足が向かう。首に巻いたマフラーに、息を吹きかけると、ほんのり湿った。


日番谷視点で、第6話   時間差フリーズ





さんと、話せた)

ほんの少しの一言が、頭の中でぐるぐると回って、無性に叫びたい気分になってしまう。カチカチと動く時計の秒針が、とても遅くて、もっと速く回ればいいと無茶な願いをこめてしまう。
さんの声を思い出すと、心臓辺りが締め付けられるように痛い。念のため勘違いしないようにいうと、痛いけれども、痛くない。
簡単に言えば、嬉しい痛みだ。苦しいけれども、どこか心の中に幸福感がつきまとう痛みなのだ。



やっと、いつもの時間だと回った時計を確認して、走り出したい気分を抑えながら靴を履いた。ほんの少し、小刻みに手が震えるのは、こないだみたいに緊張のあまり、という訳ではない。
心臓の音に、体も合わさってしまっているらしい。

踏み出した先に向かう足は、コンビニへだ。
     もしかしたら)
(もしかしたら、また、彼女と話すことができるかもしれない)


頭の中で、そんなシーンがぐるぐると回って、もしかしたらが、きっと、にと変わっていく。だっ、と動いた足が、リズミカルに駆け上がった。靴が地面を叩く音が、リズミカルに、心臓へと流れてくる。(話せるかもしれない!)
はっ、と短く出した息が、またマフラーへとかかる。熱い。首もとへと手を伸ばして、その布を、がっと引っ張った。コンビニは、すぐ目の前だ。


ぶわり、と舞った茶色いマフラーが俺の目の前に覆い被さって、24時間と書かれた文字が、消えた。そのままゆるゆると地面へと沈んでいく視線の先に、彼女がいた。
細長い棒を持って、ピタリと止まり、誰かと話している。
見たことがない男だった。彼女よりも幾分か高い身長で、彼女の肩へと伸ばされた手を、彼女はそのまま受け入れている(     誰だ)

大きく心臓が鳴った後、頭の中が、冷水をぶっかけられたみたいに、妙に冷静だった。しんとして、音が遠い。通り過ぎた車のガソリン音も聞こえない。ほんの一瞬にモノクロになった背景に、ただ真っ直ぐ、彼女だけに色が移った。
彼女は笑った。男も笑った。(     誰だ)(いいや、あの男が誰だとか、関係、ないのか)


彼女は俺に笑わない。俺も彼女に笑えない。
(話せるかも、しれない、だって?)

ほんの数秒前までの自分が、とても憎たらしい。ぐ、と握りしめた布は、皺をおびる。ついさっきまで、頭の中の俺は、彼女と笑って笑みを交わして、一言二言、言葉を交わしている想像をしていた。それだけで、胸の中が、無性に高まった。

どこかおかしいと、頭の中では分かっていたのだ。
(ピタリと小さなピースが挟まる)



「俺は、ただの客だった」
それ以上でも、以下でもなく。


ピタリと、俺のマフラーは、地面にくっついてしまって、それ以上進むことが出来なかった。



1000のお題 【987 一瞬のひらめき】


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2008.05.08