静雄がもしケータイだったら






太陽電池で長持ちケータイ、しずおふぉんはいかがですか?




そんな広告文句を思い出した。棚に陳列されていた彼をぴしりと指さして、この子にします、と店員さんにお願いした。うちの家の日当たりは良好なので、ぽかぽかあったかバッテリーを所望する。
家にやってきたときは、ふーふー毛が逆だった猫みたいだったのに、いつの間にやらバーテン服の手のひらサイズ携帯は、窓の外をぼんやり見ながら、ふかふかお座布団の上でまったりバッテリーの充電中である。うとうとしている。

「おーい静雄ー」

起きてます? と声をかけてみた。返事がない。ちょんちょんちょん、とほっぺを指でつついてみる。やわらか暖かい。返事代わりにぱたぱたと片手を動かして、まったりのったり頷いている。一人かってにバイブモードか。「午後には学校だからね、それまでにはちゃんと起きといてよー」「おう……」 長持ちバッテリーの青年は、ときどき返事がだるだるしている。





学校である。学校である。
私はほかほか日向ぼっこを継続中な静雄を首のフードに入れて、ぽてぽて大学に向かっていく。暖かい日差しが嬉しい季節である。自販機を見つけた。私は財布を取り出して、カチャリと小銭を入れてみた。「何飲みたい?」「何も飲めねえ」「ですよねー」 わかってるわかってる、と取り出した缶をあちち、と手の中でジャンプさせる。

「静雄、あけてー」
「おう」

えっちらおっちら私の肩にのぼった静雄に、どうぞと缶をさしだした。お仕事に嬉しそうな彼である。「うおら!」 バキッという音とともに、上手に開かれた缶の口に満足して、私はごくごくとコンポタを飲んだ。うまー。





「ねえ、ケータイが大きくなるアプリがあるんだって」

そんな友人の言葉を聞きながら、私は「へー」と生返事を繰り返した。変なアプリもあるものだ。教授の授業の声が大教室に広がってる。遠い黒板に目を向けて、かりかりと鉛筆を動かした。ぺたんと机に座った静雄にはサイレントモードをお願い中だ。

机の上にちょこんと座りながら、ぼんやり瞳をきょろつかせる。教授が書いた黒板を見て、うん? と首を傾げて、鼻の頭に皺を寄せた。意味がわからないらしい。(暇そうにしてるなあ) つんつん、と私はボールペンのさきっちょで、静雄をつついてみた。きょろりとこっちを見た静雄は、何すんだ、と不満気に小さな手のひらでボールペンを叩いてる。楽しい。

サイレントモードなのだから、おしゃべりはできぬだろう、とにやにやいじくっていると、むっと眉をひそめた静雄が、私の筆箱の中にごそごそと金髪の頭をつっこんだ。
そうして取り出したシャープペンを軽々と持ち上げて、ノートの端にかりこりと文字を書く。

『てめえやめろ』
筆談おしゃべり。
あはは、と私は笑った。いやだよー、とつんつん先っちょでつついてやった。
『だからやめろっつってんだろ!』

怒った文字が、ぴんぴんノートの上ではねていた。





噂の携帯アプリをダウンロードしてみた。想像以上に静雄は大きく変わってしまった。
「でっか!」
思わず叫んだ。まさかの180センチ越えでした。

隣で歩くとどうにも威圧感のあるその青年は、サングラスの向こう側からじろりと私を見下ろした。なんとまあイケメンに育ってしまって、と付属のタバコバッテリーを口にくわえる青年に、不思議な気分になってくる。

それにしても静雄が大きくなると、電池をくうし、電車代だって二人分で、ソファーに座っていると、よっこいせと無理やり大きな体をこっちの寄せて座ってくる。狭い。
その上臨也ケータイからの着信は勝手に拒否するし、ノミ蟲とか登録するしで、やりたい放題、ちょっと待てという感じだ。

それでもなんだか静雄がうれしそうなので、なんとなく元に戻れと言えないまま、二人で一緒に公園に向かった。ぽかぽか日向ぼっこをする作戦である。「静雄、はい」 いつもの癖で、私は買った缶を静雄に渡した。静雄は長い背を折り曲げて、「おう」とそれを受け取った。そうして激しく粉砕した。

「…………」
「…………」
「えっ、アルミ缶?」

そういう問題でない?

くしゃくしゃに潰れて、中身がぴゅーぴゅー飛び出る缶を二人でじっと見つめ合って、「あ、水没、水没!」 防水付きだとは知っているけども不安にある。慌てて私は静雄の手をふいた。感電してない、大丈夫、と安心ため息をついて、「もう一回だ」と悔し気に人差し指をつきたてる静雄に、お、おう。と頷きながらチャリンと100円玉を投入した。そうして静雄は粉砕した。

「静雄、も、もどって、もどって、お願いだからちいさくなって……!」

もう一回だ、とぶるぶる指をつきたてる彼に首を振った。静雄は嫌だ、と唸りながら、「うおら!」となぜか自動販売機ごと持ち上げた。ばきばき砂埃が宙を舞っている。「ぎゃー!!!」




太陽電池で長持ちケータイ、力持ちなしずおふぉんはいかがですか?