※三周年アンケでリク頂いた、主人公の学校生活模様のお話です。
キャラ登場有無・オリキャラ登場などは問わないという事で、オリキャラ視点(男)で書かせて貰います。
学校びより
寒い朝というものは布団から出たくないもんだと俺は思う。暖かい熱気に包まれて、このままうっとり眠っていたいと考えていたけれど、サッカー部の朝練で鍛えられた所為か、目をこすりながら俺は体をはいずりだした。
時計を見詰めてみたら、短い針と長い針が真っ直ぐとした形になっている。
「………6時………」
寝ぼけ眼な自分の声に、頭をぶるぶると振った。「朝練」は、多分ない。
けれども今更布団の中に潜る事もできずに、のんびりゆっくりと準備をして学校へと向かったのだ。
誰もいない教室というのはなんだか肌寒いような気がする。くあ、とあくび一つに、ドアへと手を掛けて、カラカラとひっぱった。
「うはよーっす」
返事なんてあるわけないが、長年の習慣ってヤツだ。頭を半分出した格好で、朝の挨拶。
「おはよう、秩父」
「うおっ」
誰もいない訳じゃなかった。端っこの席で、女が一人、こっちを見て、小さく手を振っていた。「おう、か」
すっかり忘れていた。こいつの朝は無駄に早いのだ。
俺はの前の席へと鞄を置いて、「おっまえホント早いよなぁ」と思わず笑ってしまいながらの頭をガシガシとひっかく。
うわっ、やめてよといいながらもは特に抵抗もしないで、机の上に開いた教科書を指でなぞっている。
「ほらさ、私早寝早起きだし」
「健康的だなー」
「夜お腹減って仕方ないときって寝たらなんとか我慢出来るんだよね」
「………不健康だなー」
秩父は朝練は? と首をひねる彼女に、「今日は休みだ」といった。そっか、と一言置いて教科書へと視線を投げる。
こいつは暫く前まで、俺が入っている部活のマネージャーだった。辞めた理由は知らない。ある日が「ごめん秩父、私部活やめるね」となんともなしに、呟いた。へぇそうなの、と同じくなんでもない風に俺は言葉を返したけれど、案外ビックリしていた事を覚えている。
俺はコイツと一緒に卒業まで部活をする気だったし、コイツもそう思っていた。(と、思う)けれどもある日辞めてしまった。
部活は辞めたけど、別に付き合いもやめた訳じゃない。そんな訳で、いつもと変わらないように俺はにかっ、と笑って「俺宿題忘れたからさ、写さして」と片手を差し出したら、パチンとその手を弾かれるついでに時間はまだまだあるんだから、自分でやんなさい、と怒られてしまった。
昼食になると俺との席が近いということで、俺はイスに反対向きに座って、途中のコンビニで買ったパンを取り出す。よっこらせ、との机の上に載せて、よっしゃ昼飯の準備万端だというのに、は何もせず、ぼけっと窓を見詰めていた。
こいつは、いつも昼飯を食べない。いつ食べているんだろう、と本当に考えてしまう。曰く、昼飯はもったいないなのだそうだ。
俺が俺のパンを分けてやるよ、といっても施しはいらないと一言だけ。施しなんかじゃねぇよ、といっても、信じてはくれない。信じるじゃない、拒否される。その度に、ほんのすこし苛ついた。焼きそばパンの袋を無理矢理びりっと開けて、口の中に放り込む。
別にこんなヤツでも、昔からこんなにケチだった訳じゃない。そりゃあまぁ、小学校のとき俺が消しゴムを最後まで使い切らずにゴミ箱へ捨てようとしたときは「もったいない!」と頭からグーで思いっきり殴られたときはあったけれど(あれは痛かった)やっぱり今よりマシだった。
マネージャーを辞めてから、明らかに酷くなったのドケチ具合には、本当に開いた口が閉じない。人生に必要なものまで、もったいない。で終わらせる。
コイツに一体何があったのだろうか、と俺は本気で心配になってしまう。
放課後は、誰よりも早く教室を飛び出して、どこかへと向かう。それがどこなのかは知らないが、きっとそれが目的で、マネージャーを辞めたんだろう。
ある日ふと、ってこんな痩せてたっけ、気づいてしまった。
今日の朝と同じように誰もいない教室でぽつんと座っていて、太陽から照らされるシルエットがとても細くて、驚いた。
「なあ」
「なに?」
「飯くらい、ちゃんと食えよ」
俺はたびたび、そう彼女へと告げる。けれどもは、「食べてるよ」と軽く笑ってかわすのだ。そういつもと変わらないといいたげに笑う彼女を見るたびに、ぞわぞわとする。頭の中で言葉が混じる。「おまえ、おかしいよ」
いつもは心の中で呟くだけの言葉を、俺はうっかりと口に滑らせてしまった。なにが、とはいう前に、ことんと端を弁当の上へと置いて、じっと俺を見た。「………おかしいよ」 つぶれそうな声に、ふう、とのため息のような声が聞こえる。ほんの少し、いった事を後悔して、恐くなった。
「秩父、衣食住って、大切だよね」
突然何を言い出すんだろう。よく分からないので、俺はうん、と頷いた。「衣って、制服でしょ」「うん」「住って、住むトコでしょ」「うん」「だったらもう、食しか削れないじゃない」
削る必要なんて、ないじゃないか。
「俺のパン、やるよ」
いらない、といわれる事は分かっていた。だからいわれる前に、開いたメロンパンを、の口元にがすっ、とつっこむ「ふがっ」 妙な声が聞こえたけれど、の鼻を掴みながら、口元へとグリグリおしつけてやった。
苦しくなったのか、ぱっくりと口を開いた瞬間、もっと奥へと押し込める。手を放すと、しっかりと噛んだ痕が残るメロンパンが、机の上へとぽとりと落ちた。
「何すんの!」
「ほら、もうそれお前んだからな」
「いらない」
「俺お前の噛み痕ついたパンなんて食べたくねぇよ」
「いらないっての!」
「俺は食べないぞ、それ。もったいないぞ、それ」
もったいないがに響いたのか分からないけれど、は渋々とメロンパンへと手を伸ばして、もぐもぐと口の中に押し込む。
なんだかリスみたいな食い方だなぁ、と笑ってしまうと、ギロリと睨まれてしまった。
「………秩父、桃矢先輩みたいなことする」
「桃矢って誰だよ」
「でも桃矢先輩は、もっとやさしかった」
少なくとも、鼻はつままなかった。
そりゃあ申し訳ない、と思ったけれど俺は桃矢先輩というヤツじゃないし、仕方ないじゃないか。俺は秩父で、の友達で、あわよくば親友で、コイツがドケチな事を知っている。
が、一体何に焦ってるのか分からないけれど、無茶はしないようにと見張れる事は出来ると思う。
きっと桃矢先輩も大変なんだろうな、と考えたけれど、それ以上に俺は明日はどうやってコイツに昼飯を食わそうか、とその事で頭の中がいっぱいだった。
暖かな季節は、まだ遠い。