もしギルガメッシュがケータイだったら







ここは携帯達の墓場である。


という冗談はさておき、私は紙をはさんだボードを片手に、カリコリとボールペンを動かした。机の上にはケータイが一台、仏頂面で座っている。金髪きらきらの青年ケータイは、どっかとでかい態度でなんだか笑えた。
こつこつ、と私はボールペンのおしりでこめかみを叩いた。

「……えー、それで? きみ、名前なんだっけ?」
「我に気安く話しかけるな」
「はいはい、オレニ・キヤスクさんね」

オッケイオッケイ、と頷きながら調書に書き込む。「馬鹿か貴様は!?」 キレられた。
しょうがないなー、と溜息をついて、着慣れた制服の襟をなおす。「それで、迷子のケータイくんのお名前はなんていうんですかー」

さっさと教えてくれないと、いつまで経ってもお家に帰れませんよー、とガツガツボードを叩いてみた。
ここは携帯達の墓場である。
もとい、警察。もとい、ケータイ専用おとしものセンターである。





ギルガメッシュ。やっとこさ確認できた名前を書き込んだ。見た目、きんきら、性別、男。出来る限りの空欄を埋めながら、「ギルガメッシュくんはなんで迷子になっちゃったのか教えて頂けますか?」 態度が尊大な携帯には、なるべく下手に。これが長年のおとしものセンターにて学んできた極意である。

「フンッ、迷子? 我が迷子であると? 我はサーヴァントの中で唯一の単独行動スキルを持つアーチャーであるぞ? 好き勝手にどこになりと訪れたところで問題はあるまい」
「携帯の大抵は単独行動できるんだけどね」

迷子理由 : お母さんとはぐれた

めんどくさいので適当にそれっぽい感じでかいてみた。
「えーっと、それで、ギルガメッシュくん。きみの持ち主さんを教えてくれるかな?」

住所に電話番号がわかれば、すぐさま問題は解決だ。ギルガメッシュくんは、腕をくんで、不遜げにフンッと鼻から息をふきだした。「誰が誰の持ち主だと? 寧ろ我があやつの飼い主だ! 我がいなければ、あやつは何もできぬに等しいのだぞ?」 持ち主、オレガさん。もうそれでいいや。

「それできみの住所は? 電話番号は?」
「なぜ貴様のような雑種に、我の情報を与えねばならぬ」

セキュリティモードは高めの設定であるらしい。






「きみねー、そんなんじゃいつまで経ってもお家に帰れないよ?」
「帰る必要などない。迎えなどいつでも来よう」
「余裕だなあ」

大抵の携帯はしょぼくれながら端っこの方で体育座りをしているというのに、こういうタイプは珍しい。「雑種。いつまでぼうっとしているのだ。王を敬え。そして酒の一つでも振る舞わぬか」「職務中なんでねえ」 人間であったのならカツ丼の一つでも食べさせてあげたいところだが、残念ながら無理である。

「ふんっ、仕方がない。まあ、貴様ら民に、王の器を見せてやるのもまた一興」

なにやら一人で唸るギルガメッシュくんに、納得してくれたのならありがたい、と頷いたとき、ギルガメッシュくんは、バッと両手を開いた。ギクリとした。

「この世の全ては我のものだ! 我は宝具を用いて、どこへなりとて、宝を取り出すことができる! 我が貴様に最高の酒を振舞ってやろう!」
「いやいやだから職務中だってば!」
「遠慮はするな、ならば最高の水だ!」
「いらねえ!」

というか、宝を取り出すことができるとはどういうことだ。携帯には、それどれ独自の得意分野がある。ギルガメッシュくんの特殊スキルの何かだろうか。そんな携帯聞いたことがないぞ、と私はゴクッと唾をのんだ。両手を開いてポーズをつけ続けていたギルガメッシュくんを緊張の面持ちで見下ろした。すると、ちらりとギルガメッシュくんがこっちを見上げた。「お前、ちょっと紙を出せ」「紙?」 これでいい? とメモ書き用の紙を渡すと、うむうむ、と頷いて、私からひったくったボールペンにて文字を書き始めた。


ネット通販  あまぞん
お届け者  六甲の水
届け先  警察
請求先  綺礼


「満足気な顔をしてないでさっさと取り消し中止しなさい」

来るのは明日かあさってでしょうか。






持ち主さんの名前が珍しくてよかった。お陰ですぐに連絡先が割り出せた。
綺礼さんというやってきた牧師さんに、さっさと持って帰ってくださいと(自称)王の首根っこをひっつかみながらパスさせて頂いた。王様の相手はコリゴリだ。
「お礼はまたのちほど」と淡々とした声で頭を下げたその牧師さんに、お気になさらず、仕事ですんでと返事をして、さて次のおとしものはと部屋の中で椅子を回した。
元はただのおとしものセンターであったのに、昨今増える携帯の一人歩きにて、迷子保護センターへと早変わりしていく事実である。

それから数日後にお礼とばかりに言葉を添えて届けられた六甲の水を見て、だからいらねえ、と私は一人言葉をつぶやいた。