お正月リクで、ストレンジロットの続編ってことで。
続編っていうよりおまけ編です。そしてあいかわらずオリキャラ中心です。
それでもいいよーという方はどうぞ。
あと途中下品です、すみません。





如月秋葉は悩んでいた。
一つ大きなため息をつきながら、ぽこんっ、とハンコが書類に一つ押す。その隣では、生徒会長候補、が一生懸命な顔をして同じくハンコを押している。けれどもどうにも不器用なようで、「あっまがった……!」とか、「ああっ、うすい……」とか、「あ、うああっ」とか時々小さな悲鳴を上げているので聞いていて少し怖い。
そして自分の正面には、市井輝。一応教師かっこスパイかっことじだからか、飄々とした顔でぽこぽこ優雅にハンコを押す。


部屋の中には無言で支配されていた。ときどきが「あっ」「うひゃっ」とか言う以外。秋葉はふー、ともう一度ため息をついた。そうして、なんともなしに正面の市井を見てみる。彼は眼鏡の奥の薄い瞳を剣呑に引き締め、こちらを見た。なんだ、と秋葉は瞳を細める。かりかりと手元の紙に何か文字を書いた。そして秋葉へと、すっと文字を渡す。


「あっ」とか言われると、ちょっとえっちな気持ちになりますよね


ぐしゃっ。「ぶっころす」「やだぁ、秋葉くんたら図星ですか?」「シネ」「うわこわい」 袖口から取り出したまち針を市井の顔面めがけて投げつけた。市井はへらへら笑いながら針をかわし、その背後の壁に一本ぴーん、と針が突き刺さる。

「市井先生? 秋葉くん?」

そこでやっとこさがちょいっと顔をあげた。ハンコを片手に不思議そうな顔をしている。市井はへらへら笑いながら誤魔化して、秋葉は特に反応することなく書類にハンコを押し続ける。

「生徒会って大変なんだね。こんなにたくさん書類があるんだもん」
「そうですねぇ。僕たちがもし生徒会役員にでもなっちゃえば、これが毎日ですもんねぇ」
「大変ですよねー」
「ねー」

そう、本日の任務は現生徒会役員のお手伝いだ。厳正なるくじにて、生徒会役員候補への任務は決まる。今回は比較的楽だったのだろう、と秋葉は思う。単純作業は好きだ。けれども今はすこしだけつらい。なぜなら如月秋葉は悩んでいるから。
単純作業をしていると、ひょっこり悩み事が顔を出すのだ。

「会長、市井。真面目にやれ」
「あ、うん!」
「秋葉くん秋葉くん。一応僕先生なんだけど呼び捨てなの?」
「黙れ」
「ハーイ……」

これだ。如月秋葉の悩み事。
会長。



お前を会長に認める。そう言う意味で秋葉はの呼び名を改めたのだ。。最初は名字で呼んでいたのに。

「会長、あとどれくらいだ」
「んー、最初の半分は減ったかなー」
「はいはい秋葉くん、僕はですねー、三分の二は終わりましたよー」
「そうか、会長頑張ったな」
「あ、ありがと……」
「先生二人の間に入れなくて泣きそうです」

(今更呼び名なんて変えれない)

別に、いきなりそんなこと思いついた訳じゃない。ちょっとしたきっかけがあったのだ。何故だか、あんまり思い出したくないのだけれど。この間のことだ。秋葉はぽこぽことハンコを押しながら記憶をさかのぼった。入学式の桜はとっくに散っていた。




「……誰だ、そいつ?」
「榎本さん。秋葉くん先輩なんだから、失礼なこと言っちゃだめだよ」
「いいよ、さん。こんにちは秋葉くん」

秋葉がと二人並んで下校していたときだ。知らない男を見て、「榎本さん!」と手を振った。なよっとしていて、大きな眼鏡で、なんだか幸が薄そうだ。よくわからないが、秋葉はその男に対して随分ネガティブに考えた。なんでだかわからないが、その榎本という人がどうにも気に食わなかったのだ。(…………榎本?) よくわからないが、胸の中で何かがひっかかる。(榎本)どこかで聞いた名前なのだろうか。わからない。

「…………こんにちは、榎本サン。会長行くぞ」
「え?」

え? と返事をしたのは榎本の方だった。まるで自分が呼ばれたような反応に見えたが、多分気の所為だ。秋葉はその榎本の妙な反応が、なんとなく気に食わなかった。と自分の間に、急に割って入られたように感じたのかもしれない。

秋葉はの手をひいて「それでは」と榎本に軽く会釈をした。「秋葉くん、秋葉くん」と後ろでが怒ったように呼び止めている。
(……女子を、会長って呼ぶのは、もしかして変なのか?)秋葉は暫くをひっぱったあと、ぐるりと振り向いた。つん、と唇を尖らせて怒っているに、「おい」と声をかける。「なんなの?」というように、の顔は怒ってた。そのことに少しだけひるんだが、秋葉は構わずを見下ろす。

の方がいいのか?


