もしルークがケータイだったら






「ルークー! また勝手に差出人の宛名を変えたでしょー!」

あんたって子は! と私は彼が書いたメール文をぐしゃりと握りしめて、おもいっきり叫んだ。当の本人といえば、手のひらサイズの体には大きすぎるソファーの上でごろんと寝っ転がって、ぴーぴー口笛を吹いている。

「んだよ。別にいわれた通りに書いただろ」
「中身はね! でも宛名、宛名のとこ!」

少し前から流行りだした人型携帯には、自分で考えて、判断をする機能が備わっている。その思考回路は携帯ごとに差異があり、それぞれによって、初心者向け、玄人向け、はたまた子どもや老人向けなど、様々な種類が取り揃えられているのであるが、私のケータイ、ルークふぉんは、その中でもちょっとくせものな性格な持ち主であった。

「あー?」

ルークは長い髪をばさりと揺らしながら、よっこいせと私が叩きつけたメール文を覗いた。中身はいい、中身は。問題は、一番最後である。「ここ!」 差出人 親善大使。様。

「誰が親善大使様だ! 誰が!」
「俺だろ?」
「これは私のメールですから!」

携帯が自分で書きやすいようにメール文を変えてしまうことなど、よくあることである。けれども差出人をいじるとはきいたことがない。「ちっちぇーこといちいち気にするやつだなー」ともごもごほっぺをふくらませて、ぽいっとチキンの骨を投げ捨てるルークを見て、「こらー!」

「勝手に充電しない! ついでにバッテリーの骨はちゃんと分別して捨てる! 何回も言ってるでしょ!」
「あーあーあーもーうっるせー!!!!!」








これでも、今は随分マシになった方なのだ。やってきた当初はといえば、メールを頼めば、なんで俺が書かなきゃならないんだとそっぽを向いたし、一日の大半はお昼寝タイムで、起きたと思えば勝手に竹刀をぶんぶん振り回してバッテリーを消費する。
おサイフケータイの機能を使おうにも、お金という概念がいまいちよくわかっていなかったらしく、「勝手にただでもってけばいーじゃん」なんて恐ろしい犯罪行為を私の頭の上でつぶやいていた。慌ててルークの口を塞いで、店員さんに頭を下げたのは懐かしい思い出だ。

今でも変わらずぐーたらぐだぐだ、としているものの、「ルーク、ちょっと電話したいんだけど」といえば、へいへい、とめんどくさ気に腰を起こして反応してくれる。くれる。してくれるはず。「ルーク! おきろー!!!!」 私はルークの右耳をひっつかんで、ぐいんと持ち上げた。スリープモードはこっちが指示したときだけで十分です。






「前々から思ってたんだけどさー、ルークってネットつながってるよね?」
「当たり前だろ」
「じゃあ動画とか見れる?」

電話は声で、メールは手書き、写メも手描きでがんばるのだから、動画もちまちま紙に書いてくれるのだろうか。しかしながら、一枚一枚それとなっては、処理速度に限界を感じる。
うーん? と口元に指をあてて考えている私に、「ふふん」とルークは尊大に胸をはった。「俺にできねーことはないからな。ちょっと待ってろ、おすすめ動画を検索してやっから」「おおお」 なんだかちょっとルークに頼りがいが見えてきた。

しゃかしゃかしゃか、とルークは頭の中を回転させて、ついでに一緒にくるくる体まで回転させて、ネットサーフィンを始めたらしい。そのポーズがないとできないのだろうか。
唐突に、ルークは体の動きを止め、パチッと瞳を開いた。「動画再生!」 カッと気合を入れた表情で、両手でカッコイイポーズに作る。ごくり、と私は唾を飲んだ。


ルークが、黙々と一人でフラダンスを開始した。
そうしてくるくると回転し、両手をバタバタさせる携帯を見つめた。


「どうだ!」
「え、どうだって、え?」

達成感に満ち溢れた表情で、額の汗をぬぐうルークには申し訳ないが、体で動画を表されても、まったくもってわからなかった。







ルークに兄弟型携帯が誕生した。もともと、ルークによく似たアッシュ型携帯も発売されていたのだが、こっちはちょっと違うらしい。ルークよりも髪は短くて、ひよこみたいな髪型の男の子は、私を見ると、きょときょとと瞬きをして、「よろしくおねがいしますっ!」と礼儀正しく頭を下げた。発売キャンペーン中の無料配布に応募してみたら、くじ運の良さが発揮されてしまったらしい。二人のルークを見比べて、ちょっとした壮観だ、と私はうんうん頷いた。

元は同じ性格だからか、なんだかんだと言って、ルーク1号(長髪)とルーク2号(短髪)はよろしくやっているらしい。若干遠目でみてみると、長髪が短髪をいじめているようにも見えなくはないが、私は放置主義であるので、そのままスルーすることにした。

「おーい、みてみろよー!」
「なんだい一号。あんまり新入りはいじめちゃいかんよ」
「いじめてねーよ。なー!」
「お、おう!」

そんならいいが。

長髪ルークが、ぱしん、と短髪のルークの背中を叩いて、二人でこしょこしょ作戦会議を練っている。どうしたもんだ、と私は首をかしげながら彼らの前にしゃがみこんだ。「リベンジだ! 今度は二人だからな、より動画がわかりやすく再生できるはずだ!」「おお……」 がんばれがんばれ、と二人のルークがしゃかしゃかネットサーフォンをしてくるくる回っている様を見下ろした。何度もいうが壮観だ。


「「動画再生ッ!」」

カッ! と彼ら二人は瞳を見開いた。
そして黙々とフラダンスを始めた。


「どうだ!?」
「どうだった!?」
「いや、ちょっと、わからんかな……」

あと10人くらいルークが増えれば、動画再生ができるようになるのだろうか。

想像すると、ちょっと邪魔だった。