はい?」「私は……ボクサーの方がいいと思うのですがねぇ……」 一瞬、格闘に目覚めたのかと思ったけど、多分違う。

「えーっと……」
「動きやすさはトランクスとブリーフの中間ですし、固定に関しても、両方の欠点を補い合った、一番の形ではありませんか」

ありませんか。って知らないし。
「……さあ、人、それぞれですんで……」 トランクス。ブリーフ。ボクサー。トランクス。ボクサー。ブリーフ。気づけば一つ、主張の声が増えている。


(…………男の人にとって、重要なことなのかなぁ)
まあいいか、ともういっぱいのお茶を継ぎながら、私はぼんやりテレビをつけて正座した。ブリーフ。ボクサー。トランクス。ブリーフ。




TOP


2012/07/14
1000のお題【724 各種取り揃えております】
心持ち、パンツ関連の話題が多いサイトです。