そう言おうとして、それがまた変な台詞だということに気付いて、口をつぐんだ。の掴んでいた手をぱっとはなし、特に会話もないままお互いの家へと帰宅した。




ぽこぽこぽこ

ひたすらハンコを押している。と、まぁそんなことがあったのだ。あれからまた秋葉は考えてみたが、から会長へと呼び名を改めたのは、お前のことを認めたぞ、という口下手な秋葉の意思がこもっているのであって、それを会長からへ元に戻す、ということは、お前など見限った、もう知らないという意味になるのではないか、と思考が堂々巡りしたのだ。

いや、待て。とまた自分自身に訊いてみる。がそんなに深いことを考えていると思うか? こいつは基本的にお気楽平和な平凡な女ではないか?

あいかわらず、「あっ」「ひひゃーっ」とかいいながら頑張ってハンコを押している女を見てみた。そうしたあとに、なんとなく市井を見てみると、市井はにやにやといやらしい笑みを顔に張り付けていた。この男はの前ではいい子ちゃんぶるくせに、秋葉の前ではかっこスパイかっことじの本性を現すのだ。

かりかりシャーペンを動かして、その手の動きがまたアホなことを書こうとしている、と秋葉は気付いたので、即座にマチ針を投げつけた。秋葉はある意味全身凶器の男である。刃物を体中のいたるところにしこんである。

「あっ、あうー。ひゃうっ、ひっ、ひあー」
「会長お前その口閉じろまじで」

ほんとに一瞬妙な気分になった。

よくわからないが、悶々とする。会長、会長と言う呼び名。なんだこれは。悶々とする。




「欲求不満か? 弟よ」
「…………弟にそういう台詞を言わないでくれ」

のぼった木の上には先客がいた。如月香澄。秋葉の姉だ。暴力的なまでの力を持ち、常に秋葉を苦しめる。秋葉はこの女が怖くて怖くて仕方がなかった。だから凶器を持ち歩くと言った、サディスティックな女の弟にふさわしく変態的な行為をしていたのだ。そして今も刃物が身近にないと落ちつかない。

少なくとも、この間殴り合いのケンカをしてからか、ほんの少し姉に対する苦手意識は減った気がしていた。それは本当に少しだったのだが。


秋葉は木から即座に飛び降りると、その場所を刃が一閃した。太い枝がごろりと転がり落ち、秋葉はあきれたように姉を見上げる。そして如月香澄も同じく飛び降りる。

「さて、欲求不満なのなら相手をしてやろう。スポーツをすることはいいストレス発散になるのよ?」
「ごめんこうむる。あんたと違って、俺は姉弟で殺し合いする趣味はない」
「あらあら。失礼な男だこと。つれないことを言うな」

投げられた刀を秋葉は紙一重でかわした。薄く切れた手の甲を軽く舐め、腕を振る。その瞬間、袖口から八本の刃物を取り出し握りしめ、如月香澄へと刃を投げる。避ける。避ける。避ける。避ける。そして受け止める。如月香澄は秋葉が投げた一本の果物ナイフを握りしめ、薄く空気を薙いだ。その瞬間、空気が裂けた。

裂けた空気は亀裂を生み、まるでかまいたちのように秋葉へと叩きつけられる。

「…………っ!」
「あら、壊れてしまったわ」

もっと丈夫な獲物を使いなさい? と香澄は砕けたナイフを地面に落とす。たかが一本のナイフでやってのけた芸当に、秋葉は苦笑した。そして色んなことが馬鹿らしくなってきた。「あなたはあの小娘を守るのでしょう。そんなに弱くてどうするの」「そうだな」「あら素直ね」

そうだ。
じゃらり、と体中から大量の刃物を取り出した。「こんなこと考えてる場合じゃないんだよ」 秋葉は考える。を、自分は副会長候補として守らなければいけない。悔しいことに、今の自分では同じく候補の市井にも、そしてこの女の足元すら追いつかない。自分は弱い。

そう、秋葉はイラついていた。突然現れた榎本という男に、何故だか腹を立てたのだ。そして会長と呼ぶことしかできない自分に、無力感を感じた。名前で呼びたかった。なぜかわからないが、と、のことを、秋葉はそう呼びたくて仕方がない。

自分でもよくわからない。ただの護らなければいけない相手を大切に思うが故の感情かもしれない。女はよくわからない。身近にいる女が、こいつみたいなアグレッシブなやつばかりだったからだ。
(強くならなければ)

秋葉は香澄と刃を向かい合わせた。ありがたいことに、今の自分には目標がある。力を真似すべき相手がある。そしてその相手を、秋葉は強く睨む。この女に勝つことができるまで。
(考えることは、お預けだ     !)




いつか、呼んでみせるから





秋葉くんが、これまたボロボロの格好で登校してきた。この前階段から落ちたと言ってきたときのように、片手は骨を折ったのか首から包帯でつっているし、もう片方の手には松葉づえをついている。
私はぽかんとしたまま秋葉くんを見て、「ああああああ秋葉くん!?」「自転車でこけた」「い、意外とどんくさい!?」 またですか。またなんですか。階段から落ちたと思ったら、今度は自転車ですか。

「秋葉くんは、もっと体を大切にしなさい!!」

私はびしっと秋葉くんに対して指をさした。すると秋葉くんは、いつもは無表情で、もしくはちょっと不機嫌な顔しかしない表情を、困ったように眉をひそめて私をじっと見つめる。

「それは、命令か?」
「え?」

なんで? というように秋葉くんを見てみた。秋葉くんは捨てられた子犬みたいにしゅん、としていて、松葉杖を居心地が悪そうに直す。秋葉くんは私と同じ生徒会副会長候補だ。私が会長という立場上、秋葉くんは一応下の、部下? ってことになるんだろうけれど、別に命令とか、そんなことはあんまり考えていない。っていうか普段秋葉くんの方が偉そうだ。

私はうーん、うーん、と唸った後、秋葉くんって意外とおっちょこちょいだもんなぁ……と考えた。これだけ短い間に結構激しい怪我を負っているのだ。もうちょっと周りに気をつけた方がいい。いつか死んでしまう。私はうーん、ともう一回唸ったあと、命令って言えば気をつけてくれるかなぁ、と考えた。「う、うん、そう」「わかった、善処する」……善処とか使っちゃう学生は初めて見ました。

相変わらずぽっきりと折れていそうな秋葉くんの腕を見て、私はぴしっと手を挙げた。

「秋葉くん、それじゃあまた明日から、秋葉くんのお弁当つくったげる。あーんだからね」
「う、そ、それは、命令か?」
「ん、命令です」
「わ、わかっ……た」
「嫌ならいいよ?」
「そういう訳じゃない……!」

意外にも、力強い言葉に、私は目を瞬かせた。秋葉くんもしまったというように、眉をひそめたあと、耳を少しだけ赤くして教室への階段を上がろうとする。危ないなぁ、と思って腰を支えてあげると、秋葉くんは激しく耳を赤くした。おおお、恥ずかしがらせてしまったかもしれない。この頃気付いたのだけれど、秋葉くんはちょっと恥ずかしがり屋なのだ。すぐに耳を赤くする。

それに気付かないふりをして、私と秋葉くんは二人っしょに階段を上がった。明日のお弁当の中身、何にしようかなぁ、とか考えながら。




<そしてとあるスパイからの報告>

市井輝はスパイである。如月秋葉にはその正体をすっかりばれてしまっているが、別にそんなことは気に留めていない。所詮は学生。所詮は生徒会候補。誰に自分を報告したところで掴める足は持っていないし、そもそも秋葉の性格からその可能性も低いだろう、と彼は考えていた。

相変わらず生徒会候補の毎日を送り、とくに立橋院の情報を握ることもできず、ひたすらチャンスを待つのみの日々である。生徒に授業を教えるのも、そろそろ板についてきた。焦らず焦らず、と市井は今の状況を楽しんでいたのだが。


「はい、あーん」
「あーん」

(…………この光景なんとかならないのかな)

ずれてもいない眼鏡を直しつつ、市井は屋上にて正座した。自分のコンビニ弁当をつつく手がむなしい。
やっとこさ終わってくれたと思ったいちゃつき地獄が再びやってきたらしい。いや、いい。好きなだけいちゃついてくれたまえ。けれども僕の前はやめてください。

秋葉は自転車でこけたと主張していたが、おそらくそれは違う。彼の姉である如月香澄の愛の鞭を受けた結果なのだろう。秋葉くんって弱いけど意外とタフだよねー、とかスパイは考えた。もちろん、この場合の弱いとは一般人の目線ではなく、市井のような裏の人間からの視点だ。

タフなことはいいことだ。技術など、後からいくらでもなんとかなる。ふー、と市井はコンビニ弁当の巻き卵をほおばった。そしてフッ……。と短く笑う。どう考えてもあっちの手作り弁当の方がおいしそう。「次何がいい?」「ウィンナー」「はいあーん」

どうしようかな。もう僕の分も作ってくださいとか言おうかな……。でもスパイだし……なんとなくプライドとかあるし……。「あーん」「おいしい?」「ん」 そしてこいつら延々といちゃついてるし……。

いや、あーん、くらいならまだいい。膝枕とかし始めたらどうしよう。想像した。砂吐きそう。ぶっちゃけ泣きそう。いや、膝枕ならまだいい。彼らが付き合い始めちゃったりとかしたらどうしよう。その若さにはついていけない。いたたまれない気持ちになりそう。なんで僕ここにいるの、みたいな。一人身には辛い光景である。

「もうスパイ、やめよっかな……」
「あれ、市井先生、何かいいました?」
「なんでもないですよー」

とある男女のいちゃつきが、予想外にも、一瞬とあるスパイを更生させかけてしまったことをここに記しておく。

結構この状況きついです。




2011.01.03
おまけ編です! 本編に入れられなかったエピソードを無理やり挿入。秋葉くんの主人公への呼び名が、途中で会長に代わってるとか地味すぎる主張すみません。
趣味に走りまくって完璧なるオリジナル状態だから、ついていけないんだよゴラァ状態ですみません(´・ω・`)
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